65.悪魔と死神
事務所の扉が開き、黒いスーツ姿の男がバツの悪そうな顔を見せた。
「おかえり」
青い眼の巨漢が低い声を発し、赤眼の男を迎え入れる。
その声色を認識したツェンが定まらぬ視線で、待望していたその姿を視界に捉える。
声の主を視認し硬直している男をシルファが茶化す。
「ふーん、驚いちゃっ」
「バァァアアアーアッァアアッッーーッーーーッーーー!!!ァァアアァアアアアアーーーッッズッゥズッウウウウウウウウウーーーーーウァアアアーーーーー!!!!」
叫び声が後からついてくる速度で赤眼の男が青眼の巨漢に飛び縋った。
「おでヴぁ、ヴぉまえがぁぁあああ!!!戻、戻ってこなかぁあアアあ!!!」
「少し落ち着け」
顔中から垂れ流す体液を服に擦り付けるツェンに、バーズが言う。
「鼻水をつけるな。離れろ」
その振る舞いを見て引いているリネアとシルファを視界に捉えた青眼の男がツェンを宥める。
「俺はここにいる」
「どヴぁっておまえぎゃあア」
「いい加減にしろ!!」
ついには古の言語で泣き叫び始めたツェンにバーズが青い眼を光らせると、その身体が室外まで弾き飛ばされる。
扉の外で蹲っているツェンが、しばし呆然とした後に笑い出す。
「ああ、本当に帰ってきたんだな」
赤い瞳が青い眼を捉えてそう告げた。
「ああ、ただいま」
「おかえり」
二人のやり取りを目にしたシルファがエルの背中に寄りかかる。
「勝てないなぁ」
「ん?」
「ん、ゴメン、何でもない」
そう言って少年の肩に顎を置いて凭れ掛かっているシルファが呟く。
「エルは私がいなくなったら心配する?」
「当たり前だろ。せっかくバーズが戻ってきたのにふざけた質問すんな」
微笑みながら栗色の髪をエルの頬に寄せて少女が質問を続ける。
「今のツェンみたいに?」
「ちょっと今のは・・・」
口よどんだ金眼の少年が路地裏での出来事を思い出して言い直した。
「するかもしれねぇ。さっき俺も鼻水くらいは出してた」
「え?」
引きつった表情で少女が疑問を呈す。
「何だよ?」
「何でもない。顔洗ってくる」
緩んだ口元をした少女が洗面所へ向かっていった。




