67.アーキタイプ
「あの黒眼の男もあなた達みたいにオカルトじみた能力を持ってるの?」
深夜、本来なら寝床に戻りたい時間帯ではあるが、興奮と疑問に眠気を打ち消された少女が質問をする。
「ヤツ自身は普通の人間だ」
「じゃあ周りにいた人を爆発・・・させてたのは・・・?」
当時の状況を思い出したシルファが悪心を抑えながら言う。
「端っからそいつ等に爆弾でも仕込んでおいてリモコンで起爆したんだろ。だからシルファちゃん達を直接爆破することはできなかったってことさ」
「その認識は少し違うな。ツェン」
青眼の男が赤眼の男に視線を向けながら告げた。
「爆発した人間は体内に爆弾を内蔵していた。そこまでは事実だ」
「だから・・・アイツが起爆したんだろ?」
バーズの言葉を受けて悠里の言動に違和感を覚えたツェンが言う。
「ツェン。お前は東国で似たような光景を目にしたはずだ」
「何かあったな、そんなの。確かリネアを探してる時に町中で自爆してた奴等がいたっけか」
記憶を手繰っている赤眼の男が、違和感の原因を思い出した。
『一緒に死ぬか?』
確か、漆黒はそう告げていた。
己の言葉を反芻して息を吐くように声を漏らす。
「自爆・・・?」
「そう、自爆だ」
バーズの答えに愕然とした表情をシルファが見せた。
「俺ン時ぁテロに見せかけた足止めだろ?」
「そうよ!娯楽施設や道端、車内で爆発する意味がないじゃない!」
「君等にそう思わせることが目的だとしたら?」
「だからってそんなことのために命を投げ出せる訳が」
信じられないといった表情で捲し立てるシルファの言葉を、青眼の男が中断させる。
「奴等は君が思う『そんなこと』のために命を差し出す」
「あり得ねぇだろ。そんなもんに命を割くなんざぁ」
その場にいる誰もが信じたくなかったのだろう。そこでツェンが言葉を止める。
「だからこそってことか」
「そう、狂気の沙汰だ」
そう告げたバーズに赤眼の男が質問をする。
「アイツ等の目的は何だ?何でそこまでする?」
「自爆した者共に目的という意識はない」
シルファとツェンが不可解な表情を浮かべる。
「彼等は自爆する理由も知らない。動機さえ本人は認識していない」
「誰かに操られてるってこと・・・?」
胃のムカつきを感じながらバーズが言葉を吐き出す。
「あの男の血は呪われている」
「呪いって・・・普通の人なんでしょう・・・?」
「ヤツ自身はな。ただその血が、精神性が、同じ血を持つ他者へ連動する」
理解が追い付かず混乱している二人に、バーズが説明を続ける。
「ヤツが憎悪を持てば自他共に記憶もなく、それが伝播していく。その血にとって都合が良いように」
「それは普通の人って言えないんじゃ・・・?」
栗色の髪の少女が問いかける。
「1200年前、大陸東部に小さな島があったのを知っているか?」
「1200年前?いきなり何の話?」
シルファの言葉を受けて、青眼の男がツェンを見やる。
特別な反応を示さない男を見たバーズが言葉を吐く。
「普通と言える人類がそこに住んでいた。今は極東と呼ばれている地域だ」
「北が帝国時代だった頃の領土のこと?」
「それより前の話になる」
含みを持たせた答え方をするバーズの言葉が気になった。
「君が知っている国家に対する認識は捨てろ」
バーズがシルファの瞳を見つめる。
「これから話すことは」
「聞きたくない」
青い眼を拒む少女が顔を背けた。
「もう、怖いよ」
目を合わさないままシルファが続ける。
震えるシルファに青い目を光らせた男が言葉を噤んだ。




