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11/13 文章と内容を一部変更訂正しました
中央大陸で最も古く最も広大な土地を有する魔人族の国。その魔族国の南沿岸部には幾つかの小国家群が存在し、その一つが南東部に位置するアヴァンディール王国だ。
魔族国の西にはルスキア帝国、西北にはプレニア皇国が位置し、両国は200数余年の戦火を繰り返している。元々西のメセン地方には大小様々な国が存在していたが、200年の間に幾つかの国が消え、または併合し、現2大国家が誕生した。
中央大陸の北部の国家群は、西の大国との間を【竜の寝床】と呼ばれる天を貫く山脈と谷に守られ、戦火を免れてきた。この北部と南部の貿易航路の拠点として、ルーキス=オルトゥス辺境伯領は重要な位置を占めているのだ。
コウが生まれ育ったのは、北部のとある小国家と魔族国領の境界に位置する小さな村だ。
中央大陸西部に生まれた獣人族は不幸だ。卑しい種族として人族からは侮蔑され、永く続く戦争で戦奴として若い命を散らす獣人族は多い。コウ達銀狼族はそういった戦火を逃れて、北部へ移り住んだ獣人族の子孫だった。
魔族国はいつの頃からか他種族との関わりを絶っており、彼らにとっては人族も獣人族も大差はない。魔族国の広大な土地の、それも辺境へ隠れ住む獣人族程度の事には無関心だった。
コウ達獣人族には一切の魔力が無い。だがその強靭な肉体と驚異的な身体能力で、危険な魔獣が生息する森の中での居住が可能だった。ただし、魔獣や獣人狩のハンター達が使う魔術に抗する手段を持たない彼らは、時として捕縛され戦奴となるべく連れて行かれる。
そこでいつからか、同じく辺境に隠れ住んでいた魔人族たちと共存するようになった。それが、コウの幼友達である魔人族・セッカの種族だ。
その魔人族は、魔力を持ってはいるが戦う事を得意とはせず、またその特殊な体質によって人に狩られてきた彼らもまた、西の戦火の被害者だ。
銀狼族の戦闘能力とその魔人族の治癒・幻影・支援魔術によって、互いを護り、共存関係を築いてきたのだ。
「かじんぞく?」
「そう、花人族。それがセッカ達の種族だ。といってもセッカは花人族と月鬼族との混血だけどな」
「花人族、狙う、魔族国の偉い人、何故保護しない?えっと、魔人族、子供大切。他種族同じ」
確か、アル君が言っていた。魔力が高過ぎで子供が授かり難い魔人族は子供をとても大切にすると、だったら種族が違っても花人族を保護するのではないのか?
「花人族は魔人族の中でも子が出来やすい種族だ。だから跡継ぎが欲しい魔人族の権力者達が無理やりに婚姻を強要する事があったらしい。花人族っていうのは不思議な種族で、たった1人の相手と結ばれると、他の異性の子供は授からない。そのかわり、たとえ相手が同性であろうとも、惚れた相手ならば自分の性別を創り変えてでも添い遂げるんだ」
『えー性別変換できるの!?面白くない!!』
花人族はその体質故、子の性別を問わず高値で取引されるらしい。人族からも魔人族の権力者達にも狙われているんだとか。雫的には、腐った展開がない種族など何の興味も惹かれない。
「ああ、だから、魔人族からも人族からも、隠れる?納得」
「子を成すのは魔人族でも重要だしな。人族の中にも高い魔力を有した子供を望む奴がいる。まあ主に魔力の高い子供を生ませて、戦力にしようとする西方地方の国だけど」
西方地方の2大強国は獣人を戦奴とするかたわら、高い魔力を有する兵を集めていた。しかし魔力の高い種は子が出来難い、それは人族も同じだ。だから、花人族をさらい、高いい魔力を持った子を産ませ、兵として戦地へ送ろう画策することが過去あったらしい。
「ふん…とりあえずは、ドア蹴破ってセッカの救出だな」
あ、強行突破っすか。そうですか。
「適当に倒した相手から武器を奪って、セッカの居る部屋まで一気に行くぞ」
「場所分かる?」
「セッカの匂いを辿って行けば簡単だ」
「セッカ見つける、その後は?」
「見つけてから考える!!」
あ、無計画ですか。そうですか。
「わかった、頑張る、船下りる、港行くは役人いる。私に任せる」
この船さえ下りてしまえば、港の人に助けを求めることが出来る。たしか、港湾警備をしている役人がいたはずだ。
南街での時の様に、泣いて黙っているだけでは自分達が助かる道はない。もう引籠りだコミュ症だなどと言ってられないのだ、共通語だって頑張って勉強したのにここで役立てなくてどうする。片言でも良い、シャール様が後見人だと伝えて保護してもらわなければ!!
「雫は戦えないからな俺が護る。だけど…万一の時はセッカを連れて逃げてくれ」
コウが独りで戦っても多勢に無勢。この脱出劇が上手くいくかも分からないが、コウは身体を張って雫とセッカを逃がす血路を切り開くつもりなのだ。
「大丈夫、武器ある。ただし、使うは1回、切り札。頑張る一緒、逃げる一緒」
2人でギュッとハグしあった。何があっても逃げ切るのだ。
「うん、必ず逃げよう。一緒だ、雫」
―――グラリ。
「っ!!」
「船が!!」
船が大きく揺れた。
とうとう自分達を乗せた船が出港してしまった。




