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城壁に囲われた内郭を出て外郭東街区の断崖を降りると、そこに広がるのは大きな港町だ。断崖には白い石造りの建物が立ち並び、海の碧と空の青が美しいコントラストとなっている。港には大小の船着場が海岸沿いに点在し、小さな釣り船から外洋航海の貿易船まで数多くの船舶があった。
むやみやたらと探し回っても時間が勿体無いと、まずはノクスの港を統括する港湾管理局を訪れた。
あらかじめシャールへ連絡してあったのだが、すでに各港湾局に出港禁止令が出されているとの事だ、流石に仕事が早い。
「ここ1時間以内に出港の許可申請が出された船を教えてくれ、できれば現在申請待ちの船もだ」
いきなり現れた異国の青年を訝しむ事無く職員がリストを検索する。
出港禁止の命令と共に、忍が訪ねて来たら協力するようにと通達されているようだ。
「1時間以内に許可が出た船舶は12件、うち3件は既に出航しています」
既に出港済みの船舶を確認するが特に怪しい点はなく、時間経過からいっても除外してよいだろう。
だとすれば、残る9隻が怪しい。
「その内、入港時の申告を変更して、出港を申請してきた船はあるか?」
「ええと………ああ、5隻程、予定とは違う日付での出港です」
「5隻か」
忍は役人からリストを受け取り、船が接岸している埠頭の位置を確認していると、携帯へシュルツ隊から連絡が入った。アルが代わりに報告を聞いている間に、セルウス商会の名で船舶が無いかを聞いたが、それらしい船はないようだった。
「シノブさん、シュルツ隊長からの報告では、セルウス商会が滞在していたという宿はすでに引き払われていたそうです」
「そうか………」
「滞在していたのはギルバルト・セルウス。小太りで身長は180位、髪は薄い茶、目は碧、物腰の柔らかい人物だそうです」
「物腰は柔らかいが人身売買を生業にしている小悪党って事だな。りょーかい!!」
直ぐにでもその5隻を調べに行くのだとアルは忍の後を付いて行ったが、予想に反し向かった先は港街にある酒場だった。昼間だが賑やかしい店内をのぞくと、目当ての人物が見つかったらしく、相手の方から2人へと駆け寄ってきた。
「シノブー♪嬉しいねぇ。会いに来てくれたのかい?」
そう言って忍の首に腕を絡めてきたのは、深い藍色の髪と金茶の瞳を持つ陽気な人魚だった。人魚と言っても2本の足があり、違うのは、耳の後ろに水中でも呼吸できる呼吸器があること、皮膚の表面がキラキラを光沢していることだ。
抱きついてた身体は女性らしい豊かな胸元とくびれた細い腰、そして肉感的なヒップで、人魚というよりは猫の様な印象だ。
自分の魅力を良く理解しているのだろう、秋口で風も涼やかなこの季節に反して、その身を隠すのは臍より上しかないシャツと、腰に巻かれたパレオの様なスカートのみ、大きなスリットからは腿が大胆に露出していた。
忍は身体が密着するように人魚の腰を抱き寄せると、愛の言葉を語るように耳元で囁く。
「ルサールカ、お願いがあるんだが」
「あらん、シノブのお願いを断った事があって?」
「じゃ、お願いされてくれる?」
「部屋を取った方がいいのかしら?」
「それはまた今度…」
「―――シノブさんっ!!」
そのまま愛を語り合いそうな雰囲気の2人を引きはがすように、アルは2人の間に身体を割り入れた。
「野暮な子ねぇ………」
「焼くなアル、ちゃんとかまってやるから」
「そんな場合じゃないでしょ!!」
「いや………これしないと、お願い聞いてもらえないから…」
「痴話喧嘩か?」
「ルサールカを2人の男が取り合ってのんのか?」
「いや、あの兄ちゃんを、ルーと金髪兄ちゃんが取り合ってるみたいだぞ」
「やるなー兄ちゃん」
店内が妙な方向でざわつきだしたので、店外へと場所を移すことにした。
「頼む、ルサールカ。港を出る船を邪魔してくれ」
「ええ―――!!シ、シノブさん、何を頼んでるんですか」
「へぇー、今、御領主様が直直で船の出港を禁止してるのってシノブが絡んでんのね。一体シノブは何者なのかしら?」
「俺がどんな男かなんて良く知ってると思ったけど…」
「うふんっベッドの中ではね♪―――ま、良いわ。どこの船?」
「このリストにある5隻。もしかしたらこのどれかに俺の妹が乗っているかもしれない」
「家出でもしたの?」
「違います!!雫さんは誘拐されたんです。僕が…僕がしっかりしてないばっかりに」
「あらまあ、誘拐とはまた穏やかじゃないわねー」
何故、領主が急に港を閉鎖したのか、これでルサールカも気付いたはずだ。
忍と誘拐されたという妹が、領主と何らかの関係がある事についても同様だろう。
「確か港の閉鎖は2時間だったわね。その間にこの5隻が港を出ようとしたら妨害すればいいのね。まだ港にいる船は?」
「俺とアル、あと騎士小隊が応援にこちらへ向かっている」
「足りないわね」
「頼めるか?」
「任せて♪」
そう言うとルサールカが店の中へ声を掛けた。
「野郎ども!!暴れたい奴はいるかい?」
「うぉー姉さん、出番か?」
「いつでも暴れられるぜ!」
「ルー!!ついて行くぜぇ」
口々に今まで飲んだくれていた酒場の男達が集まってきた。皆、日に焼けた肌と体格の良い、海の男といった面様だ。
「あのー…シノブさん、あの女性は一体?」
「哨戒艦艇を持つ沿岸警備隊のたいちょーさん♪かっこいいだろ?」
どちらかというと、海賊の様な仲間とそれを取仕切る女ボスだ。
ルサールカは荒くれの部下達にそれぞれの役割と持ち場を振り分けると、確認事項があるとこちらへ戻ってきた。
「あんっシノブぅひとつ確認♪」
「………なんだ?」
「シノブの妹ちゃんって似てるの?」
「いや、俺には似てないが、小さくて可愛い♪」
馬鹿兄の表情が緩む。
「じゃ、助け出したら御褒美に妹ちゃんを可愛がってあげても良いかしら?」
色っぽい身体で科を作り、近くにいた仲間らしきの若い女性を豊かな胸に抱き寄せてルサールカは問うた。ルサールカの胸に顔を埋める事になった女性は恥ずかしそうにしているが満更でもない様子だ。
「…ちょ、ちょっと待ってシノブさん、あの方も、もしやばばばば、バイ、セ、せくしゃるでは」
「んあ、そういや…そうなるのか?」
アルは顔を赤くしたり青くしたりと、忙しそうに混乱している。
「何なら、あたしはシノブが御褒美くれてもいいんだけど?」
「俺からの礼はまた今度、妹に関しては同意が得られれば幾らでも可愛がってくれていい」
「あらん、いいのね?」
「ただし、変体はするなよ」
魚人族の中でも人魚には変体能力というものががある。ただし、性別が変わる訳ではなく、あくまで生殖器の形を作り変える程度ではあるが。詳しくは説明できないが………人魚には元々より男女という性の区別がない種族なのだ。勿論、忍は身をもってよく知っている。因みにルサールカは人族との混血だ。
「分かったわ。女同士で楽しめばいいってことね。りょーかい」
「………シ、シノブさん、今のはもしや?」
「ああ、ルサールカは半分人魚だからな」
「だ、だ、駄目ですよー!!」
果たして雫の貞操は守られるのか!!
頑張れアルフレッド。




