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兄ターン ※注 微えろ
―3weeks after―
「あー確かにこってますね」
整体用のベッドに、うつ伏せに寝ているお客様の起立筋を指と肘で解していく。胸椎両側の筋肉はガチガチ、肩甲骨まわりについては鉄板が埋まってんのか!?って硬さだ。
ああーしかもこの背中の羽根が邪魔だ。お客様にお願いして、羽根を垂直に折り畳んでいただいた。背中から肩にかけての筋肉、邪魔な翼周りの筋肉をよく解す。巨大な羽を動かす肩甲骨周りの筋肉が硬くなり、筋肉の収縮が悪くなっている。
そう本日のお客様は翼人種の青年だ。人族の国の中でもノクスには多くの魔人族が暮らしているが、翼人種は滅多に見なかけない、というか初めて見た!!
期待を裏切らないその容姿はまるで天使だ。
「実は…ここ最近、羽を広げたまま動かせない日々が続いてまして…」
「なんでまた、そんな事に?」
「僕はその……絵の…モデルをしているので」
「……ああ」
元の世界でもラファエロ?だったか?天使の絵があったよなー。こちらの宗教観は知らんが、見た目綺麗な方が画家さん達も筆が乗るのだろう。
妹が「こっち世界イケメン率高いわぁー」と喜ぶだけあり、この翼人種の青年も実に綺麗だ。
背中には純白の大きな羽、彫像の様な美しい身体と整った顔立ちはまさに天使――何て解し甲斐のある美人だ。どうせおさわり…げふんっげふんっ…整体するなら綺麗な男の方がこちらのやる気も上がるというものだ。
はいはい、お兄ちゃんはちゃんとお仕事しますよー。
「お客様、筋肉は動かすことによって、収縮し、血液を運ぶポンプの…ってポンプって分かりますか?あ、大丈夫ですか、はい。そうポンプの役割をしています。長時間、不自然な体制で静止したままだったので、血流が悪くなり、筋肉がこりかたまったようですね。絵のモデルは結構ですが、終わったら、ゆっくり身体を動かすストレッチ、えっと、柔軟体操をして下さい。それだけでも改善されますから」
上半身を揉み解しながら、そう説明する。意思疎通の魔術式なるモノを掛けてもらっているのだが、カタカナは変換されにくいので要注意だ。
一口に整体といっても、推拿・按法・整骨とあるが、うちの整体院は推拿という、現在のマッサージや按摩、指圧の原形ともなる手技療法を使用している。まあ、簡単にいえば筋肉を解すのだが、何処の世界だろうと心身ともに疲れた人は多く存在するので、うちも概ね受け入れられているのだと思う。
翼人の青年の身体を解し終えると、肩から首のコリが改善されたようで「ちょっと引くわー」という位に興奮して感謝された。感謝されついでに抱き付かれたのだが、まあ、見た目が美人なのでラッキーだなと抱き返しておく。ついでに大殿筋をぎゅっと鷲掴みにしてやると、腰砕けになってしまった。ああしまった、つい癖で…
金糸の柔らかい髪の間からは、水色の潤んだ瞳がじっと見つめている。天使は身体を預ける様に枝垂れかかり、俺の背中に遠慮がちに腕が回された。くいっと顎を掴んで上を向かせ焦らすように唇を舐めとった。舌を離すと、強請るように相手の唇が追ってくる。
いかん…思わず客に手を出してしまった……が、まあいいかぁー。異世界だしぃ、美人だしぃ、こんな綺麗な人に強請られて、我慢するほど人間が出来てない。まあ、最初にケツをつかんだのがキッカケなのだが・・・
ちゅ、くちゅっ…
良い音で天使の口内を堪能する。手はケツを掴んだままだ。だって離れがたいんだ!!
下唇をちゅっと吸い上げると、ビクンっと相手の身体が反応している。
「ふぅ…ふぁ…」
うん、相手も満足しているし、良しとしよう。
長過ぎる口づけを終えると、青年の膨らみが当たっていた。
「ここじゃぁ駄目だ、一応神聖な仕事場なんでね」
「あん…」
可愛い声で非難された。
「今晩、西街のFalcon's NestってBRAで待ってな。続きをしてやるよ」
「本当に?…ぜったいだよ…来ないと」
「行くさ。こんな美人が待ってるのに行かない筈がない」
美人な翼人種の兄ちゃんは名残惜しそうに帰って行った。
うちの施術料は銀貨3枚、一般労働者の賃金が1日あたり8枚―12枚くらいらしい。勿論、職種などによって差があるのだが、銅貨4枚で1銀貨、銀貨12枚で金貨、白金貨は庶民の我が家には縁が無いのでどーでもいい、まあ、施術料1回分でちょっと美味しい食事が2回できる位の価値らしい。
「いつまでそうしてるつもりだっ!!」
部屋の壁をドンっと軽く叩くと、怪しい笑みを浮かべた妹が「いいネタが」と呟きながら、隣の部屋(叔父の部屋)から出てきた。どうやら、俺がちゃんと仕事をするか聞き耳を立てていたのだろう。まあ、半分以上は腐った妄想癖がある妹の趣味だが…
「ズルイ忍兄ぃ…ここで手篭にしてくれないと参考にならないよ」
「妹に性生活を覗かせる性癖はない!!」
だいたい手篭ってなんだ!。俺は同意の上でしか…げふんっ。
以前から妹達は兄である俺を腐った本のネタにしている節がある。
お兄ちゃんはどこでお前たちの教育を間違ったのだろうなぁ…
「ついて来るなよ…」
「うっ……」
後を付けて来る気だったのか!?
リビングへ行くと、これまた金髪美人なアルが珈琲を入れてくれた。礼を言ってマグを受け取ると、縁側のガーデンテーブルで一服することにした。
我が家は、自宅から歩ける距離に、外郭街や騎士の詰め所があり、内郭街からも意外と人が訪ねてきやすい立地にある。そこで、生活の基盤を整え、元々の世界でやっていた整体院を開院したという訳だ。
我が家の上下水の工事は、家の基礎部分に手を加えなくてはならず、シャールの援助とアルの魔術を利用し、泉の水を浄化しながら水道水として使う事が可能になった。下水も浄化して地下へと流すという環境に優しいシステムだ。更には、太陽光発電システムと魔術式を組み合わせた、発電蓄電システムを構築中で、アル曰く近日中に完成予定との事だ。
凄腕の有名な魔術師だというアルフレッドは、我が家が異世界の町内会に入会した日以来、叔父の部屋に間借りしている。まあ、護衛という名の監視役だろう。魔術師などというから、ひ弱なガリガリ君かと思いきや、触ると以外と良い身体をしていた。いつ身体に触る機会があったかは内緒だ。
彼は我が家に引っ越してきた日、リビングに大量にある本を指してこう言った。
「是非、あれらを読ませて下さい。異世界の言葉を覚えその文献に触れる機会を、是非!!」
アルは大層な読書家らしいが、君が指差しているその本棚は、妹達の腐った書籍が保管してあるコーナーだぞ!!それで良いのか?ちょっと彼の将来が不安だ。妹は満面の笑みで満足そうに頷いていた…
元々頭の出来が良いのだろう、平仮名・片仮名をあっという間に覚えたアルは、現在は漢字を勉強中。彼が望んだ異世界知識とは違っていたかもしれないが、日々、日本のサブカルチャーに浸蝕されている。その内、妹がアルを腐った本で洗脳しそうで怖い。
※兄は日常会ををほぼマスターしていますが、仕事中は意思疎通魔術を使用しています。
※ちょっとしたニュアンスなど、伝わりにくかったり、専門用語などはまだまだ勉強中なのであります。
※プライベートでは異世界共通語だそうです。




