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The ability  作者: 不破陸
The ability
86/112

86.愛しの君を見つめてる

「ま、大体そんなところだな」

赤眼の男が説明を終えるとリネアが質問をする。

「お母さんが生きてること知らなかったんでしょ?どうして私が生まれた時のこと知ってるのかしらぁ?」

「俺が見てない部分はバーズから聞いた話だ。お前の見舞いの時に記憶を読んだんだとよ」

『俺は記憶を共有することができる』という青眼の男の言葉を思い出したリネアが告げる。

「何で一緒に暮らさないの?そこまでしておいて。生きてるのが分かったのに」

「何度も大事なモン失くしたくねぇんだよ」

その言葉にリネアが押し黙る中、ツェンが続ける。

「沙羅にはお前がいる。だけどよお」

ツェン=フォーカスは再臨したバーズ=クィンファルベイの存在が徐々に消えかけていることを見逃していなかった。

平和になった今、クィンは人類から望まれていない。混じっていた漆黒の髪も青く染まっている。

バーズ=クィンファルベイを望んだのは自身と子供たちだけだとツェンは考えている。

「アイツは俺がいなくなったら一人になっちまうんだ」

事実、子供たちが成長し、独立へ近づく度にクィンの存在は薄くなっていった。

そして誰からも望まれなくなった時に独り消える。赤眼の男はその言葉を娘に告げなかった。

それを受けてリネアは以前ジェット機の中で聞いた父の言葉を思い出す。

「確かフォーカスって名前はバーズがつけたんだよねぇ?」

「ああ、そうだが」

「ふーん」

赤い瞳の女が母ののろけ話を思い出しつつ、何故母親がツェンが戻らないことを許容しているのか。その答えにようやく辿り着いた。

「モテるね、父さん」

「当たり前だろ。空前絶後の永久不滅の稀代の美青年だぜ?」

笑顔でリネアがそうだね、と言った。




長い黒髪を後ろで結った男が呼び鈴を鳴らす。

周囲の家屋と比べると豪華な外観をしている白い家の扉が開いた。

「どちら様でしょう?」

こちらを見上げる中年の女に黒目の男が答える。

「ログ=ジェネクト。リネアから連絡があったはずだ。結婚の顔合わせに来ると」

「ああー!はい、はい。奥様からお伺いしております。ご案内しますー」

男がブーツを脱ぎ、ホームヘルパーの後をついていく。細部にも気品のある装飾が施されている廊下に意識を向けながら、前を向いたままログが居間へと辿り着いた。

「お待ちしておりました」

椅子から立ち上がった目の開かない黒髪の女が頭を垂れた。

「こんにちは、ログです。リネアのお見舞い以来ですね」

質素ながらも上品な調度品が慎ましやかに配置されているリビングを確認し、ログが挨拶を返した。

「一応の礼儀だから言いましたけど、かたっ苦しいのはお互いにやめにしましょう。お座りください」

砕けているのか敬語なのか分からない言い方をするサラにログが椅子を引いて座る。

「この度は結婚のご挨拶に」

「嘘なら聞きたくないかな」

苦笑いをする少女のような顔つきに男が凍り付く。

「何故そう思う?」

「匂いが違います。以前のログさんとは」

テーブルに置かれている灰皿を目にして男が懐を探る。

マッチを差し出した女が告げる。

「こちらをお使いください」

「いや、いい」

煙草を仕舞った男が答えた。

「ここは、落ち着く」

「お茶をお持ちしますね」

そう言ったサラがホームヘルパーを呼んだ。

しばらく黙ったままのログの前にブラックコーヒーが置かれる。

「アンタも読心術でも持ってるのか?」

「『も』ってことは他にもいるのでしょうか」

言葉尻を捕まえているに過ぎないが的確に人の心に調和してくる。

「取り立てて意味はない」

「ログさんもわざと言ったのでしょう?」

赤眼の死神が篭絡されるはずだとログは思った。

「雇用主がサトリみたいなものでな」

「バーズさんですね」

アラサーの女が鼻をふんふんと鳴らしながら応じる。

「君の娘と偽装結婚をする」

「はい」

あまりに清々しい返事にログが聞き返す。

「自分の娘だぞ?少しは疑問を持たないのか?」

「私の娘ですから」

母娘の思慕とでもいうのだろうか。ログにはその感情が分からなかった。

「その後にツェンと共に俺は死ぬことになっている」

「そういう筋書きなんですねー。私どんな顔してればいいかしら」

どうもこの女と話していると調子が狂う。ログはそう思った。

「ただあの人はここへは戻りませんよ?」

カマをかけている訳ではない言葉にログの背筋が凍った。その細い首に手をかければ容易く折れてしまうだろう。

肉体の強さを誇示しても通じないだろう。たとえ見えていたとしても。光のない瞳がどれほどの光を見ているのか。

そう思ったログが聞き返す。

「何故そう思う?」

「あの人を愛してますから」

「そうか」

簡潔な返事であったがログの心に沁みた。

ルーチェに撃った弾丸が、ようやく愛という形で捉えられた。




ソファに座るエルとシルファを前に書類を書き終えたバーズが言う。

「面倒な手続きはこれで終わりだ。じゃあ行こうか」

「何処に?」

これ以上何処へという思いで、サインを書き疲れた二人が同時に声を発する。

「入学式には新しい服が必要だろう?」

パァっと笑顔を浮かべたエルとシルファが頷いた。

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