第0章プライムノア編 2話:合流
過去のトラウマをえぐる悪夢が目覚めたタツキは、仲間と合流するため動き出すーー。
「静かだ……」
廊下からオフィスの様子を窺う。
照明を破壊され暗くなったオフィス内に先程まで撃ち合っていた敵はいない。
ロボットの残骸と人間の遺体が転がっているだけだ。
「ニコル……ハーラス……ブレイダ……」
このフロアに突如侵入してきた敵に抵抗して撃ち殺された一般職員達だ。
気さくなニコル。
臆病者のハーラス。
パワハラ気味のブレイダ。
彼らの生きていた頃の姿が重なる。
職員の遺体を横目に廊下を抜けていく。
休憩スペースの大破した自販機から無事なミネラル飲料を拾い、蓋を開けて口をゆすいで吐き出す。
そして幸運なことに、頸椎が破損した敵兵士たちの遺体がスナイパーライフルを抱えていたためそれを拾い上げる。
すぐさまライフル用のデッキボックスをスロットに嵌め込んだ。
T字路に差し掛かり、壁を背にして先を伺う。
敵はいない。
階下から僅かに銃撃戦の音が聞こえたタツキは、警戒しながらエントランス方面へと進んで階段を降りる。
そして辿り着いたのは2階エントランス。
広大な吹き抜けの階下では、2人の男達がロボットや兵士たちと銃撃戦を繰り広げていた。
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◆U-SHAPMCビル1階エントランス◆
白髪混じりの壮年の男性ーーゼノスは危機に陥っていた。
3階まで吹き抜けと階段で繋がった広いエントランスで、中央にある円形の受付スペースの台を盾にロボットたちの攻撃を凌いでいたが、もはや限界がきている。
少し離れた場所では金色の長髪を結んだ青年ーー部下であるレクタルが応戦している。
「クソっ……マギアフレームどもめ! コイツら魔術で動いてるからって無限に撃ってきやがって! それもこれも擬似メンタルだかなんだかを誰かが開発してロボットでも魔術を使えるようにしやがったせいだ!」
レクタルは壁でカバーしつつ隙を見て射撃しながらボヤく。
「ボヤくヒマがあるならアタマの下の動力部を狙え!」
「んなことできたらやってますよ!」
魔術で動くロボットーーマギアフレームたちが、ジリジリと攻め立ててくる。
三箇所の関節を持つ車輪付き四本足の上にガトリングガンを乗せ、足の先からせり出したアイゼンを地面に突き刺して自身を固定し、弾丸を掃射するマギアフレームーークアドポッドガンナーが1機。
多連装ロケットランチャーを搭載したクアドポッドランチャーが1機。
それぞれが強固な装甲で守られた円錐台を逆さにしたような動力部が下についている。
ガンナーはゼノスたちの決死の戦闘により脚を2本失っており、その場から動けない。
その周囲には小型の丸い掃除ロボットのようなものに生存者探索用アンテナが装着されたライフスイーパーが数機展開している。
更にその後ろには黒く重厚なバトルスーツの兵士ーーインプランテッドが4人、ゼノス達に向けてアサルトライフルやハンドガンで戦闘を補助。
彼らは僅かに聞き取れる程度の小声で何かを呟いている。
(もうMTPも底を尽きかけている。レクタルもそろそろ限界か。せめてタティとマルコスがいれば……)
地面には無数の穴が空き、壁や受付の台が徐々に削られていく。
銃撃や爆発に強い素材でできた建物ではあるが、こうも何度も攻撃を受けていれば徐々に壊れ始めるものである。
ガンナーがひとしきり撃ち終えると動力部の装甲を開いて内部を露出し排熱する。
「排熱のために装甲開くとか設計ミスだろ!」
レクタルが壁から飛び出そうとするが、ゼノスがそれを制止する。
「やめろ! 出るな!」
その隙を狙って撃とうとしても背後に控えるランチャーやインプランテッドたちが援護。
無数のネクサスロケット弾が飛来する。
「伏せろ!!」
それらは地面に着弾し、連鎖的に爆発、えぐられた地面を更にえぐる。
爆風と破片がゼノスとレクタルの体を刺してじわじわとダメージを与えていく。
とてもではないが動力部の破壊ができる状況ではない。
「クソったれが! このままじゃなぶり殺されちまう!」
既に受付スペースの台も壁の端も地面も削りに削られ、後がない。
煙が晴れたと同時、ガンナーは動力部の装甲を閉じて射撃を再開。
体を晒せば木っ端微塵にされるほどの無数の弾を、ライフスイーパーが検索した生命反応のある方向へ撃ち続ける。
「後ろのヤツら、どうにかできないですかねえ!?」
ガンナーが弾を撃ち終え、排熱を開始。
ランチャーがネクサスロケット弾の装填を完了。
「もう、ダメか……!」
撃ち出したその瞬間。
カキンッ
という音が響き、撃ち出されたネクサスロケット弾が次々と連鎖的に爆発を起こした。
四方に吹き飛ばされるマギアフレームとインプランテッドたち。
「うおおっ、な、なんだぁ!?」
舞い上がる熱と粉塵から身を守るゼノスとレクタル。
何者かが階上から残った敵兵士やライフスイーパーを次々と撃破していく。
インプランテッドには守りの甘い手や腕関節を的確に撃ち抜いて戦闘不能に追い込む。
さきほどまで自分達を追い詰めていた敵が瞬く間に倒され、エントランスは静まり返った。
『ゼノス教官! レクタル! 無事か!?』
2人はSLDの画面通信を立ち上げた。
「その声はタティか!? どこにいる!?」
『2階だ!』
吹き抜けの階上から、スナイパーライフルを構えたタツキの姿が見えた。
「おお! タティ! 生きてたか!」
『他に敵はいないか!?』
ゼノスとレクタルは周囲を確認する。
至近距離で爆発をモロに喰らったランチャーは本体を木っ端微塵にされ、ガンナーは開いていた動力部の大破により機能を停止、ライフスイーパーたちはことごとく破壊、インプランテッドたちはなおも立ちあがろうとするが、手や関節を撃ち抜かれているため行動不能になっていた。
「今のところは大丈夫だ!」
タツキは階段を降りてくると、ゼノスやレクタルとハイタッチした。
「助かったぞ」
「もうダメかと思ったぜ……」
「教官、そちらの状況は」
「見ての通りだ」
大破したエントランス、敵味方入り乱れた遺体、マギアフレームの残骸が周囲に散らかり、戦闘の凄惨さを物語る。
「ヤツら、突然未知の空間を通って侵入してきたからな。対応が遅れてこのザマだ。抵抗したやつらは殺されたが、それ以外は拉致されてしまった」
「不正空間移動ジャマーが機能しない、全く新しい方法ですか」
「ああ」
「タティ……マルコスは?」
レクタルがマルコスの安否を問うと、タツキは目を伏せて首を横に振った。
「そうか……アイツが……」
しんみりしていると、ガタリ、と音が鳴り、3人は武器を構えた。
「いたい……ころ……して……」
倒れていたインプランテッドの一人が、無理やり体を起こそうともがいている。
ゼノスはハンドガンを取り出し、インプランテッドのヘルメットを外した。
ヘルメットの下には、どこにでもいるような普通の顔の青年。
彼は苦悶の表情を浮かべ涙を流しながら請う。
「もう、ころしてください」
ゼノスは彼の体をうつ伏せにすると、首に取り付けられた金属部品ーーインプラントボルトを破壊し、青年を絶命させた。
タツキとレクタルは暗い表情で俯いた。
ゼノスは口を開く。
「インプランテッドーーか。虚しいものだな」
青年の目を閉じさせる。
「拉致され家族や友人と引き裂かれ、頚椎にインプラントボルトを埋め込まれる。神経を乗っ取られた彼らの体は未知の信号を受信させられ、無理やり動かされ……インプラントボルトを破壊しない限り、脳や心臓を撃ってもゾンビのように動き続ける。教えたよな?」
「ええ。ネクサスが血液を魔術で具現化し、循環して強制的に動かすんですよね?」
「そう、正解だ」
「……教官……」
「それに、万一彼らが助かったとしてもボルトの先端がかぎ状になってるから、引き抜くこともできん。インプラントボルトを破壊して殺してやるしか救う方法はない。わたしの妻や娘もそうされた。だからーー今と同じように……」
グリップを握る手に力がこもる。
「タティ、レクタル。手伝え」
「はい」
3人で他のインプランテッドも一通り救うと、ゼノスが口を開く。
「我々はこれより地下5階脱出ポッド格納庫へ向かい、この”プライムノア”を脱出、”アンダーアーク”へ逃亡する」
ゼノスの言葉に、タツキは驚愕した。
「この世界を捨てるんですか?」
レクタルも体を乗り出すように詰め寄った。
「ウソだろ教官!」
「本当だレクタル。各国で残党たちが我々U-SHAの敵ーーMAOUと戦い続けているが、この世界はもはやほぼ完全に滅亡したと言ってもいい」
タツキは身を乗り出すように問う。
「ですが教官! MAOUは80年前に技術士たちにコアデータを取り出されて破棄されたはずでは?」
「ああ、そうだ。だがヤツの残った体にいくつか命令が残されていてな。今のMAOUはその命令を実行しているにすぎん。しかも強力なネクサスプロテクトがかけられていて、破壊することもかなわん。まるで首無しニワトリのマイクだ」
「なぜそんなことを知ってるんですか?」
ゼノスは目を伏せ、ふぅとため息をついてから答えた。
「80年前ーーわたしもそのときの技術者集団の一員だったからな」
「教官……」
「無駄話はここまでだ。まずは武器保管庫で装備を整え、それから地下を攻略する。ついてこい!」
「「了解!」」
次回、訓練施設攻略戦です。
レクタル「おつかいゲームはゴリゴリだ!」




