12.残灯
「ふー、ひっさびさの事務所だなぁ」
建物の前に生えている大木に手をかけて赤眼の男が言う。
「こんなもんあったか?」
記憶にない大木を眼にしたツェン=フォーカスがうわ言のように言葉を漏らす。
「なかったよ」
「ありませんでした」
そう答える二人の少年少女にツェンが記憶を手繰る。
時間の感覚など遥かな太古に失っていた男が彼等と過ごした時を想う。
忘れられるはずもない家族との記憶が蘇り、繰り返した10以上の季節が不老不死の男の頭に重くのしかかった。
「何でお前等は・・・」
何度自身に問われたか分からない言葉が思い浮かぶ。
幾度となく言われ続け、自身の心を抉られてきた言葉を。
光る朝焼けの中、ゆっくりと静かに。
紡ぐ。
「何でお前等は年をとらねぇんだ?」
微笑む二人の子供。
眼に映る全てが瓦解し、世界が白く開けた。
廃墟となった事務所を前に生い茂る大木の下、赤眼の男が約束の時が来たことを悟った。
アジトに戻ってきたシェルアードがソーマに告げる。
「後で話がある」
「リリィの日記を読んだのですね」
そう言葉を返された黒目の女が、普段はあどけない顔を歪めて返事をする。
「師匠。いや、ソーマ。今、ワシは全てを許すことができん」
「皆を集めてお話しいたしましょう。あの二人を除いて」
「今はオヌシを信用することができん」
白い胴着姿の女が見開いた眼で言い放った。
「でしょうね」
流すように発された言葉にシェルアードが髪を逆立たせて怒鳴り散らす。
「これ以上貴様と話はせん!!師事した時間が腐ってゆくわ!!」
肩を震わせてシェルアードが育ての親に背を向けた。
朝焼けが薄着の少年たちを照らす。
川辺の石に腰掛け、シルファの部屋から掠め取ってきた現代の品を並べて青眼の少年が言う。
「これ何だと思う?」
「何だろう。まな板かな?」
金眼の少年が魚籠に入っている魚をタブレットの上に置く。
「ツルツルしてて使えそうもないね」
「じゃあこいつは?俺は鏡だと思うんだが」
DVDをエルに手渡したバーズがそう言った。
「ただのガラクタじゃないかなぁ。真ん中に穴空いてるし」
「武器かも?」
数枚あったディスクの一つを手に取り、バーズが木々の中へ投げた。
木に弾き返されるそれを見て次の物品を漁る。
国の中央にある大樹がチラリと青く光った。




