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第2話 思い出を巡る旅と金曜夜

 ドライブインを最初に訪れてからというもの、金曜夜の職場近くの自習室は、相変わらず、受験生でいっぱいだった。夏場は資格試験が集中する時期でもある。


 先々週、先週もそうだったので、今夜は残業を1時間程やって、すぐに電車に乗り込む。誰かが飲みに誘わないか心配になるが、直樹に、そのような話を持ち掛けるような同僚や友人はいない。いなくはないが、それぞれ自分自身の人生がいっぱいいっぱいのようだ。でも、そうだとわかっていても、金曜日の夕方だけは職場から一刻も早く立ち去りたかった。


 周南に立ち並ぶ工場と煙突、そこからたなびく煙。工業地帯の夕暮れを背にしながら、今夜も大畠駅へと向かう。一応、勉強しに行くつもりだが、ドライブインに通うごとに足取りが軽くなっている。

今夜こそ、話しかけるぞと、なぜか意気込んでしまっている。


 これまで、3回通って、わかったことは、あのトラックドライバーの女性客の名前は、エミというらしい。直接聞いたわけでなく、店主が「エミちゃん、エミちゃん」と呼びかけるのが何度も聞こえてきたので。


 キャップのせいで、表情の全体は見えない。だから、気になって気になって仕方なかった。


 いつもの、カランコロンと鳴るレトロなチャイム。ぬるすぎず、寒すぎず、程よい空調が体を包みこむ。

 「いらっしゃいませー!」いつもの店主が出迎えてくれる。


 バーカウンターには、真ん中の椅子にエミさんが、ちょこんと座って……


 何か雰囲気が違う。まず、キャップを被っていない。心なしか、声もいつもより澄んでいる感じがする。エミさんは、はにかむ癖があるのか、話しているときに、少しかすれたような声を出す。でも、笑い声をあげるときは、子どものようにケラケラ声を上げている。

 そのギャップに惹かれてしまっているわけだが。


 ただ、いつものエミさんは、椅子の上で少し体を丸めるように座っている。でも、今夜の彼女は、背筋が伸びている感じがする。


 不思議に思いながらも、もしかしたら、エミさんの表情が見られるかもしれない。このチャンスを逃したくない。


 奥手なはずの直樹にスイッチが入る。

 「すみません、お手洗い借ります」


 用を足したいというよりは、カバンに入っていたボディシートで汗を拭い、洗面台の鏡に向かって、鼻毛が出ていないかをチェック。ありがたいことに、洗面台にはマウスウォッシュが置かれていた。丁寧に口をゆすぐ。刺激の強すぎない香りが、より安心感と勇気を与えてくれる。


 意を決して、カウンター中央のエミさんに話しかけてみる。

 「あ、あのー……」


 くるりと椅子が半回転すると、目がくりくりとして、エミさんより少し幼く見える顔が、直樹の目の前に広がる。


 「ど、どちら様でしょうか?」

 眉間に皺を寄せて、聞かれる。気まずい空気が流れ始めそうな瞬間、


 「あら、ごめんなさいね。その子、エミちゃんじゃないの。エミちゃんのいとこさん」

 店主が説明してくれた。


 「はい、ユミと言います。エミさんのいとこです。お知り合いの方ですか?」

 警戒していたユミの表情が緩んだ。


 (ああ、やっぱりエミさんという名前で当たっているのか。)

 「えっと、直接の知り合いというわけではないです。いつも、金曜夜のこの時間帯に来ると、エミさんがいることが多くて。でも、話したことは一度もなくて……あ、申し遅れました。僕は河村かわむら、河村直樹といいます」


 ユミは安心したのか、屈託のない表情で、

 「エミさんなら、そろそろ来ると思います。ここに来る約束したので」


 そのとき、駐車場にゴーっという音とともに、フロントガラスがドライブインのネオンサインに照らされたトラックが入ってきた。

 そして、タッタッタッタと足音が近づいてくる、カランコロンとチャイムが鳴ると

 「ユミ!! 遅れてごめん!!」


 「あっ、お姉ちゃん!大丈夫だよ。今、ウタコさんと話していたところ。それから、こちらは河村さん。」


 会って、数分も経たないうちに、ユミのおかげでお互いの自己紹介が始まる。

 「あ! どうも河村直樹と申します。」


 「えーと、藤井といいます……苗字で呼ばれると、なんか恥ずかしいというか、とりあえず、エミって呼んでくれたら嬉しいです。」

 キャップを被ったエミの顔が、さらに深くうつむいている。照明の光が当たっている頬が少し赤くなっているように見える。声も消え入りそうになっている。


 つられて直樹まで、顔が熱くなっているのを感じた。

 「エミさんですね。じゃあ、僕には直樹なおきと呼んでください。」


 このままだと、また気まずい時間が流れてしまう。猛スピードで頭を回転させて、

 「あ! 店主さん、ウタコさんって名前なんですね! 初めて知りました」


 「そうだった。直樹さんには、私の名前紹介していなかったわね。歌うに、子どもの子で、歌子といいます。よろしくね。」

 歌子さんが、満面の笑顔を見せている。


 一通り、自己紹介が終わったところで、

「そういえば、エミさんとユミさんは、そっくりですね。てっきり、姉妹かと思いました。」


 「やっぱり似てるんですね。周りの人たちに言われているうちに、私もエミさんのことをお姉さんと感じるようになって、今では、お姉ちゃんと呼んでいます。ね、エミお姉ちゃん」

 ユミがエミの腕を掴む。


 「もう……人前でやめなよ。一応、大学生なんでしょ。」

 エミが恥ずかしがる。


「だってー、久しぶりなんだもん」


「電話でしょっちゅう喋ってるから、そんな感じしないけどね」

 顔を見合わせて笑っている。


 直樹はしばらく二人を見比べていた。見れば見るほどそっくりだ。顔立ちはほとんど同じ。違いといえば、髪の色がエミは黒髪をベースに、光の加減でわずかに金色に輝いている。一方、ユミは茶色や赤系統に近い色をしている。それから、ユミのほうが少し背が高いくらい。それ以外は本当にそっくりで、姉妹に間違われるのも無理はない。


 「ユミちゃんは、今週末、このあたりで昔撮影された映画のロケ地を巡っているんだってね。」

 カウンター越しに歌子さんが、ユミに質問してきた。


 「そうなんです。30年ほど前に制作された青春映画『どきどきダイアリーズ』の舞台が大畠がある柳井市、それから周防大島なんです。それで、来てみたんですが、大畠駅は映画のものとは全然違ってて、真新しくなっていました。来る前に調べていたのですが、実際に来てみると、本当に変わっていたのかと実感しました」


 関東の大学から、休みを通してやってきたユミは、今回初めて、柳井や周防大島について知ったわけで、それまでの光景とかわかるわけないよなと、直樹は黙りながら、そばで聞いていた。


 「でも、海のそばにある風景は変わらなくて良かったなと思いました。あの、年季を重ねた木の香りがしそうな駅舎はなくなりましたが、全国には廃線になってしまったところも、たくさんあるわけで。全て取り壊すわけでなく、放置するわけでもなく、どのように残していくか、そこに関わっている人たちが知恵を絞ったわけなので。」


 さっき、エミの腕に抱き着いていたユミの表情とは違い、やわらかい口調で、しかしその眼差しはまっすぐだ。

 歌子さんも、うん、うんと頷きながら聞き入っていた。


 そのような中、ヘッドライトの光が窓を通して、入ってきた。

 エミのトラックの隣に、レンタカーのような真新しい車が横付けされる。そして、若い4人の学生たちが、ドライブインに入ってきた。


 カランコロン。いつものチャイムの音


 「あ! よかった。お帰りなさい……お帰りなさいっておかしいか」

 ユミは何の躊躇もなく言ってしまう。


「た、ただいま……え? こ、こんばんはー。」


 「あはは、このドライブインは『ただいま』って、言っちゃうお客さんが多いの。だから、私は、『いらっしゃいませ!』の代わりに、『お帰りなさい!』って答えることにしてるの。それから自己紹介が始まるんだけどね。まさか、お客さんまでもが言っちゃうとはね」

 直樹が歌子さんのほうを振り向くと、満面の笑みだ。誇りや自信さえ感じとれる。長年店をやっているからか余裕が感じとれる。


 「歌子さん、こちらが同じゼミに所属しているメンバーです。私を含めた5人で、ゼミの発表のための取材と、卒業旅行を組み合わせて、全国の映画のロケ地巡りをしているんです。ここにいる5人、就職が決まった者もいれば、留学したり、大学院に進学したり……私は、進路まだ決まってませんが。」

いきなり、ユミがうつむいて、声が小さくなる。


 その静寂を破るように、メンバーのひとりが言う。

「ねえ、ゼミ長……っていうか、ユミ! 今週末はそんな落ち込まないって約束したでしょ。めずらしく、ユミが前に出て発言、提案してくれたから、こんな楽しい旅ができているんだよ。まだ始まったばかりだけど。でも、何か見つかるかもしれないよ。ユミの自信に繋がるものがさ。おかげで、ゼミの研究も進んでるじゃん。ユミが望むことなら、協力したい。できる限りのことしか、できないけど。」

 ユミが目を丸くしている。

 エミの左手が、ユミの肩をポンっと置かれる。


 歌子さんが、突っ立ったままの客たちに呼びかける。

「良い仲間がいるのね、ユミちゃん。ところで、みんな、ご飯はまだ? もう食堂の時間自体は終わったけど、軽食やスイーツなら、たくさん出せる時間だけど、とりあえず、これがメニューね。ほらほら、エミちゃんも、直樹さんも座って。二人ともお腹もすいているでしょ。」


 ずっと立ち続けていた二人と、ユミ、そしてゼミのメンバーがカウンターに並んで座る。


 直樹は、ミックスサンドを選び、エミもそれに続いた。ゼミのメンバーは、チキンナゲットやフライドポテトを間髪入れず頼んだ。


 さすが、若者。油ものいけるんだなと、直樹が思わず吹き出す。


 ユミは、メニュー表のスイーツのページを、見て迷っているようだ。

 「あ、あの……夜パフェください。一番大きいサイズで。そしたら、直樹さんとお姉ちゃんの分も入るよね?」


 「はい、夜パフェのメガサイズね。じゃあ、ちょっと待っててね。」

 歌子さんがカウンターの向こうのキッチンで、準備を始める。


 「本当は柳井の市街地で、ご飯済ませたかったんだけど、見るところが多くて、時間がなかったんです。コンビニのカップラーメンを覚悟してたんですが、ドライブインが開いてて良かったです。でも、ガイドブックにも、スマホにも地図に位置は載っているんですけど、肝心のメニューが出てこなくて。怪しいなと思ったんですけど、入ってみたら、良い感じのお店でよかったです」


 直樹と同じ状況にあっていた者がいた。あの時はどうなるかと心配だったが、1ヶ月近く通ってみると、第二の家みたいになっている。金曜夜の3時間ほどしか居られないが。


 ゼミのメンバーがエミや直樹に、スマホ、デジタルカメラで撮った、柳井市のスポットを次々と見せてきた。早口で喋りだしたものだから、聞き取るのに精一杯だったが、楽しさとエネルギーを感じた。自分が新入社員の頃や、最近、直樹の部署に配属された新人職員の雰囲気に似たようなものを感じていた。


 画面には、白壁の街並みが映っていて、江戸時代に建てられたと思われる館が、整然と並んでいる。ここが、30年前の映画「どきどきダイアリーズ」のロケに使われていたらしい。その映画に出演していた俳優たちの名前を聞くと、現在でも現役バリバリだ。


 外から来た者にとっては、新鮮に映るのだろうな。直樹にとっては、柳井とは職場と自宅の行き帰りの途中であって、通過点の一つとしか思っていなかったため、その視点こそが新鮮に感じた。30年生きていても、地元のことなど意外に知らないものである。


 「明日は、周防大島に行って、片添ヶかたぞえがはま海水浴場に行くんです。そこも映画のロケ地で。自分たちの大学、関東の内陸部にあるんで、海に行く機会がほとんどないんですよね。」

 ゼミのメンバーたちの目の輝きが眩しすぎる。ユミもいつの間にか、笑顔が戻っていた。


 エミが、何かに気づいた。

 「もしかして、5人が着ているシャツって、自分たちで作ったの? 『We ♡ Southern Setoサザンセト』って。英語には自信がないけど。気合いが入っているね」


 ゼミのメンバーが嬉しそうに答えた。

 「そうなんです。その土地に入っていくからには、せめてリスペクトの気持ちを持ちたくて。と言っても、自己満足なんですけどね。」


 夜9時以降には、カフェバーとして営業しているドライブイン。ときにバーは、人生勉強の場になると、職場の上司が言っていたが、まさか若い学生たちから、学びを得るとは思わなかった直樹だった。


 そして、歌子さんが両手いっぱいに皿を抱えて、カウンターまでやってきた。

 「はい、お待たせ! チキンナゲットとフライドポテトね。これがケチャップ、マヨネーズ、バーベキューソース、マスタードソース、それから、周防大島のみかんを使ったオリジナルソースね。で、直樹さんとエミちゃんには、ミックスサンドね。今日は、海で獲れたアジのフライも入れたわよ。口に合えばいいんだけど。」


 待ちかねていた食事にがっつく客たち。パーティーのような感じもしつつ、それには静寂が走っているが、かすかに流れるハワイアン音楽のBGMのおかげで、その静かさもまた、心地よかった。


 食べ終わったところで、ユミが頼んだパフェが出てきた。さすが、メガサイズ。ビール大のジョッキが数杯分重ねたどころか、サラダボウルみたいな透明で、きらきらした器に乗ってやってきた。チョコ、白いクリーム、いちごなどの果物がところ狭しと並んでいる。好みで、先ほど出てきた、みかんのオリジナルソースを甘くアレンジしたものもある。これをかけることによって、味がサッパリするらしい。


 直樹が改めて、メニュー表を見てみると、メガサイズの表記など、どこにも載ってなかった。歌子さんに、耳打ちをすると、『シーっ』という仕草をした。どうやら今夜だけのスペシャルメニューのようだ。


 学生たちは、SNSに載せるつもりなのか、スマホで撮影しまくっている。その向こうでは、エミが呆気に取られている。

「子どものときは、昔話に出てくるお菓子の家に行きたかったけど、いざ、目の前にすると無理だなと思った」

と口に出している。


 「エミさーん! 胃薬持っているから大丈夫だよ」

 直樹が冗談なのか、よくわからないフォローをする。


 ゼミのメンバーが爆笑している。


 歌子さんが、場をなだめる。

 「まあまあ、食べられる範囲でいただくことが大事ね。何事もほどほどが一番。とはいえ、時にはバランスを崩してしまったり、そうしないといけない場面も人生にはあるけどね…….まあ、そんなことより、エミちゃんはいつもの塩コーヒーでいい? 直樹さんはアイスティーでよかったかしら?」


 「はい!お願いします!」

 エミと直樹が同時に答える。


 皆、時間を忘れて、飲み食い、お喋りに興じていた。


 夜9時を過ぎたところだろうか。ゼミのメンバーが

 「そういえば、花火買ってきました。うるさくないやつ」


 「あ!このあたりの海岸は花火禁止だから、ドライブインの駐車場でやってね。他の車やお客さんには邪魔ならないようにね。と言っても、金曜夜は、エミちゃんと直樹さんしか来ないけど、最近は。」

 自虐なのかわからない言葉で、歌子さんはゼミのメンバーに呼びかける。


 「はーい!」

 メンバーたちは声を上げながら、玄関の外へと飛び出す。ユミは小走りに続こうとしたが、すぐに振り返って、

 「歌子さん、バケツありますか? あと水も入れさせてください」


 「もちろんよ、掃除用だけど、それなら貸せるわ。あと、水は外に蛇口があるから、それ使ってね。」


 「ありがとうございます!」

 ユミは、歌子さんに向かって、深くお辞儀をする。


 その様子を見て、直樹は

 「ああ、ユミさんを仲間が放っておけないのは、あのように気配りができるからなんでしょうね。」


 エミがこくりと頷く。


 外では、バケツの周りに、ゼミのメンバーたちが線香花火を上げている。本格的な夏には、まだ早いが、それでもどのような季節にも綺麗に光るのが、線香花火の良いところだ。

 パチパチと若者たちの顔を照らしている。


 いつの間にか、エミがテーブル席のそばにある、窓の縁に両肘を置いて、顔を乗っけている。目には、花火の光が映っているように見えた。


 「あーあ、私もあんな楽しそうな学生時代過ごしかったなー」


 直樹は、それを聞いて意外に思った。自分にも、輝かしい青春などなかった。エミもこちら側の人間なのかもしれない。


 エミは続けて呟いている。

 「でも、でも、ユミが元気そうでよかった。大学に入って、新しい環境に馴染めずに、ほぼ引きこもり状態で、授業も出られず、単位を落としまくって。学費の援助をしてもらっている両親にも申し訳なくて、本当のことが言えなかったみたい。でも、それでも、私に連絡をくれて。ただ、こっちは話を聞くくらいしかできなくて。」


 直樹は、エミの顔を見つめながら話を聞き続ける。

 「そんな時に、声をかけてくれたのが、今のメンバーだったんだって。怪しい人たちじゃなくて良かったよ。ユミは人に恵まれているんだなー」

 キャップの影から、わずかに見えるエミの視線が優しそうに見える。


 しばらくすると、またユミが入ってきた。

 「ねえ!お姉ちゃん!直樹さん、歌子さんも一緒に花火しませんか? せっかくの機会なので。ほら、『旅の恥はかきすて』……じゃなかった。『一期一会』って言うじゃないですか」


 エミと直樹は、しばらく迷っていたが、歌子さんから

 「ほらほら、私も行くから、エミちゃんと直樹さんも行きましょうよ」


 たしかに、このような機会はもう来ないだろう。玄関から出ると、上空には5月末の満月が広がっていた。


 一緒に、花火に興じる。静かな線香花火が、エミと直樹にも無かったはずの青春の一瞬をもたらしていた。これが30代、大人としての金曜夜の過ごし方には似つかわしくないかもしれないけど、もうそんなことどうでもよかった。


 ゼミのメンバーが

 「そういえば、柳井って金魚も有名なんですよね? というわけで、金魚花火も手に入れてきました」


 エミと直樹も、金魚花火と聞けば、2000年代のバラード曲に出てくる言葉なのは知っていたが、実際に見るのは初めてだった。


 火がつけられた金魚花火が、バケツの中を所狭しと泳いでいる。


 エミが、直樹の近くに寄ってくる。一瞬息を飲んだ。

 「直樹さん、ごめんね。 今日勉強できなかったようだけど、大丈夫?」

 「あ、大丈夫です。こんな夜、二度と無いはずなんで。」


 そこに、ポケットに入れていたアラームが鳴った。直樹が終電に遅れないように、セットしていたものだ。


 そのアラーム音とともに、金魚花火の火が静かに消えた。


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