60.コバルト60
「もっとソフトに、ソフティに・・・」
「時間がねぇ!!」
二人の子供を抱えながら疾走するツェンが告げた。
「エルは内臓が破裂してるかもしれないの・・・だから・・・」
吐き気を抑えてシルファが声を絞り出す。
「死んだら同じことだ!!」
施設を走り抜けた男が叫ぶと、そのまま荒野の空へ跳ぶ。
「あそこに車が・・・」
目隠しがずれたシルファが前方に見える車両を指摘する。
「これ見よがしに置いてあるモンになんざぁ乗れねぇなぁ!」
着地したツェンが地面に手をかざす。
大陸南部に群生している巨木が車の下から突如として生えた。
上空で爆発する車両を見た赤眼の男が更に掌に力を込める。
脱出した施設の前に巨大な一枚岩が出現する。
「シルファちゃん、爆発まで後どれくらいある!」
「2,7,3・・・秒・・・」
息も絶え絶えに答える少女の言葉。それに間を置かず突如として激しい地震が起こった。
大地が隆起し、施設と3人の間に山脈が聳え立つ。
「水爆が中央部の山を越えた記録は!あるか!」
「ない・・・けど、放射線量までは・・分からない・・・。記録にあるモノを使ってるとは思えない・・し・・・」
「本当にクソッタレだな!!」
「ゴメン・・・」
「シルファちゃんに言ってねぇよ!!」
空を行くツェンが肩に抱いた栗色の髪の少女に告げた。
「仮にも義父の頭を吹き飛ばすとはね、ユーリィ」
ツェン達より一足先に施設から離れたレーベルクが輸送機の中で言う。
「自分を殺されて不服か?」
「せめて不満と言ってほしいねぇ。一応は上司なんだよ?」
「知ったことか」
ユーリィと呼ばれた黒眼の男の答えに、ゲラゲラと笑うレーベルクが続ける。
「アレは私と同じ遺伝子や記憶を持っているだけで、肉体が違えばただの他人だよ」
先程爆破された金髪の男と全く変わらない姿をした人間が眼の前にいる。
その言葉に黒眼の男が抑揚のない声で答える。
「よく笑っていられるな」
「君達には言われたくないよ、ユーリィ」
輸送機を操縦しているロボット越しに、夕焼けが二人を染める。
「その呼び名は不愉快だ」
「アァ、そうだったね。悠里」
少しの沈黙の後、沈む夕日を退屈そうに眺めながらレーベルクが言葉を漏らす。
「君ゃは—--ツェンはどちらを選ぶと思う?」
「結果以外どうでもいい。どのみち悪魔は死ぬ」
一切の感情を交えずに悠里と呼ばれた黒眼の青年が答える。
「バーズの方を選べば・・・施設ごと、君の望んだ爆弾が、起動するようになっているからねぇ」
ひゃひゃひゃ、と気に障る笑い方をする男に悠里が告げる。
「思い通りにならない神なら要らない」
「神を望んでたくせにィーヒッヒ!!」
耳障りな声を上げて笑う男に一瞥もくれない黒い瞳が、深く椅子に座っていた。




