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「無能な記録係」と捨てられましたが、私の綴る一字は世界の理。冷徹な第二王子に「君の全てを独占させろ」と溺愛され、私を捨てた国は歴史から抹消されました  作者: 星詠みミラ


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第30話:独占欲は次元を越えて

ドクン、と。

 手の中で、黄金が混じり合ったペンが脈動を続けている。


 イグニスが消え、真っ白に塗り潰されたはずの視界には、今や私が描き出した黄金の風景が広がっていた。けれど、私の膝は震え、視界が急激に窄まっていく。


「……あ」


 力の使いすぎだ。管理者の権能を「創造」へと転換した代償が、容赦なく肉体を襲う。地面に倒れそうになった私の身体を、鋼のような腕が強引に引き寄せた。


「無茶を……っ。何度言えば分かる、エルセ」


 ジークヴァルト様の、焦燥に燃える黄金の瞳が目の前にあった。

 彼は私の手からペンをもぎ取るように奪うと、そのまま私を横抱きにし、私が描き出したばかりの離宮の寝室へと大股で歩き出す。


「ジークヴァルト、様……。でも、勝てました。私の、私たちの真実は……」


「黙れ。今は世界のことなど、一文字も考えるな」


 寝台に下ろされると同時に、彼は私の髪を乱暴なほど熱く、愛おしそうに掻き上げた。その指先はまだ微かに震えている。神域を物理的に粉砕した男が、私の疲弊にだけは、これほどまでに怯えている。


「……イグニスが言っていた『本当の作者』という言葉。あれが、お前を不安にさせたのか」


 図星だった。私は彼の胸元に顔を埋める。

 空から響いた、あのペンが紙を走るような不気味な音。

 私たちがどれだけ足掻き、愛を誓っても、それが誰かの手によって「書かれた」ものだとしたら――。


「もし、この物語に本当に作者かみがいるのだとしたら……。その人は今、私たちがこうしていることも『記録』しているのでしょうか」


「……フン。不愉快極まりないな」


 ジークヴァルト様は私の顎を強引に持ち上げ、射抜くような視線をぶつけてきた。その瞳の奥には、次元の壁さえも焼き切らんばかりの、どす黒く、そして甘い「独占欲」が渦巻いている。


「どこの誰かは知らんが、私のエルセを覗き見る権利など、この世界の創造主であろうと許さん。……エルセ。私の目だけを見ろ。他人の筆跡など、お前には必要ない」


「ジークヴァルト、様……っ」


 彼の唇が、私の首筋に深く、刻印を残すように押し当てられた。

 熱い。痛いほどに、彼の存在が私の肌に刻まれていく。

 彼はそのまま、私の耳元で地の底から響くような声で囁いた。


「もし『作者』がこの物語を悲劇にしようとするなら、私はその筆を折り、紙を焼き、その喉をこの剣で貫きに行く。……お前の幸せを記せるのは、お前自身と、その隣にいる私だけだ」


 ジークヴァルト様の手が、私の腰を強く引き寄せる。

 その力強さが、次元の揺らぎさえも「固定」してしまうような気がした。

 

 そうだ。たとえ誰かに書かれた人生だとしても、この腕の熱さだけは、書き換え不可能な「真実」だ。


「……そうですわね。私の幸せは、もう、私の手の中にありますもの」


 私は彼に応えるように、その広い背中に手を回した。

 

 その時。

 

 ピキィィィィィィィン!!

 

 描き出したばかりの離宮の天井が、ガラスのようにひび割れた。

 

「……チッ、しつこいな。今度は何だ」


 ジークヴァルト様が私を庇うように立ち上がる。

 ひび割れた空の向こう側から、無数の「文字」が、雨のように降り注いできた。

 それは今まで私たちが目にしてきたこの世界の言語ではない。

 もっと上位の、意思を持った「読者の声」の集合体。


『エルセをもっと追い詰めろ』

『ジークヴァルトの絶望が見たい』

『管理者の交代を要求する』


 空中に浮かび上がる、無機質で残酷な言葉の群れ。

 これが、イグニスの言っていた「作者」――あるいは、この世界を「観測」し、物語として楽しんでいる「上位存在」の正体。


「……観客席から好き勝手なことを。死にたい奴から前に出ろ。私の剣は、概念さえも切り裂くと言ったはずだぞ」


 ジークヴァルト様が黄金の剣を構え、空に浮かぶ「文字」を一刀両断する。

 文字は悲鳴のようなノイズを上げて消滅するが、次から次へと新しい声が溢れ出してくる。


『――イベント「強制連行」を開始します』


 無機質なシステムの声。

 私の足元に、真っ黒なインクの渦が口を開けた。


「エルセッ!!」


「あ……ジークヴァルト、様……っ!」


 彼が私の手を掴もうとした瞬間、私たちの間に、目に見えない「ページ」が差し込まれた。

 

『――二人は引き裂かれ、絶望の淵で再会を誓う』


 空中に浮かんだその一文が、私のペンの権能さえも上書きして、「確定した事実」として世界を書き換えていく。


「ふざけるな……! そんな一行で、私の愛を……私のエルセを奪えると思うな!!」


 ジークヴァルト様の絶叫も虚しく、私の身体はインクの底へと沈んでいく。

 

 けれど、最後に見たジークヴァルト様の瞳は、絶望などしていなかった。

 

 彼は、自らの剣を自分の心臓にではなく、この「物語そのもの」に向けて突き立てていた。

 

「……待っていろ、エルセ。神が物語を綴るというなら、私はその原稿を血で染め、お前を奪い返してやる!!」


 光が弾け、私の意識は暗転した。

 

 次に目を開けた時。

 そこは、見覚えのある「あの場所」だった。

 

 雨の降る、冷たい路地裏。

 私がすべてを失い、ジークヴァルト様に拾われる前の、あの『第1話』の夜――。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


第3章の山場、「上位存在(作者・読者)」による強制的な物語の修正が始まってしまいました。

これまでのハッピーエンドを「なかったこと」にしようとする最悪のイベント。

まさかの第1話へのループ!?


しかし、ジーク様は次元の壁さえも物理でぶち壊す気満々です。

「作者」対「ジークヴァルトの独占欲」、勝つのはどちらでしょうか。


「ジーク様の宣戦布告が熱すぎる!」「第1話に戻るなんて絶望感ヤバい……」

と思っていただけたら、ぜひ評価【☆☆☆☆☆】やブックマークをお願いいたします!


皆様の応援が、強制イベントさえも粉砕するジーク様の「愛の暴力」になります。


次回、第31話は「再演される絶望と、黄金の乱入者」。

記憶を消されかけたエルセの前に、物語のルールを無視して「前回の記憶」を持ったままのジーク様が乱入します! お楽しみに!

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