83.琴線
「アザミ―ちゃーん、今日も可愛いね」
娼館に訪れた赤眼の男が娼婦に声をかける。
ロビーにいる他の娼婦にも声をかけて回り、一人一人服装を褒めたり化粧や髪形の違いを話のネタに装飾品を配っていく。
嬌声で賑わうロビーで黒服の男が赤眼の男に声をかけた。
「ツェンさん!いつもありがとうございます!」
「野郎に感謝されても嬉しくねぇよ」
娼婦達へのプレゼントと次回の指名を約束した赤眼の男が告げる。
「ご希望通り今夜は特別な部屋を用意してます。そちらの通路の突き当りです」
鍵を受け取った男が通路に続く階段へ向かう。
「建物は壊さないでくださいよ」
「しつけぇなぁ!修理代は払っただろ!」
この程度の揶揄であればツェンが口喧嘩以上のことをしないと従業員は把握している。
贅を尽くした階段を上るタキシード姿の男をロビーにいる誰しもが見送った。
「ツェン」
扉が開く前から足音で『愛しの君』が来たことを沙羅は分かっていた。
「よう」
いつも通りの挨拶を交わし、ベッドに腰掛けている最愛の女の隣にツェンが座る。
「雨が降ってきちまって」
そう告げた男が女の肩に手を回す。
「着替えたんだ。どうだい?」
肌で触れただけで分かる素材の高級感が沙羅に伝わる。
「今日は、何でこんな」
最上級のVIP専用の部屋にいることを認識している女がやきもきしながら訊いた。
「特別な日にしたくてねぇ」
状況を察した沙羅が男の手を握り締めて告げる。
「私でいいの?」
「沙羅、俺はあなたが好い」
そう言った男の唇を女は受け入れた。
熱が冷めきらぬまま抱き合っている男が告げる。
「少しいいかい?」
その身体を抱き上げ優しくベッドに座らせた。裸の女に薄手の肩掛けを羽織らせ赤眼の男が続ける。
「俺と一緒になってほしい」
手にした指輪を沙羅の薬指に通そうとする。指先で感触を確かめると女はそれを拒んだ。
「嬉しい。けど、あまりゴテゴテしたのは嫌」
「だと思ってよ」
男の掌にリングが生成される。現存しない技術、鉱物、失われた太古の秘宝を沙羅の指にはめた。
「こっちが本命さ」
指にはめられたリングを擦り、質素さを醸し出すそれを沙羅が笑顔で受け入れた。




