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アル視点

「(うぎゃぁ―――――――――――っ!!)」

「おやおや…随分とお疲れの様で。ストレスも多いのでしょうねぇー。肩や首のコリもあるのでは?」


2メートル近くあるのではないかという強面の警邏が、悲鳴にならない声で悶えている。警邏の男と握手しているのは、黒髪黒眼の異国の男だった。


「どうも、妹の雫がお世話になったそうで、兄の忍です」


―――グリグリグリ


「(んぅぎやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――っ!!)」

「ああ、合谷(ごうごく)が固いなぁー。貴方の頭の中身のようですねぇー」


そう言って、人差し指と親指の骨が交差する谷間を力いっぱいに指圧する。

万能のツボと言われている合谷だ。


握手をするのかと差し出された相手の手を、忍は2本の指で挟みこのツボを押し潰しているのだ。因みに忍には林檎を片手で軽く潰す握力がある。


「あ…あの…と、止めないので?」


警邏の後輩らしき人物が、ガクブルで隣の魔術に訊ねた。人情があって慕われているが、仲間内でも腕っ節が強いと評判の先輩が、鍛えてそうな体躯だが先輩よりははるかに細身の異国人にいいように扱われている。目には薄っすらと涙さえ浮かべて…。


「む、むりです……」


魔術師もガクブルで答えた。自分のミスでもあるのだが、黒いオーラを纏った忍を止める勇気はない。

黒いボトムとジャケット姿で冷笑を浮かべた姿はまさに悪魔。しかもシャツのボタンを3つほど外しているので、肌蹴た素肌が艶めかしい。



「一度は保護しておきながら何処の誰とも分からぬ奴隷商にうちの可愛い妹を引き渡したとか……ああ、しかもその奴隷商が持ってきた書類の精査もせずに信用するとは。この頭は飾りですか?(ぐりぐりぐり)「(うぎゃぁぁぁぁぁぁぁっー!!)」人買いなら奴隷証の偽造くらいしているとは思わなかったんですか?」

「す……すま…な…い。こちらの…ミスだ」


だからもう赦して。とばかりに潤んだ瞳で見つめてくる筋肉マッチョの大男、そして、その男を冷ややかな瞳で見返し、口元にはニヤリと笑みを浮かべた魔王・忍。だがしかし、筋肉マッチョ男の行動は明らかに忍の琴線に触れるものだった。



「……ごめんなさいは?」


にっこり微笑んで男に謝罪を求めるが、手はまだ離していない。


「……も、申し訳」

「ご・め・ん・な・さ・い・は?」


ぎりぎりと合谷を挟んだままの指に力がはいる。


「反対の手も指圧して差し上げましょうか?」

「ご、ごめんなさいぃぃぃぃぃぃぃ」

「あ、泣いた…」

「せ、先輩……」


丁寧な口調だが、男に対する態度は鬼畜そのものだ。床に泣きながらへたり込んだ男を上から冷淡に見下ろし、その掌を上から踏み付けた。


「はい、いいこですねぇ。よくできました」

「痛っ……う……」


その内、頭を踏みつけそうだ。


「ひぃっ」

「こ、こうしてシノブさんに調教されていくのですね……」


後輩とアルは、イケナイ世界を垣間見てしまったようだ。


「ああ、これもそのうち癖になるらしい…何ならお前らも試すか?」


ぶるぶると首を横に振って遠慮する傍観者2名。

踏みつけられた男は何かに目覚めつつあるのか?痛みのせいなのかか?紅潮した頬には一筋の涙が…。



アルは雫の足取りが分かり直ぐに忍に連絡したが、忍も中央街で迷子の話を聞き付けこちらへ向かっている最中だった。ところが、一度保護したはずの雫が、よりにもよって奴隷商に奴隷として連れて行かれたというではないか。セルウス商会、それが雫を連れ去った奴隷商会だ。


ノクスの奴隷商組合(ギルド)に問い合わせたが、セルウス商会は他国の奴隷商で奴隷の所有証明書は偽装された可能性が高いという話だった。おそらく、街中で目を付けた子供を誘拐し、奴隷として他国で売っているだろう。彼らは本来の保護者が気付く前に逃亡をはかるはずだ、一旦、ノクスを離れてしまっては、連れ去られた雫を助けるのが更に困難になる。


元々、北方や東大陸との航路の拠点であるノクスには、補給の為に立ち寄る奴隷商も少なくない。だが、他国の奴隷がノクスで下船するには特別な許可が必要で、その際は逃亡防止の奴隷紋や拘束具である首輪や足輪が必須なのだ。

つまりは、拘束具を着けていない雫はすでにノクスで買い手が付いた(※引き渡し済みの)奴隷ということだ。だが、セルウス商会は領内での売買許可証を持ってはいない。―――と「ここまで調べ上げてから保護した妹をを引き渡せよ。この不能…いや無能が」そう説教しながら、忍は楽しそうに警邏を踏みつけている。




「シノブ殿…お待たせしました」

「わん♪」


忍が警邏隊員を踏みつけにしているその真っ最中に現れたのは、雫の愛犬わさびをつれたバーン副隊長だった。


「えっと、シノブ殿?……これは一体?」

「ああ、バーンか、このメスブ……男は雫を保護していた警邏隊員だ」


いま、メスブタと?その場にいた全員がそう思ったが、誰一人それにつっこむ者はいない。


「シノブさん。わさびをどうするのですか?」

「アル。意思疎通の魔術って犬にも掛けられるんだよな?」

「え?ええ、知能の高い飛竜や魔獣と意思疎通したという話は聞きますが……犬相手に複雑なやり取りは難しいと思いますよ」

「犬は人でいう3歳児程度の知能があるらしいからな。簡単な指示ができればそれでいい」


奴隷商組合に申請されていたセルウス商会の滞在先は、既にシュルツ騎士隊に向かわせている。おそらく既に引き払ったか、全くの出鱈目だろう。港街を探ろうにも大小で30以上の船着場があり、船の数も多い。ましてや、港を探っている間に陸路で移動してしまう可能性も捨てきれない。


アルがわさびに対して意思疎通の魔術を施すと、バーン副隊長は懐から取り出した透明な(ビニール)袋を忍に手渡した。袋の中には小さな布が入っている。


「シノブ殿、これで良かったですか?」

「ああ、言われた所にあったろ?上出来だ」

「シノブさん?それは???」

「あ"?……雫の靴下」


忍がわさびの頭を撫でて、ビニール袋に入った靴下を鼻先に開いた。


「わさび。この匂いを辿って雫の所にまで案内してくれるか?」

わんっ♪(よしきた)

「よし良い子だ……バーン。そこのメスブタを一緒に連れてわさびと雫の行方を追ってくれ」


既にメスブタ発言を隠そうともしない。


「ほ、本当に大丈夫でしょうか?」

「警察犬の訓練を受けた訳じゃないから何とも言えんが、この中では一番頼りになりそうだろ?」


他の人間…犬以下ですか?ああ、豚でしたね。


「アルは俺と来い。港に知り合いがいるからそこから当たってみよう。他の警邏隊には街道を固めてもらう、いいな?」


こうして雫の捜索隊が結成された。

犬って靴下好きですよねー


合谷は万能のツボです。痛みどめなどにも有効。

親指と人差し指の骨の間を、親指・人差し指で挟んで押したり、上から骨の下へ親指をもぐり込ませる様にして押します。


ちなみに私は手の指を全部閉じると、合谷の筋肉がぷっくりと盛り上がります。マッサージ筋……

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