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「……条件?」

「はい―――と、その前に。シノブは自分達がどういう状況に置かれているのか正しく理解してますか?」


シャール様はそれまでの優しげで人好きする雰囲気から、剛腕辺境伯と謳われるルーキス=オルトゥス家当主の表情で問いかける。


「異世界という…あるかどうかもわからない価値を持つ者ってことか?」


元より兄が懸念していた事だ。目に見えるモノだけではない、未知の世界の知識や技術は、それらを手にする事で一角千金を狙う者がいるのだと言っていた。

剣と魔法が主となるこの世界で、元の世界の兵器を手にすれば国の勢力図にも影響してくるだろう。銃火器が持ち込まれれば、今より戦争で亡くなる人が増えるだろう。そしてそれらを狙うのは何も泥棒だけではない、それこそ貴族や権力者達だって喉から手が出る程欲しがるに違いない。


「はい、異世界人というだけで、存在するか分からない宝に目が眩み、お2人に接触してくる貴族もいることでしょう」

「そんなもの、私達は持ってません!そう言っても駄目なの?」

「雫…実際に持っているかないかは関係ないんだ。もしかしたら、俺達が価値のあるお宝や知識を持っているのではないか?とそう思わせいている事が問題なんだ」

「そんなぁ……」


私が持っているのは腐った(BL)文化くらいのものだ。この世界でお役に立てるモノなど持ち合わせてない!…まあ一部のマニア達には喜ばれるだろうけど。


「シノブ、シズク。お2人が王都でなく我が領に現れたのは幸運といえましょう。この領内であればお2人をお守りする事が可能です」

「…具体的には?」

「ルーキス=オルトゥス伯爵家がお2人の後見人となることです。私の後見があれば他の貴族達への牽制になりますし、勿論、盗賊や人攫いを警戒してお2人には護衛もつけさせて頂きます」


この辺境領に於いて、ルーキス=オルトゥス家の影響力は絶大だ。

シャール様が後ろ盾となることで、他の貴族達は私たち兄妹に手を出し難くなるらしい。

これが王都だと、権力を盾にした悪徳貴族がウヨウヨいて、シャール様でも力が及ばないのだと教えてくれた。


「なるほど……それで対価は?―――俺達兄妹はあいにくとごく平凡な一般市民だ。シャールに後見してもらっても返せる対価を持ち合わせてない。ただの好意やボランティア精神で何かをしてもらえると勘違いするほど世間知らずではないんでね」

「私個人の好意では納得いただけないのですね……なんと切ない」


そう語るシャール様の笑顔は、言葉と裏腹に黒い!!兄はもっと黒いが…


「そうですねぇ…まず第1に、我が領内でイザコザがあるのは困るということ。領内で他の貴族共に好き勝手されるのは、ルーキス=オルトゥス辺境伯としての沽券に関わりますから。第2に、お2人は我が領内に現れた我が領民です。領民の生活を守るのは領主の務め。しかもセイタイという素晴らしい技術を持ったシノブを、他の人たちに横取りされるのは我慢なりません。第3に、なんだか面白そうだから……でしょうか?対価を求めるというのであれば、そうですね。週に1度、我が屋敷にセイタイをしに来てください。私自身がシノブを訪ねて行ってもいいのですが…外出も儘ならない程忙しい身の上ですので」





「プッ―――プハハハハハっ、良いだろう。こちらからもお願いする。シャール、どうか俺達兄妹の後見をお願いしたい。良いだろうか?」

「えっあ、私からもお願いします。忍兄と私の事を守ってください」


兄の横でペコリと頭を下げてお願いする。日本人の基本だね。


「良いでしょう。アルディシャール・オフスキュリテ・ルーキス=オルトゥス辺境伯の名に於いてお2人を後見させて頂きます」


兄とシャール様が互いの手を固く握りあう。




「そこでシノブ、お2人には内郭街に家を用意しようと思います。そちらへ引っ越してくる気はありませんか?勿論、お2人の生活については私が保障させて頂きますよ?」

「いや、有難い申し出ではあるが、あの家を離れるつもりはない。幸い手に職があるから、身元の保証と戸籍さえどうにかしていただければ、どうにか生活していけるだろうと思う」

「そうですか、とても残念です……お2人を養う事くらいはさせて頂きたかったのですが…」


というより、兄と離れたくないんだね?うん分かるよーシャール様♪


「シャール、その気持ちだけで十分だよ」

「――――欲を言えば、ルーキス=オルトゥス家と養子縁組。もしくはシズクを私の伴侶として迎えても良いのですが………」

「えっ??」


何故に私にプロポーズ!?シャール様って、忍兄が狙いではないの?

というか駄目ですよー3次元の殿方とにゃんにゃんだなんて、いくら美人なシャール様でも私にはハードルが高過ぎます!!


「シズク」と甘い声で名を呼ばれると、シャール様が私の手を取り熱い眼差しで私の瞳を捉えた。ああ!そんなに見つめられたら心臓が早鐘を……


「はっ」―――い。喜んでぇと返事を返す前に、兄が手にしたティーカップがパキンっと音と立てて砕け散った。


「ぜったいに駄目!!お兄ちゃんは認めません!!」

「だ、駄目ですシャール様!!」


何故にアル君が反対をするんだい?


「……おや、シズクには効果がありそうですね」

「はい??」

「シャール様、戯れはその位にしておいてください」


アル君に窘められたシャール様が、名残惜しそうに手を離してくれた。

アル君が事情を知ってそうなので「白状しろ!!」とアイコンタクトを送る。


「シャール様は【魅了(チャーム)】の天恵持ちです」

「……なんだと!?」


「済みません。自分では制御できないので」と済まなそうに謝罪するフェロモン男。


眉間に深い溝を刻んだ忍兄、私の腰に後ろから腕を回し、ぐいっと自分の方へ引いてシャール様から引き離した。

ちょっと待て兄。兄の膝の上に着席させられたのですが、これは一体どんな恥辱プレイですか?この場合、お兄ちゃん呼びした方がいいのでしょうか?

185センチある兄の膝の上に、155センチしかないチンマリした私が座っている。


というか【魅了】ってあれか?ゲームでお馴染みの精神感応系の魔法。もしや先程からの私の胸キュン☆ドキドキは、全部その【魅了】の効果だと?シャール様に恋心を抱いた訳ではなく魔法で洗脳されていたのか?

しかも、制御できないだと!!何それ!節操無いなぁ。ああ、だからフェロモン垂れ流しだったのか。


「【魅了】の魔術とは、人を魅了し虜にしてしまう能力です。シャール様は魔術式の構築を必要とせず、無意識に【魅了】を発動するタイプの天恵持ちです。まあ、魔力耐性が強い者ならば然程問題ありませんが……シノブさんには効いてないようですから、もしかした魔力耐性が強いのかもしれませんね」


アル君が兄にそう説明した。

あのー私はバッチリ効いていたみたいですが…

忍兄はきっと自分が醸しだすフェロモンで、シャール様の【魅了】効果を打ち消しているのです。そうだ、そうに違いない!!


「ルーキス=オルトゥス家の祖先に魔人族の血が入っていることは説明しましたね……どうやらその影響で、魔導師級の魔力保有量があるのですが、何故か魔力制御の才はさっぱりでして」


ふぅーと、吐息とフェロモンを一緒に吐き出すシャール様。

って事は何かい?最初っから人に【魅了】の魔術かけて、取り込もうとしてたって事かい?とんだ食わせ者だわ!



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