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「ふ…ふぐぅ…えっ…え……ヒックっ…」
まだ幼い少女だった。手にした紙袋をぎゅーっと抱きかかえ、俯いたまま小さく震えている。
警邏に保護されて少しは落ち着くかと思いきや、傍を人が通るだけで恐怖に震え、挙句に慰めようと頭を撫でたところでビクリっと脅えかたまってしまった。これはもしや、日常的に暴力を振るわれていたのだろうか?
だがしかし、一見したところ怪我などはしていないようだ。
「泣きやみませんね…大人を怖がっているようにも見えますし」
同僚の後輩も同じ意見の様だ。
「暴力を振るわれたって感じでもないが、見えない所に怪我でもしてるのか?」
「もしかしたら、奴隷商から買われた子供かもしれないですね。綺麗な子ですし、娼館向けやそういう売られ方する子供は、価値が下がるから傷を付けずにしつけると聞きますよ」
「おいおい…子供だぞ!!」
「そういうのが好きな連中だっているんですよ」
吐き捨てる様に言った同僚も、良い気分ではないのだろう。
「この子の保護者がもし腐った連中だったら…」
「止めて下さいよ先輩」
そう、いくら可哀想だからと言って自分達でどうにか出来る訳ではない。奴隷商ならばこの子の所有書を持っているだろうし、残念ながら自分にはこの子を買い取ってやるほどの蓄えはない。
とりあえず各地区の警邏へ迷子の通達を出し、彼女の保護者もしくは所有者が見つかるまでここで保護する事になった。万一どちらも見つからなければ、施設で保護してもらう事になるだろう。だが、彼女にとってはその方が良いのかもしれない。「このまま誰も現れてくれるな」と思わずにはいられなかった。
腹が空いただろうと同僚が何処から手に入れてきたのか菓子を渡すと、ペコリっと小さくお辞儀をして先程まで部屋の隅で食べていた。緊張していたのだろう、幼い少女は頭からブランケットをすっぽり被り、部屋の片隅で膝を抱えて丸くなって船を漕いでいる。
そんな時だった。でっぷりとした顔色の悪い男が訪ねてきた。
「こちらにウチの商品が保護されていると伺ったんですが…」
――――っち!なんて事だ!奴隷商だ。
「失礼…商品とは何の事でしょう?」
「おやおや、街ではぐれたウチの大切な商品の事ですよ」
男は目ざとく部屋の片隅で丸くなっている少女を見つけた。
「ああ、そんな所にいたのか!探したんだぞ、まったく…」
ズカズカと部屋の奥へ踏み込み、膝を抱えていた少女の手を引き起こす。
突然の事に驚いた少女は、小さな悲鳴と共に男の手を振り解こうとしていた。
「ちょっと待てっ嫌がっているだろう。乱暴は止めろ」
「――ああ、いつもの事なんですよぉ、気にしないで下さい」
「う…いゃ……ゃぁ…」
「ほら!!来るんだ……」
男に引き摺られるように連れ出される少女が、まるで助けを求める様にこちらを振り返った。
「いや、やはり待て!!―――お前は本当にこの少女の所有者なのか!?」
もしかしたら何処からか拐かされて来た子供なのかもしれない。
「はぁー疑り深いですねぇ」
男は外に合図すると、連れの従者らしき者が1枚の紙を手渡した。
「はい、こちらがこの奴隷の所有証明書ですよ」
「……………っ!!」
確かにそこには、奴隷商の登録書番号と少女の所有証明の記載がある。
従者が少女の口を塞ぎ肩に担ぎあげ、パニックを起こしたように暴れる少女を容易く連れ出した。
「御世話を掛けました。では…」
露店の脂っこい揚げパンを、二日酔いの朝に無理やり食べさせられた様な気分だが、自分にはその幼い少女を見送ることしかできなかった。




