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「無能な記録係」と捨てられましたが、私の綴る一字は世界の理。冷徹な第二王子に「君の全てを独占させろ」と溺愛され、私を捨てた国は歴史から抹消されました  作者: 星詠みミラ


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第40話:原稿用紙を焼き尽くして

「……なんだ、これは」


 ジークヴァルト様の黄金の手が、次元の境界――ガラスのように冷たく無機質な「壁」を、メリメリと音を立てて引き剥がした。

 私は彼の腕に抱かれながら、その亀裂の向こう側に広がる異様な光景に息を呑む。


 そこには、私たちが知る空も大地もなかった。

 薄暗い部屋。無数に重なる紙の束。そして、青白く光る「四角い窓」の前に座り、震える手で奇妙なキーボードを叩いている、痩せこけた一人の男。


「ひ……っ、あ、ありえない……! バグが……キャラクターが、こっち側に……!?」


 眼鏡をかけたその男が、椅子ごとひっくり返りそうになりながら絶叫した。

 その声は、エグゼのような重なり合う残響もなく、ただただ情けなく、矮小で、ひどく現実的な響きを持っていた。


「……お前か。エルセを泣かせ、不遇という名の泥を塗り、挙句の果てに飽きたからと世界ごと捨てようとしたクズは」


 ジークヴァルト様が、モニターの縁を掴み、中から這い出すようにしてその「外側の部屋」へと足を踏み出す。

 彼の存在そのものが放つ黄金の魔力が、現実世界の物理法則と衝突し、パチパチと火花を散らした。

 ジークヴァルト様が床に降り立つと、男の部屋にある本棚が、彼の放つ殺気だけで重力に従わずに浮き上がる。


「くるな……! 消えろ、消えろ!!」


 男が狂ったように机に手を伸ばし、一つのキーを激しく叩いた。


『――事象削除(Delete)。対象:ジークヴァルト・フォン・ローゼル』


 虚空から、透明な刃がジークヴァルト様の心臓に向かって飛来する。

 それは「外側」から与えられる、絶対的な消去命令。


「させません……っ!」


 私はジークヴァルト様の影から飛び出し、あかいインクを纏ったペンを振るった。

 この「外側の世界」に来て、ようやく理解した。

 私のペンは、この男の持つ「道具」と同じ、あるいはそれ以上の権限を持っている。


『――記述上書き。この部屋における「削除」の概念を、一時的に凍結する』


 紅いインクがキーボードを包み込み、男の指を執筆用具ごと物理的に固定した。


「が……っ!? う、動かない、キーが動かない……!!」


「無駄だと言ったはずだ。……エルセ、よくやった」


 ジークヴァルト様が、男の襟元を掴み、軽々と持ち上げた。

 黄金の瞳が、恐怖に顔を歪める「作者」の鼻先に突きつけられる。


「お前にとって、このひとはただのインクの塊かもしれない。お前の空想の中にしか存在しない、消費されるだけの娯楽かもしれない。……だが、私にとっては、この鼓動も、この怒りも、彼女に与えられた唯一無二の真実だ」


 ジークヴァルト様の手が、男の喉元をじりじりと締め上げる。


物語シナリオ通りに動かないのが不満か? 愛が重すぎて設定が壊れるのが怖いか? ……安心しろ。お前の描く物語は、たった今、私が完膚なきまでに焼き尽くしてやった」


「ま、待ってくれ……! 僕が死んだら、君たちの世界は本当に消えるんだぞ! 誰が君たちのハッピーエンドを記すというんだ!」


 男の言葉に、私は一歩前に出た。

 紅いインクが脈動するペンを、男の額に突きつける。


「……私の幸せは、私が書きます。貴方の歪んだ筆跡エゴなんて、もう一文字も必要ありませんわ」


 私は、男の背後にある「青い窓」――モニターの中に、私たちの愛の結晶である紅いインクを流し込んだ。

 画面いっぱいに、私とジークヴァルト様が歩んできた、苦しくも美しい記憶が再生される。

 それは、作者が意図した以上の熱量を持ち、物語そのものを自立した「真実」へと昇華させていく。


「……あ、ああ……綺麗だ……」


 男が呆然と呟いた。

 自分が生み出したはずのキャラクターたちが、自分のコントロールを離れ、神々しいまでの愛を紡いでいる。

 その光景に、作者という名の独裁者は、ようやく自らの敗北を悟ったようだった。


 ジークヴァルト様が男を床に投げ捨てる。

 

「……これで終わりだ。お前は、一生そこで私たちが幸せになる様を、指を咥えて眺めていろ」


 ジークヴァルト様が私を抱き寄せ、元の世界へと戻ろうとした、その時。

 

 男の背後、壁一面に並んでいた無数の「モニター」が一斉にノイズを上げた。


『――不服だ。そんなハッピーエンドは認めていない』

『――ジークヴァルトを殺せ。エルセを絶望させろ』

『――もっと残酷な、私たちの「望む」物語を見せろ』


 それは、一人の男の声ではなかった。

 数百万、数千万という、この物語を「観測」している、姿の見えない「読者」たちの意志。


「な……に……?」


 男がガタガタと震えながら、背後のモニター群を指差した。


「……僕だけじゃないんだ……。僕の後ろには、君たちの不幸を、君たちの破滅を娯楽として求めている『神々』が、こんなにもたくさんいるんだよ……!!」


 モニターの向こうから、無数の「瞳」がこちらを凝視しているのを感じた。

 

 物語の「作者」は倒した。

 けれど、物語を「消費」する巨大な怪物は、まだ飢えたまま、私たちのハッピーエンドを食い破ろうと牙を剥いていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


次元の壁を突き抜け、作者の喉元を掴み上げたジーク様……!

「キャラクターが現実世界に干渉する」という究極の逆転劇、スカッとしていただけたでしょうか。

エルセ様の紅いインクがキーボードを封じるシーンも、二人の共闘感が最高潮でした。


しかし、真の敵は「作者」一人ではありませんでした。

物語を「娯楽」として消費し、残酷な展開を期待する、画面の向こう側の無数の「観測者」たち。

これこそが、ジーク様とエルセ様が最後に立ち向かうべき、最大の「壁」です。


「作者をビビらせるジーク様、最高に狂ってて好き!」「モニターの無数の瞳が怖すぎる……」

と思っていただけたら、ぜひ評価【☆☆☆☆☆】やブックマークをお願いいたします!


皆様の応援が、観測者の悪意さえも跳ね返す二人の「真実の愛」になります。


次回、第41話は「偽物の『ハッピーエンド』はいらない」。

観測者たちが提案する、甘い罠のような「偽りの幸福」。

それを拒絶し、二人が選ぶ「最も過酷で、最も尊い自由」とは……。

第3章、ついにクライマックスへ! お楽しみに!

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