61.死神
爆弾を仕掛けた施設から遠く離れ、目的地が間近になりレーベルクが悠里に問いかける。
「君はその神様とやらが思い通りになると思うかね?」
「他に選ぶ道を用意していない」
「もし生きていたらどうす」
「その時は別のプランを実行する」
漆黒を纏う男が返した食い気味の答えにレーベルクが口角を上げる。
「孫の顔が見てみたいねェえ」
「お前に作らせていた兵器がない。期待するな」
降下する輸送機の中で笑い転げる金髪の青年が答える。
「ヒャ!ヒャ!ヒャ!冗談だよぉ!仕方がないジャないか。帝国にあった研究所は神様に壊されチまったんだから」
「どのみち純血種以外に興味はない。リリィ諸共孫も死ぬ」
ピタリと笑うことを止めたレーベルクが声を発した。
「どちらの兵器を使っても私達は生き残るよ。ただ今回は君だけが死ぬ」
「放射線への耐性だったか。あのウィルス兵器への対処といい用意周到な男だ」
漆黒の言葉に青い眼を蕩けさせた金髪の青年が告げる。
「自分の造ったもので死ぬなんて馬鹿らしいじゃないかぁ。それを乗り越えていくことが科学だロウォ」
「奴等に反証が出来るのならな」
その言葉に気がふれたような馬鹿笑いをしながら男が答える。
「ィーッヒヒ!!だからそのデータが欲し、欲しいんだろウィーッフィっふー」
会話を諦めた黒髪の男が、金髪の男から視線を外し輸送機の着陸を待った。
『大陸南部の原子力発電所で起きた臨界事故による爆発・・・』
事務所の応接室で赤眼の男がTVから流れるニュースを聞いていた。
「やっぱり本当のことは言わないんだね」
「規制がかかってるし、テレビで報道すりゃ混乱するだけさ。これでも火消としちゃ大盤振る舞いだと思うぜ」
PCを見ながらツェンが言う。
「ネットじゃちらほらと現場の状況を伝えてるが、それもすぐ消されちまってるなぁ」
「・・・爆発したのは事実なのね」
悠里、レーベルクに囚われてから数日が経った今日、栗色の髪の少女が問いかける。
「ああ、そうさ。シルファちゃんだって見てただろ。バーズは死んだ。でも良かったじゃねぇか。エルは無事なんだから」
「良くない・・・良くないよ・・・」
沈黙を続ける二人が暗い表情のまま俯いていた。
そんな折、インターホンが鳴りツェンがデスクに備え付けてあるディスプレイに眼をやると解錠ボタンを押した。
「どうかしたかい?ルーチェちゃん」
「え、あ、と、す、すすすみません。おじょ、お邪魔をしまして」
室内の空気を察した赤毛の女がしどろもどろに物を言う。
「あ、その」
手にした家賃を持って青い目を涙ぐませている女を見た赤眼の男が椅子から立ち上がる。
「悪いんだけどよ、君には出て行ってもらう」
「え?」
不意をつかれた女が生返事をする。
「三ヶ月後にはここをはけなきゃならねぇんだ」
「う?あ?え?」
混乱する女にツェンが続ける。
「後で説明するから」
「ちょちょっと待ってくださいよ!!いきなりそんなこと言われても!!」
「オーナーがくたばっちまったもんでね。俺達も身の振り方を考えてる途中なんだよ」
喪中のような空気を理解したルーチェが言葉もなく蹲る。
「そんなに落ち込まなくていいぜ。新しい勤め先なら紹介するからよ」
「そうじゃないですよ!!オーナーさん・・・死んじゃった・・・んですか・・・?」
そう告げられ、シルファとツェンがどんよりとした表情を見せる。
その姿を見せられ何も言えなくなったルーチェにツェンが言う。
「ま、そういう訳なんで、ちょいと今は静かにしといてくれよ。声かけてくれりゃ、そっちの相談には乗るからよ」
「う。うぅ・・・」
赤毛の青い瞳から涙が溢れ出る。
「あんな優しい人が・・・」
泣き崩れる女をツェンが外へ連れ出す。
「人のために泣けるなんてルーチェちゃんは良い子だねぇ」
そう言って階下まで赤眼の男が連れ添っていった。
時計の短針が一つ動いた後にツェンが戻ってくる。
「おかえり」
「ただいま」
シルファに挨拶を返した赤眼の男が時計を見やる。
「おーっと、もうこんな時間か。エルに飯が食えるか聞いてきてくれ」
「どうせ食べるでしょ」
笑いながら部屋を出ていく少女の姿をツェンが見送った。
花屋のバックヤードで赤毛の女が通信機に暗号文を打ち込む。
「標的は消失した模様。任務継続不可能、指示を仰ぎます」
「偽装の可能性がある。お前はそのままヤツ等の監視を続けろ」
画面に映し出された文章にルーチェが答える。
「了解致しました。キリュウ副総理」




