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「無能な記録係」と捨てられましたが、私の綴る一字は世界の理。冷徹な第二王子に「君の全てを独占させろ」と溺愛され、私を捨てた国は歴史から抹消されました  作者: 星詠みミラ


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第38話:ジークヴァルトの逆指名

天を衝く光の柱が、王都の中央に降り注いだ。

 それは、先ほどまで空を埋め尽くしていた「悪意ある文字」とは対極にある、あまりに清らかで、あまりに神々しい輝き。


「……あ……、あぁ……」


 周囲にいた衛兵たちが、そして恐怖に震えていた民衆たちが、吸い寄せられるようにその光へ跪いていく。

 彼らの瞳からは先ほどまでの混乱が消え、陶酔しきったような、空虚な平穏が宿っていた。


 光の中から、一人の女性がしずしずと歩み寄ってくる。

 純白の法衣。腰まで届くプラチナブロンド。

 その瞳は、世界の全てを慈しむような蒼。

 

 私――エルセよりも遥かに「聖女」らしく、システムが用意した「完璧な正解ヒロイン」そのものの姿。


『――再構築完了。真のヒロイン、リリア・サンクチュアリを召喚。

 これより、バグ(エルセ)による汚染を排除し、正しいハッピーエンドへ軌道修正します』


 空に浮かぶシステムの無機質な文字が、勝利を確信したように踊る。


「初めまして、ジークヴァルト様。そして、哀れなバグの娘さん」


 リリアと名乗った女性が、鈴を転がすような声で微笑んだ。

 彼女が通り過ぎるだけで、荒れ果てた大地に花が咲き、空気が甘く浄化されていく。

 それは、書き換えられた「記録」ではなく、世界そのものが彼女を「主」として認めている証だった。


「ジークヴァルト様。貴方は、この不完全な娘に惑わされているだけ。……さあ、私の手を取ってください。私こそが、貴方を本当の幸福へ導く、運命の伴侶なのですから」


 リリアが、ジークヴァルト様へと白く細い手を差し出した。

 その瞬間、周囲の民衆たちが一斉に声を上げる。


「そうだ……! そのお方こそ、真の聖女様だ!」

「エルセは偽物だ! ジークヴァルト様を惑わすバグを追い出せ!」


 自分たちを救ったのが誰かも忘れ、システムが流し込んだ「設定」に飲み込まれていく人々。

 私は、ジークヴァルト様の腕の中で、身体が凍りつくのを感じた。

 

 私の記述ペンが効かない。

 彼女はシステムそのもの。私が「書き換える」べき対象ではなく、私を「消去する」ために設計された、完璧な上位存在。


「……ジークヴァルト、様……」


 私の手が、彼の服の裾を震えながら掴む。

 もし、彼までもがこの「完璧な光」に魅了されてしまったら。

 

 ジークヴァルト様は、黙ってリリアの手を見つめていた。

 その長い沈黙に、リリアの笑みが深まり、民衆の歓喜が高まる。

 

 ――だが。


「……おい、リリアと言ったか」


 ジークヴァルト様の、氷のように冷徹な声が響いた。

 彼は差し出された手を取るどころか、汚らわしいものを見るような、剥き出しの嫌悪をその黄金の瞳に宿していた。


「な……ぜ、殿下? 私は貴方のための正解こたえです。私を選べば、世界は救われ、貴方は永遠の栄光を――」


「吐き気がするな。……その安っぽい香水の匂いも、押し付けがましい『救済』の光も」


 ジークヴァルト様は、リリアを無視して、私の腰を砕かんばかりの力で抱き寄せた。

 彼は私の頬に自分の顔を寄せ、その「紅のインク」で汚れた私の香りを深く吸い込む。


「殿下……!? その娘はバグです! 物語を壊し、貴方を破滅させる毒ですよ!」


「毒? ああ、そうだな。……私はこのひとの毒で、とっくに狂っているんだよ」


 ジークヴァルト様が、凶悪なまでに美しい笑みを浮かべた。


「リリア。お前は確かに完璧だ。作者(クソ野郎)どもが、読者に媚びて造り上げた『理想の女』なのだろう。……だが、残念だったな。私の趣味は、最高に悪くてね」


 彼はリリアを指差し、地を這うような声で宣告した。


「私が愛しているのは、泥にまみれて絶望し、私の腕の中で震えながら、それでも私を離さないとペンを握る……この、不完全で、脆くて、どうしようもなく愛おしい、世界にたった一人のエルセだけだ」


「な……っ!? 理解不能です! 設定上、貴方の魂は私に惹かれるように――」


「設定だと? そんな一行で、私の執着が縛れると思うな。……いいか、リリア。お前のような『記号』に、私のエルセをバグ呼ばわりする権利はない。……失せろ。次はその神々しい首を、私の剣で叩き落としてやる」


 黄金の殺気が爆発した。

 リリアが放っていた聖なる光が、ジークヴァルト様の「純粋な執着」という名の闇に押し返され、ひび割れていく。


「……っ……、あ、ああ……!!」


 リリアの顔が、驚愕と屈辱に歪んだ。

 完璧なヒロインとして造られた彼女にとって、「拒絶される」という事象は存在し得ないはずだった。


「エルセ、ペンを出せ。……この女を、私の視界から消去しろ」


「はい……! ジークヴァルト様!!」


 私は、彼の圧倒的な肯定に、魂が震えるのを感じた。

 もう、迷わない。システムが何を「正解」だと言おうと、この人が私を「真実」だと決めてくれた。

 

 私は、紅のインクをペン先に宿し、リリアの足元に文字を刻んだ。


『――三月二十六日。真の聖女リリアは、ジークヴァルト・フォン・ローゼルの物語において、ただの「通行人A」として定義された』


「な……、何を……! 私の権限が……消えて……!?」


 リリアの神々しい法衣が、ただの粗末な麻布へと変わっていく。

 彼女の存在を支えていた「ヒロイン属性」が、私の記述とジーク様の拒絶によって、跡形もなく剥ぎ取られていく。


「通行人Aだと……!? 私が!? この世界の救世主である私がぁぁぁっ!!」


 叫びながら、リリアの姿はモブの群衆の中に紛れ、誰にも認識されない「ただの平民」へと姿を変えていった。

 システムの「強制修正」は、ジークヴァルト様の異常なまでの逆指名(エルセへの執着)によって、完膚なきまでに粉砕されたのだ。


 だが。

 

 平民となったリリアの瞳の奥で、再び黒いノイズが走った。

 

『――最終宣告。真のヒロインを拒絶したことにより、物語の「完結」は不可能となりました。

 これより世界は、未完のまま「強制廃棄」へと移行します。

 カウントダウン……開始』


 空が真っ赤に染まり、世界がバキバキと音を立てて崩壊し始める。

 愛を選んだ代償。それは、二人が愛し合うための「舞台」そのものが消えること。


「……フン、望むところだ」


 ジークヴァルト様は、崩れゆく世界の中で、私を抱きかかえて不敵に笑った。


「エルセ。……この箱庭が消えるなら、外側の奴らの喉元まで、道を作れ。

 ……次は、お前を『不完全』だと言った作者どもの顔を、直接拝みに行ってやる」

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


「真のヒロイン」を秒で「通行人A」に格下げするジーク様!

これこそが、なろう読者が待ち望んだ「究極の偏愛」ですね。

どんなに完璧な美女が現れても、エルセ様以外は「視界の汚れ」でしかない。ジーク様のブレない狂気が最高に頼もしい回でした。


しかし、その愛が世界を「廃棄処分」へと追い込んでしまいました。

物語そのものが消えゆく中、ジーク様はまさかの「上位存在への殴り込み」を示唆……!?


「ジーク様の毒舌、最高にスカッとした!」「通行人A扱いは笑うw」

と思っていただけたら、ぜひ評価【☆☆☆☆☆】やブックマークをお願いいたします!


皆様の応援が、崩壊する世界を繋ぎ止めるエルセの「筆の魔力」になります。


次回、第39話は「黄金の魔王と銀の女神」。

ついに二人の魔力が完全に同期し、世界の境界(メタ・フィクションの壁)を物理で破壊し始めます! お楽しみに!

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