第0章プライムノア編 1話:立ち上がれ、ネクサスを銃に込めて
過去の夢の中で、最愛の妹を撃ったトラウマが蘇ったタツキ。
目覚めた彼は、周囲の状況を確認する。
◆U-SHAPMCビル・4Fオフィス男子トイレ◆
男はハッと目を覚ました。
背中の上には扉や瓦礫が積み重なり、自分の体にのしかかっている。
幸いにも起き上がれる重さだ。
彼は瓦礫を押し除けながら周囲の音に耳を傾けつつ慎重に体を起こした。
目の前の割れ残った鏡に男の姿が写る。
ツーブロックにしたオールバックの髪を後頭部で結んだ、険しい顔をした褐色肌の男ーー自分だ。
身長は高く、鍛え抜かれた筋肉の上に緑色のポロシャツとベージュのジーンズを着用。
シャツの胸には金刺繍で“U-SHA”、その下に“Universal Strategic Hazard Agency“の文字列が縫い付けられている。
両腕には、四角い窪みと非生物的な血管のような模様が刻まれたグレーの籠手を装着。
そして右手にはアサルトライフルのグリップを握っている。
(まずは状況を整理しろ……。トイレで籠城していたら、爆風で入り口を破壊されてーー)
そこまで考えてから、彼ははっとしたような表情で周囲を見渡した。
(マルコスとレクタルは!?)
自分の他にも応戦していた仲間がいたはずだーーと視線を巡らせていると、トイレの個室から足が見えた。
駆け寄って見てみると、仲間は便器に背を預けるようにして事切れていた。
顔が半分吹き飛んでおり、脳が飛び出している。
「マルコス……くそっ!」
レクタルは見当たらない。
「オープンSLD!」
彼が左腕に装着している腕時計型の端末にそう呼びかけると、小さなホログラムのような画面が浮かび上がり、いくつかの文字列が表示される。
《Smart Library Device》
《タツキ・ユカワ》
《born:Earth Japan》
《age:21》
《現在の状態》
《LFP:1324/2043》
《MTP:101/324》
《異常検知:なし》
《筋量:
《魔力:
表示しきるよりも前に、タツキはフレンドの位置検索をタップした。
すると、画面にいくつかの緑色の矢印が表示される。
矢印をタップすると、その上にフキダシが飛び出て名前が表示された。
「レクタルは……生きてる! それとこれは……ゼノス教官か! 2人とも合流できたんだな」
だがそれ以外が赤い矢印で表示されている。
2人以外はほぼ全滅したということを示しているのだ。
「すまない、マルコス。お前はいいヤツだった」
タツキはマルコスの持ち物から手榴弾や食料、そしてドッグタグを剥ぎ取った。
だがーー。
「俺のスロットにカードデッキが差さってない。吹っ飛んだときに外れたのか」
あたりを見回してみると、手のひらサイズの黒い箱が落ちているのが見えた。
黒い箱ーーこちらも非生物的な血管のような模様が刻まれた、フリップトップ式のデッキボックスを開けてみると、イラストが描かれたカードが数枚差し込まれていた。
タツキはつい数日前の魔術教練を思い出しながら確認作業を始める。
『昇進おめでとう! 今日から戦闘中の魔術使用が解禁された君たちには、カード魔術とそれを使用した銃火器・マギアシューターの基礎を教える』
教官の言葉を思い出しながら、カードを一枚一枚確認する。
『魔術や聖術ーーまとめて魔聖術とでも呼ぼうか』
無属性のカード、アサルトライフルのカード、弾薬生成のカード。
『それらを使うには物を精巧にイメージする力と呪文詠唱が必要なのだが、それだと戦闘中に致命的な隙ができる』
連射のカード、貫通威力増加のカード。
『それらを省いて、イメージを絵に、呪文は文字として刻むことで魔聖術をよりインスタントな存在に落とし込んだのが、チャンティングカードだ』
そしてピリオドカード。
『目的ごとに組み合わせたカードと魔術発動に必須のピリオドカードを、この血管のような模様が刻まれたデッキボックスに差し込み、スロットと呼ばれる籠手の窪みに差し込む』
全てのカードを確認するとデッキボックスの蓋を閉じ、スロットの窪みにはめ込んだ。
『おいマルコス! 寝るんじゃない!』
どうでもいいことを思い出してフッと笑う。
『まったく。続けるぞ。ーー精神力を込めると、スロットにも刻まれたこの血管のような模様が光る』
タツキは教えられた通りに精神を集中させ、魔術を発動させる。
『これはエネルギーラインと言って、魔聖術が発動した際に発生した、イメージや呪文の情報を具現化するエネルギー……”ネクサス”を武器や防具へと送るためのものだ』
デッキボックスのエネルギーラインが淡く光り始め、ネクサスがスロットへと流れていく。
『デッキをはめ込んだスロットを装着し魔聖術を発動すると、デッキ、スロット、そして手の血管を通じて、触媒となる武器や防具のエネルギーラインにネクサスが流れ、カードの内容と武器・防具の特性に応じた魔術を具現化させることができる』
ネクサスはスロットのエネルギーラインから、生体コネクターとなった手指の血管を伝って流れていく。
『弾薬精製のカードをデッキに装填しておくことで、通常火器でいうマガジン内でネクサスが弾薬を形成し、マギアシューターは無限の銃撃が可能となる』
アサルトライフルのエネルギーラインが淡い輝きを放ち、内部で弾薬が形作られていく。
『我々はこの技術により弾薬の消費コストを抑え、各地の戦場で名を上げてきた』
イメージせずとも、カードの情報がそれを補う。
『ただ、ここで肝心な点をひとつ。魔聖術は精神力ーーMTPを消費する。使えば使うほどメンタルを削られ、発狂に至る』
タツキがSLDを起動すると、四角いホログラムに次々とステータスの項目と数値が浮かび上がる。
『君たちに支給されたSLDで逐一自身のMTPを確認し、数値が少なければ十分な休息を取るか、乱用は禁物だが急速回復用の精神安定剤を服用すること』
表示されたMTPが徐々に減っていく。
『SLDの数値は装着者のバイタルデータから大まかに算出されたものだ。絶対のものではない』
タツキは立ち上がり、アサルトライフルのボルトを引いて離す。
静寂の中に響く金属音。
『だが君たちは厳しい訓練や戦闘で生き残ってきた! あとはこれまで鍛え上げた己の勘を信じろ!』
セーフティを解除し、前を見据える。
『今日から君たちは、カードデッキを用いた魔術で戦う戦闘員、マギアデッカーズだ!』
「タツキ・ユカワ、戦闘を再開する」
読んでいただきありがとうございます。
今回は世界観の一部を解説するような内容でしたが、次回から本格的にプライムノアからの脱出が始まります。




