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「無能な記録係」と捨てられましたが、私の綴る一字は世界の理。冷徹な第二王子に「君の全てを独占させろ」と溺愛され、私を捨てた国は歴史から抹消されました  作者: 星詠みミラ


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第31話:再演される絶望と、黄金の乱入者

頬を打つ雨が、ひどく冷たい。

 泥の匂い。遠くで聞こえる、自分を嘲笑うような馬車の車輪の音。


「……あ、あ……」


 声が出ない。

 私は、冷たい石畳の上に倒れ伏していた。

 指先一つ動かす気力も湧かない。

 公爵家から追放され、婚約者のジュリアン様から「無能」と切り捨てられ、この雨の中に投げ出された。

 

 ……おかしい。

 私は、もっと大切な「何か」を知っていたはずだ。

 誰かの温もり。黄金の光。銀のインク。

 けれど、その記憶は、まるで水に溶けた絵具のように、激しい雨にかき消されていく。


『――不遇令嬢エルセ。彼女はここで死に、物語は悲劇として完結する』


 ふと、空中に「文字」が見えた気がした。

 半透明の、無機質な文字。

 それが、私の運命を一方的に断定している。


「……だれ、か……」


 暗い路地裏の向こうから、数人の男たちの足音が近づいてくる。

 助けが来たわけではない。

 彼らが抜いた剣の、冷たい銀光が見えた。

 

「悪く思うなよ、お嬢さん。第一王子殿下の命令だ。『後の憂いを断て』とな」


 1回目・・・・には、こんな展開はなかった。

 けれど、私の意識がそう叫ぶより早く、男たちの剣が振り下ろされる。

 死。冷たい暗転が、私を飲み込もうと――。


 ドォォォォォォォンッ!!


 衝撃波が、路地裏の空気を一瞬で真空に変えた。


「な……が、はぁっ!? なんだ、この光……ぎゃあああああ!!」


 剣を振り下ろしたはずの男たちが、紙屑のように吹き飛んだ。

 石畳が爆ぜ、周囲の壁が粉々に砕け散る。

 

 爆風と砂塵の向こう側から、一人の男が歩いてくるのが見えた。

 

 濡れた黒髪。

 闇を切り裂くような、苛烈な黄金の瞳。

 

「……見つけた。ようやく、見つけたぞ。私の、エルセ」


 男の声は、泣き出しそうなほど切なく、そして世界すべてを敵に回しても惜しくないという狂気に満ちていた。

 彼は倒れている私の元へ駆け寄ると、泥だらけの私の身体を、宝物を扱うような手つきで抱き上げた。


「……だ、れ……?」


「忘れたとは言わせない。……いいや、忘れていても構わない。お前の魂に、私の名前を、私の愛を、今すぐ何度でも刻み込んでやる」


 男――ジークヴァルト様は、私の頬に自分の額を押し当てた。

 熱い。

 この雨の中で、彼の体温だけが、私の凍りついた記憶を強引に解かしていく。


「ジーク……ヴァルト……さま……?」


「ああ。そうだ、エルセ。思い出さなくていい。私がすべて覚えている。

 ……お前を捨てたゴミ共のことも。お前を神にしようとしたシステムも。

 一文字残らず、私がこの手で磨り潰してやる」


 彼が立ち上がると同時に、空中に再びあの「文字」が浮かび上がった。


『エラー。第ニ王子の介入を検知。シナリオとの乖離が許容範囲を超えています。

 ――ジークヴァルト・フォン・ローゼル。貴公に、ヒロインとの接触権限はない』


 文字が、物理的な「壁」となって私たちの行く手を阻む。

 

「権限だと? 笑わせるな、文字盤風情が」


 ジークヴァルト様が、空いた片手で腰の剣を抜いた。

 その刀身は、まだこの時点では「平凡な魔剣」のはず。

 けれど、彼の執着が、彼の愛が、その剣に次元を越えた力を宿らせていた。


「私の愛が……お前たちの『設定』に従うと思うな。

 ――エルセ。見ていろ。これが、お前への最初の『贈り物』だ」


 ジークヴァルト様が剣を一閃させた。

 

 黄金の斬撃が、空中の「文字」を文字通り切り裂いた。

 

『警告……警、告……修、正、不、能……ッ!!』


 悲鳴のようなノイズと共に、システムメッセージが粉々に砕け散る。

 

 1回目・・・・のこの夜、彼は私を拾い、静かに離宮へと運んだ。

 けれど、今の彼は違う。

 

「皆に告ぐ! 隠れて見ている『作者かみ』どもよ!」


 ジークヴァルト様は、雷鳴のような声で空を仰いだ。


「このひとの涙一粒につき、お前たちの綴る世界を一つずつ滅ぼしてやる。

 ……さあ、二度目の物語の始まりだ。今度は、一頁目から血の海に沈めてやる」


 彼は私を強く、壊れそうなほど抱きしめ、降りしきる雨の中を歩き出した。

 

 かつて私を捨てた王宮の方角へ。

 

 1回目よりも数倍速く、1回目よりも数万倍深い。

 

 狂った獅子の、真実の逆襲が始まった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


第1話のリプレイ……のはずが、ジーク様が最初からアクセル全開すぎて、物語の土台がガタガタと崩れ始めました!

1回目では言えなかった「エルセへの愛」を、システムメッセージを斬り裂きながら叫ぶジーク様。

この「物理でメタを殴る」スタイルこそ、私たちのジーク様ですね!


「ジーク様の登場シーン、鳥肌が立った!」「システムメッセージを斬るなんて最高にスカッとするw」

と思っていただけたら、ぜひ評価【☆☆☆☆☆】やブックマークをお願いいたします!


皆様の応援が、二度目の物語をより苛烈に、より甘く彩るインクになります。


次回、第32話は「『初めまして』は拒否します」。

王宮にエルセを連れ戻したジーク様。

そこで再会するジュリアンに対し、ジーク様が「記憶あり」の状態で行う、最速かつ最凶の報復とは……お楽しみに!

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