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「無能な記録係」と捨てられましたが、私の綴る一字は世界の理。冷徹な第二王子に「君の全てを独占させろ」と溺愛され、私を捨てた国は歴史から抹消されました  作者: 星詠みミラ


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第39話:黄金の魔王と銀の女神

「……ああ、空が、剥がれていく」


 見上げた天頂に、巨大な亀裂が走っていた。

 青かったはずの空が、古い壁紙のようにペリペリと剥がれ落ち、その向こう側に「真っ黒な虚無」と、無機質に流れる白い文字列が露出している。

 地面はもはや石畳の感触を失い、踏みしめるたびに、水面に落ちたインクのように景色が歪んだ。


『廃棄進行率、80%。未完のハッピーエンドを消去中……』


 天から響く声は、もはやエグゼの少年のような幼ささえ捨てていた。それはただの機械音。役目を終えたゴミを処分する、冷徹な事務連絡だ。


「エルセ。……震えているのか」


 隣で私の肩を抱くジークヴァルト様の声がした。

 見上げれば、彼は崩壊しゆく世界を、まるで退屈な芝居の終幕でも眺めるような、冷ややかな瞳で見つめている。


「……怖くは、ありません。ただ、貴方とのこの景色が消えてしまうのが、寂しいだけです」


「フン。消えさせはせんと言ったはずだ」


 ジークヴァルト様が、私の手首を掴んだ。

 彼の掌から流れ込んでくる魔力は、もはや「人間」の域を遥かに凌駕していた。かつてシステムの恩恵を受けていた第二王子の魔力ではない。

 私への執着。世界への拒絶。それら負の感情を、純粋な「愛」という名の暴力に変換した、どす黒いほどの黄金色。


「エルセ、書け。……背景せかいがないなら、私の魔力をお前のインクにしろ。お前のペンで、この虚無を塗り潰せ」


「……ジークヴァルト様。私のインクは、もう銀色ではありませんよ?」


 私は、あかく、血のように脈動する『新約の筆』を掲げた。

 二人の魂を削り、絆を燃料とする禁断の筆。

 私が一歩踏み出すと、足元の虚無に、鮮やかな紅い花が咲き乱れた。


「ええ、分かっています。……行きましょう。私たちの、本当の結末へ」


 私たちが歩き出すと、空から無数の「停止命令」が降ってきた。

 それは巨大な文字の杭となり、私たちの行く手を阻もうと突き刺さる。

 

『――物語はここで終了する』

『――これ以上の記述は許可されない』

『――キャラクターは設定位置に戻れ』


「……五月蝿いな。設定だと? 誰に命令している」


 ジークヴァルト様が黄金の剣を抜き、横一文字に薙いだ。

 斬撃は「物理的な物体」ではなく、空中に浮かぶ「文字ルール」そのものを切り裂いた。

 『終了』という文字が、ジークヴァルト様の剣筋に沿って爆散し、『継続』という紅い炎に上書きされる。


「私は魔王で構わん。お前が女神として世界を創り直すというなら、私はその世界を侵す全ての敵を屠る刃になろう」


 彼の魔力と私のインクが、螺旋を描いて空へと昇っていく。

 黄金と紅。

 二つの色が混ざり合い、崩壊しゆく世界の中で、そこだけが異常な密度で「実体」を維持していた。


 その時だった。

 

 空の裂け目から、ひときわ巨大な、終わりを告げる「文字」が降りてきた。

 それはこの世界そのものを押し潰すほど巨大な、筆記体の一文。


『―― Fin(完)』


 それが確定すれば、すべてが終わる。

 私たちの愛も、記憶も、苦しみも、すべては「一冊の本」の中に閉じ込められ、本棚の隅で埃を被ることになる。


「……させない。……絶対に、させない!」


 私はジークヴァルト様の腕を借りて、空高く舞い上がった。

 崩れゆく背景を足場に、次元の壁を駆け上がる。

 

「ジークヴァルト様!!」


「ああ。……お前の望むままに、この『終わり』をぶち壊してやれ!!」


 ジークヴァルト様が私の背後から、全魔力を私に託した。

 私の銀の髪が黄金に輝き、瞳は紅いインクの色に染まる。

 

 私は、空に浮かぶ巨大な『Fin』の文字に向かって、筆を叩きつけた。


「――私の物語は、貴方たちが閉じていいものではないわ!!」


 ドォォォォォォォォンッ!!!


 白光が世界を包んだ。

 紅いインクが『Fin』の一文字をドロドロに溶かし、その上から、力強い筆致で新しい言葉を刻んでいく。


『―― To be continued(愛は、続く)』


 文字が物理的な衝撃波となって、次元の壁を粉砕した。

 パリン、と。

 世界を包んでいた「境界線」が、ガラスのように砕け散る。


 その瞬間、私は見た。

 

 砕けた空間の向こう側。

 そこには、私たちが今まで住んでいた中世のような景色ではない、異質な場所があった。

 

 光を放つ平らな箱。

 カチカチと音を立てる不思議な道具。

 そして――。

 驚愕の表情で、こちら(モニター)を覗き込んでいる、眼鏡をかけた一人の「人間」。


「……ジークヴァルト様。あそこに、誰か……」


「フン。……ようやく尻尾を掴んだな、作者(クソ野郎)」


 ジークヴァルト様が、次元の裂け目に手をかけた。

 物語の登場人物が、現実世界の縁を掴むという、あってはならない「バグ」。


「エルセ。……こっちへ来い。お前を不幸せに描いた奴の顔を、直接拝ませてやる」


 ジークヴァルト様の黄金の手が、次元の壁を強引にこじ開けていく――。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


「THE END」の文字を物理で叩き壊し、ついに次元の壁をこじ開けたジーク様。

「完結させない、俺たちが飽きるまでな!」と言わんばかりの暴挙。

そしてエルセ様が目にした、次元の向こう側の「作者」の姿……。


いよいよ物語は、究極のメタ・バトルへと突入します。

「登場人物が、自分を描いた人間に会いに行く」という、この作品最大の禁忌に、ジーク様はどうケリをつけるのか。


「Finを壊すシーン、鳥肌が立ちました!」「次元をこじ開けるジーク様、怖いくらいにカッコいい……」

と思っていただけたら、ぜひ評価【☆☆☆☆☆】やブックマークをお願いいたします!


皆様の応援が、次元の壁を粉砕する二人の「愛の暴力」になります。


次回、第40話は「原稿用紙を焼き尽くして」。

ついに「上位世界」に足を踏み入れる二人。

そこには、自分たちを「娯楽」として消費していた、残酷で平凡な真実が待ち受けていました……。お楽しみに!

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