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「無能な記録係」と捨てられましたが、私の綴る一字は世界の理。冷徹な第二王子に「君の全てを独占させろ」と溺愛され、私を捨てた国は歴史から抹消されました  作者: 星詠みミラ


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第29話:銀のペン、第2形態への進化

「……消えなさい。不完全な物語は、白紙に戻るのが慈悲なのです」


 少年――イグニスの呟きと共に、世界から「色」が失われていった。

 彼が一歩踏み出すたびに、足元の大理石が砂にすらならず、ただ真っ白な平画へと塗り潰される。

 

 それは破壊ではない。

 そこに何かが「あった」という事実そのものを、なかったことにする、絶対的な否定。


「エルセ、下がっていろ。……こいつ、先ほどの小娘とは格が違う」


 ジークヴァルト様が私を背後に庇い、黄金の魔力を爆発させる。

 けれど、彼の放つ苛烈な閃光さえも、イグニスの掲げた「黒い石」が放つ虚無の波動に触れた瞬間、パチンと泡のように消えてしまった。


「無駄ですよ、ジークヴァルト殿下。貴方の愛も、その力も、私の『消しゴム(イレイザー)』にとっては、ただの書き込みミスに過ぎません」


 イグニスが手を伸ばす。

 その指先が空をなぞると、ジークヴァルト様の右腕の輪郭が、ノイズと共に白く掠れていく。


「あ……っ、ジークヴァルト様!」


「案ずるな、エルセ! これくらい、どうということは……ッ!」


 強がっていても、彼の顔が苦痛に歪む。

 存在を根源から消される痛みは、どれほどのものか。

 

 私は、手に握った新しいペン――『誓約の筆』を強く握りしめた。

 先ほどジークヴァルト様の魂を分け与えられたこのペンは、今もトクン、トクンと温かい鼓動を刻んでいる。

 

 ――負けたくない。

 この人が守ろうとしてくれた私の物語を、白紙になんかさせてたまるものか!


『……管理者候補エルセ、認証。第ニ形態セカンド・モード……「創造クリエイト」を展開します』


 頭の中に、私の声に似た、けれど冷徹なシステムの声が響いた。

 

 ペンの穂先から、今まで見たこともない「黄金のインク」が溢れ出す。

 それは単なる魔力ではない。

 私とジークヴァルト様が共有した、命の熱そのもの。


「……イグニス。貴方が世界を白紙に戻すと言うのなら」


 私は一歩、ジークヴァルト様の前に出た。

 掠れかかっていた彼の右腕に、そっと黄金のペン先を滑らせる。


「私はその白紙の上に、もっと強くて、もっと美しい『真実』を何度でも描き直します!」


 黄金のインクが、ジークヴァルト様の腕を包み込む。

 白く消えかかっていた輪郭が、以前よりも力強く、輝くような黄金の線で再定義されていく。

 

『――三月二十六日。ジークヴァルト・フォン・ローゼルの存在は、不滅の黄金として再定義された』


 私が記したその「文字」が、空中を舞い、物理的な鎖となってイグニスの虚無を縛り上げた。


「……ッ!? なんだ、このインクは……! 消えない……消せない!? システムの消去命令デリートを、上書きしているのか……!」


 イグニスの瞳に、初めて狼狽の色が浮かぶ。

 私は止まらない。

 ジークヴァルト様から流れ込んでくる熱い魔力を、すべてペン先に乗せて、真っ白になった地面へと叩きつける。


「描け(ペイント)!!」


 ドォォォォォォンッ!!


 銀のペンから放たれた黄金の奔流が、白紙の世界を塗り替えていく。

 ただの空中庭園ではない。

 そこには、私が夢に見た、ジークヴァルト様と共に歩む新王国の景色――豊かな実り、民の笑顔、そして何より、私たちの穏やかな日々が、「絵画」となって実体化していく。


「ぐ、ああああああああっ!!」


 イグニスが放つ黒い波動が、黄金の風景に飲み込まれ、霧散した。

 

 消しゴムは、白紙にしか効かない。

 けれど、今の私は「白紙」の上に、消せない「黄金の真実」を塗り重ねる、創造者へと進化したのだ。


「……ふぅ、はぁ……」


 全身の力が抜け、膝をつきそうになった私の体を、ジークヴァルト様が力強く抱きとめた。

 黄金の光に包まれた彼の腕は、以前よりもずっと熱く、逞しく感じられた。


「……エルセ。君は、本当に……」


 ジークヴァルト様が、感極まったように私を抱きしめる。

 その胸の鼓動が、私の魂に共鳴する。

 

 イグニスは、真っ白な平画へと押し戻され、よろよろと立ち上がった。

 彼の持っていた「黒い石」は、半分が黄金のインクに染まり、機能を停止している。


「……負け、ですね。存在を消去するのではなく、存在を『定義』し直されるとは」


 イグニスは、無機質な瞳で私とジークヴァルト様を見つめ、どこか悲しげに微笑んだ。


「おめでとう。貴女たちは、この島の『ルール』を一つ、完全に破壊しました。

 ……ですが、気をつけてください。

 この『神々の遊戯場』は、誰かの一生を綴った巨大な原稿用紙に過ぎない。

 貴女たちが描けば描くほど、この物語の『本当の作者』が……目覚めてしまいますよ」


 イグニスの姿が、霧のように消えていく。

 

 後に残ったのは、黄金のインクで塗り替えられた、異常なまでに美しい空中庭園。

 そして、私の手の中で静かに脈動する、黄金のペン。


「……本当の、作者?」


 私がその言葉を反芻した瞬間。

 遥か上空、雲の向こう側から、巨大な「ペンが紙を走る音」が、雷鳴のように鳴り響いた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


「消しゴム」に対抗して「黄金のインクで上書きする」!

エルセ様の力が、ついに「記録」を超えて「創造」の領域に足を踏み入れました。

ジーク様との合体攻撃(?)、書いていてミラも鳥肌が立ってしまいました……!


「ジーク様の存在が黄金で固定されるシーンが尊すぎる」「イグニスの去り際の言葉が不穏……」

と思っていただけたら、ぜひ評価【☆☆☆☆☆】やブックマークをお願いいたします!


皆様の応援が、謎の「作者」の影を追い払うエルセの「筆の魔力」になります。


次回、第30話は「独占欲は次元を越えて」。

戦いも一段落……と思いきや、ジーク様の嫉妬が今度は「次元」の壁を突き破る!?

エルセ様への「お仕置き(溺愛)」も待ち受けているようで……お楽しみに!

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