76.再生
白樺が立ち並ぶ冷涼の地。
薄く雪が積もっている道を歩き、黒髪の男が教会に入る。
木造の、古い造りの、その建物は何も変わっていなかった。
窓から差し込む光さえもログには当時と同じく感ぜられた。
人の気配に、祈りを捧げていた修道女が振り返る。
「お久しぶりですね」
男を一目見てそう言った女にログが言葉を返す。
「覚えて・・・いましたか」
「ええ、大戦の頃にお会いしましたね」
「あの時は失礼致しました」
長い黒髪の男が儀式的な礼をする。
「あの箱は、中身は・・・まだありますか?」
「ご友人の形見の、銀のプレートですね」
視線を落としてこくりと頷く巨躯の男に女が言う。
「お持ちします。掛けていて下さい」
修道女の背中を見送ったログが長椅子に腰を下ろした。
「生き残っている子供がいます!!」
「回収!!撤退!!」
砲撃が降る街中で軍服の男が指示を出した。
威嚇射撃を淡々と続ける男の背を、誰かの腕の中で目にしていたことを俺は覚えている。
「左利きなのかァ?丁度いい、こいつをやるよ」
隊を仕切る男が俺にリボルバーを渡す。
「そいつはなぁ、左利き用なんだ。こんなご時世じゃ滅多にない珍しい銃だぜ」
笑いながら男はそう言った。
「はぁ?戦争なんて適当にやってりゃいいんだよ」
「はぁ?」
隊長の言葉に俺は意味が分からず生返事を返した。
「いいか。あっちがこっちを撃ってくる。こっちがあっちに撃ち返す。当てる必要はねェ」
「当てなきゃ勝てない」
爆笑しながら隊長が告げる。
「当たらなきゃ死なねぇ!お互いそういうおままごとなんだよ!それやってりゃカネが入るんだ」
黙る俺に隊長が言う。
「生き残ることが全部なんだ。勝ち負けなんざどうでもいい。死ぬくらいなら逃げろ」
「何で俺の苗字をつけるかねぇ?」
「語呂が悪い」
『ルーチェ=サークル』と彫った認識票を、俺は戦場で拾った子供の首にかけた。
「せっかく安全なとこで暮らせンだ。そんな気にすんなよ」
あっけらかんと笑う男に俺は言った。
「アンタの方が寂しそうに見えるが?」
「テメェはいつまでも馬鹿だな。いつも言ってンだろ?生きることが全部だってよ!」
赤毛の女を施設に預けた夜の出来事だった。
「アレは・・・人間じゃない・・・赤い眼の・・・」
血の海の中、生き残っていた仲間が最後の言葉を絞り出す。
「死神・・・」
銃創と裂傷、火傷にまみれた死体から俺は認識票を集めた。
「こちらでお間違いありませんか?」
思い出に耽っていた男に修道女の声が届く。
木箱の中に収められている認識票を黒い瞳が眺める。
「確かに」
『ログ=ジェネクト』と刻印された認識票を自身の手に取る。
代わりに『ライス=サークル』と刻まれている認識票の上にルーチェのそれを置いた。




