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「無能な記録係」と捨てられましたが、私の綴る一字は世界の理。冷徹な第二王子に「君の全てを独占させろ」と溺愛され、私を捨てた国は歴史から抹消されました  作者: 星詠みミラ


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第32話:『初めまして』は拒否します

――バァンッ!!


 豪奢な装飾が施された王宮の正門が、物理的な衝撃波と共に吹き飛んだ。

 降りしきる雨の音をかき消す、金属と石材が砕ける断末魔。


「……な、なんだ!? 賊か!」

「騎士団を呼べ! 誰かいるのか!」


 右往左往する衛兵たちの中心を、一人の男が悠然と歩いてくる。

 びしょ濡れの黒衣を纏い、腕の中には泥に汚れた少女――私を、この世の何よりも尊い宝物のように抱きかかえたジークヴァルト様だ。


「どけ。死にたくなければな」


 その声一つで、訓練された衛兵たちが蛇に睨まれた蛙のように硬直した。

 1回目・・・・の彼は、もっと冷静で、もっと周囲に配慮する「王子」だったはずだ。けれど今の彼は、まるで行く手を阻むものすべてを噛み殺す、檻から放たれた飢えた獅子そのものだった。


「ジ、ジークヴァルト殿下……!? なぜ、その追放された無能ゴミを連れ戻して……」


「二度とその言葉を口にするな。次はお前の家系ごと、歴史から削り取ってやる」


 ジークヴァルト様の黄金の瞳がギラリと光った瞬間、衛兵は言葉を失い、その場に膝をついた。

 

 彼は私を抱いたまま、迷うことなく玉座の間へと続く大階段を駆け上がる。

 私の意識はまだ混濁していた。雨の冷たさと、彼の胸の熱さ。

 頭の中に、覚えのない、けれど懐かしい銀色の景色が火花のように散る。


「……ジーク、様……。私、を……どこへ……」


「地獄の底まで、と言いたいが……まずは、お前に泥を塗ったクズに、その代償を支払わせに行く」


 玉座の間の扉が、彼の蹴り一発で文字通り粉砕された。

 中にいたのは、ワイングラスを片手に、偽聖女メリーナと談笑していたジュリアン様だった。


「……ジークヴァルト? 騒々しいぞ。夜分に何の用だ。それに、その薄汚い女をなぜまた……」


 ジュリアン様が、心底不愉快そうに眉をひそめる。

 1回目・・・・のこの時、私は彼の冷たい言葉に絶望し、ただ泣くことしかできなかった。

 

 けれど。


「――『初めまして』の挨拶は、省略させてもらうぞ、兄上」


 ジークヴァルト様が、冷笑を浮かべて一歩踏み出す。


「お前がこれから吐こうとしている唾棄すべき台詞も、エルセに味あわせようとしている絶望も、私はすべて『既読』だ。……だから、プロットを飛ばして、結末エンドロールから始めてやる」


『警告:主要キャラクターによるシナリオの強制スキップ。

 修正プログラム……実行不能。システムに甚大なノイズが発生しています』


 空中に浮かぶ、私にしか見えないはずの無機質な文字。

 それが激しく点滅し、火花を散らしている。


「何を訳の分からんことを……! 衛兵! この無礼な弟を捕らえろ!」


 ジュリアン様が叫ぶが、誰も動けない。

 ジークヴァルト様が放つ圧倒的な殺気が、部屋全体の空気を「固定」してしまっているからだ。


「メリーナと言ったか、そこの偽物」


 ジークヴァルト様の視線が、震えているメリーナを射抜いた。


「お前の『聖女の力』とやらは、エルセの力を盗んで見せているだけの安っぽい手品だ。……今ここで、そのメッキを剥いでやろうか?」


「な、何を……! 私は神に選ばれた聖女よ! そんな、泥だらけの無能と一緒にしないで!」


「……そうか。ならば、その『神』ごと、お前を否定してやろう」


 ジークヴァルト様が、自由な方の手を私――私の胸元へと伸ばした。

 そこには、1回目・・・・ならまだ発現していないはずの、銀のペンが眠っている。

 

「エルセ、出せ。お前の魂は、既に覚えているはずだ」


 彼の熱い指先が触れた瞬間、私の胸の奥で、銀色の感情が爆発した。

 

 眩い光と共に、私の手に一本のペンが現れる。

 まだ「誓約の筆」に進化する前の、けれど以前よりもずっと鋭い輝きを放つ、銀のペン。


「……あ。……あぁ……」


 記憶が、濁流となって流れ込んでくる。

 そうだ。私は、このペンで、この人の隣にいる未来を記すと決めたんだ。

 

 私はジークヴァルト様の腕の中で、震える手でペンを構えた。

 

「書き……ます。……私は、もう……『無能』ではありません!」


『三月二十六日。偽聖女メリーナの奇跡は、その根源から『嘘』として定義された』


 銀のインクが空中に一線を画す。

 その瞬間、メリーナが纏っていた神々しい光が、腐った泥のようにボロボロと崩れ落ちた。


「きゃあああああ!? 私の……私の光が! 体が……醜くなっていくわ!!」


 メリーナの肌は浅黒く変色し、その美しい髪はバサバサの藁のように変わる。

 彼女の正体――エルセから奪った魔力で塗り固めた偽りの美貌が、一瞬で剥がれ落ちたのだ。


「メ、メリーナ!? なんだその姿は! 汚らわしい、寄るな!」


 ジュリアン様が、さっきまで愛でていた女性を突き飛ばした。

 1回目・・・・では数ヶ月かけて行った「ざまぁ」が、わずか数分で、より無残な形で完遂される。


「……これが、お前たちの選んだ物語の末路だ、兄上」


 ジークヴァルト様が、凍てつくような笑みを浮かべてジュリアン様を見下ろした。


「さて。次は、お前がエルセを『無能』と呼んだその口を、どうやって塞いでやるか……じっくりと考えさせてもらおうか」


 王宮全体が、ジークヴァルト様の放つ黄金の魔力に震える。

 けれど、その時。

 

 玉座の後ろの壁が、ノイズと共にグニャリと歪んだ。

 

『――外部からの違法な上書きを確認。

 「検閲者リテラシー」を派遣します。対象……ジークヴァルト・フォン・ローゼル』


 現れたのは、真っ黒なインクで描かれたような、顔のない騎士たち。

 彼らは物理的な武器ではなく、巨大な「消しゴム」のような盾を構えていた。

 

「フン、ようやくお出ましというわけか、作者(クソ野郎)の手先ども」


 ジークヴァルト様は私を床へ優しく下ろすと、その前に立ち塞がった。

 

「エルセ、見ていろ。……ここからは、シナリオにはない『真実』を刻む時間だ」

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


「初めまして」を拒否して、即座に「ざまぁ」を執行するジーク様!

1回目での鬱憤を晴らすかのようなスピード感でお届けしました。

メリーナのメッキが速攻で剥がれるシーン、書いていてスカッとしましたわ。


しかし、ついに現れたシステムの刺客「検閲者」。

彼らは物語を「修正」しようとする、物理法則を超えた存在です。

ジーク様の「記憶あり無双」は、このシステムにどこまで通用するのでしょうか?


「ジュリアン様の狼狽ぶりが最高!」「ジーク様の『既読』発言に痺れた!」

と思っていただけたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】の評価やブックマークをお願いいたします!


皆様の応援が、シナリオを粉砕するエルセの「銀のペン」の動力になります。


次回、第33話は「文字のスクリプト・バリアを殴り飛ばせ」。

物理的な攻撃を「修正」してしまう検閲者に対し、ジーク様が放つ驚愕の「メタ・アクション」とは……お楽しみに!

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