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「無能な記録係」と捨てられましたが、私の綴る一字は世界の理。冷徹な第二王子に「君の全てを独占させろ」と溺愛され、私を捨てた国は歴史から抹消されました  作者: 星詠みミラ


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第28話:獅子の咆哮、神域を揺らす

「……嘘」


 指先が、氷を掴んだように冷たい。

 私の手の中で静かに光る銀のペン。

 これまで、このペンで記す「幸せ」こそが、私のすべてだと思っていた。

 けれど、それが私の命を削り取った「削りカス」で出来ていたなんて。


 記せば記すほど、私は死に近づく。

 ジークヴァルト様との未来を確定させればさせるほど、私はその未来に居られなくなる。


「あ、あ……っ」


 ペンが、急に恐ろしくなった。

 私は反射的に手を離そうとした。けれど、指が強張って動かない。

 ベアトリクスが消えたあとの静寂が、耳鳴りのように頭の中で響く。


 その時。


 ――バキンッ!!


 私の思考を粉砕するように、強烈な衝撃が響いた。

 ジークヴァルト様が、その拳を大理石のテーブルに叩きつけたのだ。

 粉々に砕け散るティーセット。飛び散った破片が私の頬を掠めるが、痛みすら感じない。


「……あの、小娘が」


 ジークヴァルト様の背中から立ち昇る魔力が、陽炎のように空気を歪ませている。

 ゆっくりと振り返った彼の顔は――。

 かつて「氷の獅子」と呼ばれていた頃の冷徹さなど微塵もない。

 そこにあるのは、獲物を奪われかけた獣の、剥き出しの狂気だった。


「エルセ。そのペンを、こちらへ渡せ」


「ジ、ジークヴァルト様……? でも、これは私の……」


「渡せと言っている!」


 初めて聞く、咆哮に近い怒声。

 私は肩を跳ねさせ、吸い込まれるようにペンを彼に差し出した。

 ジークヴァルト様はそれを奪い取ると、私の細い手首を掴み、そのまま自らの胸へと引き寄せた。


「命を削る? 死を確定させる? ……笑わせるな」


 彼は私の瞳を覗き込み、黄金の瞳を爛々と輝かせる。


「神だかシステムだか知らないが、君の一秒を奪おうというのなら、私がこの世界のルールを根こそぎ噛み殺してやる。……インクが足りないと言うのなら、私の魔力を、私の魂を、私の命のすべてを吸い尽くすがいい!」


「そんな……! それでは、貴方が……ッ」


「構わん! 君の居ない世界に、私の命など一滴の価値も無いのだからな!」


 ジークヴァルト様が叫ぶと同時に、彼から溢れ出した黄金の魔力が、銀のペンへと濁流のように流れ込んだ。

 

 キィィィィィィィンッ!!


 銀のペンが、耐えきれないほどの高音を奏でる。

 私の命を求めていた「強欲な筆記具」が、ジークヴァルト様の圧倒的な魔力の質量に呑み込まれ、ひれ伏している。


『――不適合なエネルギーを検知。魔力供給過多により、出力プロトコルを再定義リブート……』


 空から再び、無機質なシステムの声が響く。

 けれど、ジークヴァルト様はそれを嘲笑うように空を仰ぎ、叫んだ。


「黙れ! 再定義など私がさせてやる!

 このひとの運命は、私だけのものだ! 神の都合で一文字も書き換えさせん!!」


 ドォォォォォォォンッ!!


 ジークヴァルト様の足元から黄金の光柱が爆発し、空中庭園全体を揺るがした。

 大理石は砕け、極彩色の花々は彼の覇気に当てられて一瞬で霧散する。

 

 その光の中心で、私の銀のペンが変質していった。

 

 銀色だった刀身に、ジークヴァルト様の魔力が「黄金の細工」として絡みつき、一つの新しい形を成す。

 それはもはや、管理者の道具ではない。

 

 ――二人の命を共有し、運命を共に刻む『誓約のコヴェナント・ペン』。


「……あ、あ……」


 手に戻ってきたペンの重みが、先ほどとは全く違う。

 冷たかった金属が、ジークヴァルト様の心臓のように、ドクン、ドクンと温かく脈動している。

 

 私の命を削るのではない。

 彼と、私の、二人の命を燃料にして。

 二人が共に居ることだけを、「真実」として固定する力。


「……見たか、システム。エルセはもう、お前たちの駒ではない」


 ジークヴァルト様は、息を切らしながら私を強く抱きしめた。

 彼の魔力は一時的に枯渇しかけているはずなのに、その腕の力は少しも弱まらない。


「エルセ……。書き続けろ。私が、君の隣に居るという事実だけを」


「……はい、ジークヴァルト様。私、もう怖くありません」


 私は、彼の胸の中で新しくなったペンを握りしめた。

 ベアトリクスが残した絶望は、ジークヴァルト様の「愛という名の暴力」によって、新しい希望へと書き換えられたのだ。


 その時。

 空中庭園の端、崩れた回廊の向こう側に、新たな「影」が落ちた。


「……ひどい騒ぎですね。これでは他大陸の候補者わたしたちが、眠ることもできません」


 現れたのは、真っ黒な司祭服を纏った、物静かな少年。

 その瞳には、ベアトリクスのような傲慢さは無く、ただ「虚無」だけが湛えられている。


「第ニ候補、イグニスです。……ジークヴァルト殿下。貴方のその『愛』。

 ……私の『消しゴム(イレイザー)』で、消せるかどうか、試してみたくなりました」


 少年の手には、一見何の変哲も無い「黒い石」が握られていた。

 彼が一歩踏み出すたび、庭園の「存在」そのものが、鉛筆で書いた跡を消すように、音もなく消滅していく。


 ジークヴァルト様の独占欲と、少年の虚無。

 二つの究極が、今、再び激突しようとしていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


「命を削るなら俺の命を使え!」というジーク様の狂おしいほどの愛。

システムのルールさえも「重すぎる魔力」で力業解決し、ペンを進化させてしまいました!

これが「氷の獅子」の本来の姿……愛する人のためには、世界そのものを書き換えることも厭わないのですね。


そして登場した新たな候補者イグニス。

「書く(確定)」能力に対し、「消す(白紙に戻す)」能力を持つ、エルセ様にとって最悪の天敵です。


「ジーク様の咆哮に痺れた!」「消しゴムの能力、ペンよりヤバくない……?」

と思っていただけたら、ぜひ評価【☆☆☆☆☆】やブックマークをお願いいたします!


皆様の応援が、消しゴムの虚無を跳ね返すエルセの「筆の魔力」になります。


次回、第29話は「銀のペン、第2形態への進化」。

進化したペンの真の力とは? そしてイグニスの「消す」力に対し、ジーク様が放つ驚愕の一手とは……お楽しみに!

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