75.未来へ
自室に戻った少女が沈黙と共に少年と時を過ごす。
やがて時計が午前を示した。
沈鬱な年越しだった。
普段であれば眠っている時間、今夜は楽しい年越しであったはずの時間が流れていく。
エルが呟く。
「俺はルーチェのこと、嫌いじゃなかった」
ベッドに腰かけている金眼の少年が続ける。
「多分、ルーチェも俺たちのこと嫌いじゃなかったんだと思う」
口を固く結び、肩を震わせる少年をシルファが抱きしめる。
「・・・今日は一緒に寝よ」
自身と同じく震える声を絞り出す少女の身体を金髪の少年も抱きしめた。
翌朝、長い黒髪を後ろで結った男が花屋の前にバイクを止めた。
シャッターが降りたままの店を一瞥した男が二階へ登る階段に足を踏み出す。
路上に留まっている赤い車のクラクションにログが顔を向ける。
「何してんだ?出発するぜ?」
「お前こそ何をしている」
運転席の窓から顔を出した赤眼の男にログが告げる。
「行くんだろ?ルーチェちゃんの墓参りに」
「断っただろうが」
ログが何かを言いかけ、車に乗る青眼の男とリネア、エル、シルファを見て言葉を止めた。
「俺ぁ野郎との二人旅なんざゴメンっつっただけだ」
「ツェンに伝えれば、それは私に言ったのと同義だ」
青い眼を光らせた男の言葉に、口元を緩ませた男がバイクに跨る。
以前乗ったシートの後ろを車中からエルが見つめている。
「乗りたいのか?今は止めとけ」
赤眼の男の言葉に金髪の少年が言葉を返す。
「分かってるよ!それくらい」
「へっ、お前も気ぃくらい使えるようになったんだな」
並走するバイクにちらりと眼をやったツェンが言う。
「今は女神が乗ってる」
「うん」
弾ける笑顔をした赤毛の女がエルの眼に映った。




