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どーしよー。雫が書店で本を購入した後、彼女に待っているようにと伝えたのだが、用事を済ませて其処へ戻った時には既に姿が見当たらなかった。
彼女は日に日に共通語の読み書きが上達している。今日ここで購入した本もすぐに読み終えてしまうだろうと、ちょっとした贈り物のつもりでもう1冊本を購入していたのだが、その間に、ほんのちょっと離れたその間に、雫とはぐれてしまった。
慌てて店内を探すが見当たらず、外を探したが何処にもいない。
雫の兄である忍に電話をしたのだが家にはいなかった。すぐに、今日は後見人の屋敷に仕事に行っていたのだと思い当たり、予め渡しておいた携帯に電話する。が、何度掛けても繋がらないのだ。
ああ、領主の屋敷内に携帯の持ち込みは出来なかったのだ。大方、執事にでも預けてあるのだろう。そんな事に気付かないほど気が動転していたのだと思い当たり、自分が情けなくなった。
取り合えず警邏の詰所へ行こうとしたところで、着信をみた忍から電話が入った。
「シ…シノブざぁぁぁぁーんっ………」
『………アル……だよな?』
泣きながら名前を呼ばれた忍は怪訝そうに聞き返す。
だが、直ぐに何かあったのだと察して『どーした?』という声が返ってきた。
「し、雫さんとはぐれてしました……」
『………えっと、迷子になったのは…お前か?』
「ち、違いますぅ…」
『だよな………で?」
「ちょっと離れた間に見失ってしまって…すみません、探したんですが」
しかも、今日は勉強した共通語を実践する為に意思疎通魔術を使用しておらず、雫には難しい単語や早口な相手との会話は出来ないだろうという事も説明した。その上、自分が雫の荷物持ちをしていた為、現在の雫は購入した本以外には何も持っていないのだ。まあそれは「お金を持って歩くのが怖い」と雫が財布の入ったポーチごとアルフレッドに預けてしまっていた為だが…。
護衛として付いていながら何をやっているのだ!と怒鳴られる事を覚悟していたのだが、返って来たのは違う言葉だった。
『お前ひとりに雫を任せていたんだ。俺にも責任がある。済まなかった…』
「し、しぬぶざん……」
『あー泣くのも落ち込むのも後にしろ、警邏には行ったのか?』
「い゛ま゛、南街の警邏詰所にむがってる…ところです…」
『あー俺の所からだと中央の詰所が近いな。情報がないか確認してくる。そちらも何か分かれば連絡してくれ』
「はい、騎士隊にも捜索をお願いしておきます」
『頼んだ。じゃ、後で』
忍とのやり取りを終えて、雫の容姿を知っているシュルツ隊に連絡をする。簡単に詳細を伝えて捜索を依頼した。
早足で内郭南街を担当する警邏の詰所にすると、中へ駆け込み待機中の警邏隊員にしがみ付いた。
動揺し、息も上がり、目に涙を浮かべて、雫が保護されていないか?と訴える。
「ちょっと…待て…というか、落ち着いてください…もう一度、聞かせてもらえますか?」
「で、でずからぁー雫さんがいないんです。ちょっと目を離したすきにはぐれてしまって。この位の小柄な女性です。年は20歳、髪は茶でぇ、目もくりっとした。可愛いかたなんでずぅ。どーしたらいいでしょう」
「……んんー?そういう女性は保護されてきてませんねぇー」
「どーした?」
「あっ?先輩」
この警邏隊員の同僚だろう。厄介な人物に後輩が絡まれているだとでも勘違いしたのか?厳つい表情の男が、奥から顔を出した。
「こちらの方の知り合いの女性が街中で迷子になったそうで…えっと、20歳で小柄、茶色い髪に目がくりっとした美人?」
「幾らなんでも、20歳で迷子はないだろう…」
「し、雫さんはまだ共通語が得意ではないんですぅ。人見知り…いえ、対人恐怖症な面がありまして、親しい人以外と会話をするのは苦手というか、僕やお兄さんが一緒なら問題ないのですが…」
こちらの世界に来てからは、以前よりも積極的になったのだと忍は言っていた。それでも、自分か忍が傍にいなければ街の人との会話は出来ないようだ。明るい雫しか知らない自分は、時々忘れてしまいそうになるが、雫はつい最近まで心を病んで引き籠っていたのだ。そう直ぐには対人恐怖症も治らないだろう。
「20歳ですよねぇ。うーん………んっ?」
「どーした?」
「いえ、先輩…さっきの女の子と、何だか状況が似てませんか?」
「はぁ?あれは幼女だぞ」
幼女?何だか自分は大切な事を伝え忘れてやしないだろうか?
―――その時、部屋の隅に置かれているあるモノを見つけた。
「あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――っ!!」
其処にあったのは【よい子のまじゅつ★初級編】と印字された本だった。




