56.信念
「大戦の頃に今のロボットを見たことがあるか?」
外へ弾き飛ばされた機械についてログがツェンに質問をする。
「さあな」
「銃の扱いは?」
「ンな質問に答えてる場合じゃねェだろウが」
燃え盛る焔を掌から立ち上らせたツェンがログを睨みつける。
「そうか・・・そうだな」
大地を蒸発させることも可能であろう炎の揺らめきを目にしてログが呟くように答える。
その様子を見て遠くから聞こえてくるプロペラの回転音を耳に、ツェンが口を開いた。
「俺は武器の類は使やシねェ。特に大戦の頃は、な」
降下してくる大型輸送ヘリに騒然とする大通りを意識の外へ追いやり、赤眼の男の声を黙ってログが聞いている。
「搭乗して下さい。移動の準備が整いました。搭乗して下さい。移動の準備が整いました」
輸送機のスピーカーから流れる大音量の機械音の中、瞳を柘榴色に染めたツェンが言う。
「ここにバーズがいねぇってことは、アイツは俺達と同じもン見せられてガキ共と一緒にいる」
「搭乗して下さい。移動の準備が整いました。搭乗して下さい。移動の準備が整いました」
屋外から響く機械音を無視して赤眼の男が言葉を続ける。
「お前はリネアを守ってくれねぇか?俺はアイツ等の所に行く」
「お前とは水が合わない」
ログの返事にツェンが顔を顰める。
「お前は俺の雇用主ではない」
「だからこうして頼んでンだ」
その言葉に黒目の男がツェンから視線を外し俯いた。
「搭乗して下さい。移動の準備が整いました。搭乗して下さ」
「じゃかぁしい!!」
赤眼の男が割れた窓越しに叫ぶとヘリのプロペラが回転数を上げ上昇し始めた。
窓から飛び立とうとするツェンの背中にログが声を掛ける。
「必ず守る。死んでもだ」
足を止め、イラだった表情で振り返った赤眼の男が言う。
「テメェはエルより頭ぁ悪ィのか?死ぬくらいなら逃げろ」
ログの脳裏にかつて支持した隊長の言葉が過ぎる。
『俺達の戦争なんておままごとなんだよ。やってるふりしてりゃいい。大事なのは生きていることだ』
「お前が死んだら守ったことにならねェんだよ。リネアにテメェが死んだってこと背負わせる気か?」
隊長とまるで同じ言葉を述べるツェンに、ログが当時の空間にいるかのように言葉を吐く。
「だったら、逃げて逃げまくるさ。彼女に会うために」
「ああ、臭ぇな」
鼻をつまんだツェンがそう言った。
「カッコつけんな」
「リネアに死んでほしくない」
その言葉に意地悪い笑みを浮かべてツェンが返す。
「死んだらぶっ殺す」
「死ぬつもりも、死なせるつもりもない」
上空を行く輸送機へ、破れた窓から飛び移る赤眼の男がログに告げた。
「頼んだぜ」
「東国の護衛がある以上、俺もそこまでの懸念はない」
表情を歪ませた黒髪の男を尻目に赤眼の男が叫ぶ。
「ルーチェちゃ・・・・」
プロペラの回転音がその言葉を掻き消した。




