9.哨戒
教会の鐘が鳴った。
白樺の樹林の中、ログが赤眼の男に告げる。
「俺はここでルーチェと暮らす」
「宗教上、他国も手を出せませんからね」
ルーチェの言葉を受けた赤眼の男が言う。
「へっ、羨ましい野郎だ。ルーチェちゃんを幸せにしろよ」
二人の子供を連れた黒いスーツの男が、二人の男女に背を向けながら右の手を上げて歩き出した。
天から降ってきた3m程の甲冑を6人が見つめる。
背負っていた片刃の大剣を手にして、黒い甲冑が飛んだ。
背中から火を噴き上げ振り下ろされた大剣を、バーズがレーンウォーグで弾いた。
「この剣で切れねぇだと!?」
青眼の少年が驚愕の声を上げる中、大剣を地面に刺した甲冑が座り込む。
「おい、何してやがる」
沈黙を続ける黒い甲冑にバーズがレーンウォーグを振り下ろす。
高い金属音が鳴り響き、大剣が弾かれた。
「何なんだ?テメェは」
その剣は、バーズが手に持てば刀身は透き通り、あらゆる物体を通過し切断する。
本人には重量がゼロになり、質量だけが斬った物体に伝わる神の剣。
それが盗賊団の認識だった。
蒸気を噴き上げ3mほどの甲冑が立ち上がり、黒い大剣を手にする。
飛び込んできたエルが拳を繰り出すが、その鎧はビクともしない。
こちらに顔を向けた双眸さえ見えぬ暗い兜を眼にしてエルが飛び退く。
「師匠キーーーーーーック!!」
そう叫びながら少女が甲冑に飛び蹴りを仕掛けた。
岩を蹴ったような感覚にシェルアードが痛む脚を抑えて退く。
「なんじゃアレは!化け物か!?」
「下がってろ」
ガンシュートが両刃の大斧を黒い甲冑の背後から頭に叩きつける。
同時にメリュアラーゼが手にした弓から矢を放つ。
弾かれたそれ等を見てバーズがレーンウォーグを再び振り下ろした。
切断できない鎧を見て青眼の少年が大剣から手を放す。
「くたばりやがれ」
透き通る刀身が黒く染まり本来の重量を取り戻す。
漆黒の甲冑が200kg程ある大剣を持ち上げてバーズへ柄を渡す。
「ナメてんじゃねぇ!!」
そう叫んだバーズの肉体が筋張り、筋肉を引き締まらせた。
徐々に歪になる骨格を見た盗賊達が少年から離れる。
「やり過ぎないで下さいよ!その時は私が君を止めます!!」
「バーズ!!30秒経ったら僕も止める!!」
「リミッターを外すとヤツの命に関わるからのぅ」
返事もなくバーズが地を蹴り、甲冑へ跳んだ。
音と共に飛んできた拳が黒い甲冑を跳ね上げる。
息を吐く間もなく二つの大剣を手にしたバーズが、打ち上げた甲冑を更に叩き落とした。
地面に打ち付けられる前に繰り出した蹴りが甲冑を跳ね飛ばす。
高速で飛んでいくそれを追い越し、二本の鉄塊を背後から叩きつけた。
骨が軋む。地に膝をついてバーズが思う。限界だ。黒い大剣を手にして立ち上がる甲冑を見て少年は死を覚悟した。
「強ぇな、お前。さっさと殺せよ」
そう告げた青い服を着た少年の横に甲冑が大剣を突き刺す。
「生殺しとかナメとんのかァーーー!!」
両の拳で突いた甲冑が彼方まで弾き飛ばされる。
折れた指と腕を見た仲間たちがバーズに駆け寄る。
「無茶しないで!」
金眼の少年が青眼の少年に言った。
「まだ来るぜ?」
こちらに近付いてくる黒い甲冑を眺めながら、大斧を手にしたガンシュートが告げる。
「逃げたところで追ってきそうじゃしのぅ」
構えを取ったシェルアードが覚悟を決めた。
「どけ」
折れた腕で周囲を囲む仲間を青髪の少年が振り払った。
眼前に迫る甲冑に少年がその青い瞳を輝かせる。
「削除だ」
平然と立っている甲冑にバーズが諦めの意を示した。
「何しに来たんだよ。お前」
再び地面に黒い大剣を刺して甲冑が座り込む。
「何か書いてありますね」
銀髪の男が『入団希望』という文字列に気づいた。
それを確認したバーズが叫ぶ。
「初めから言え!!」




