52.天然
「お待たせいたしましたぁ。こちら贈答用の花束になります」
「ありがとう。花に詳しい人がいると助かるよ」
スーツを着た男に赤毛の女が答える。
「結婚式ですよね?こちら『おりゃぁ!!』って花嫁に投げ入れるのが通例です!!」
「あまり聞いたことはないかな」
不審な表情で告げる客にルーチェが傍にある米袋を掴んで言った。
「お米!!お米を花嫁に投げつける文化もあるんです!」
「段々、アンタの選んだ花が心配になってきた。返すよ、これ」
包んだ花を返品した男が店を去っていく。
その花束を掴んだ男が立ち去る客の肩を叩いた。
「失礼いたしました」
振り返る男に赤眼の男が言葉を続ける。
「申し訳ありません。あの娘は接客にまだ慣れていなくて」
「いや、いいよ」
「無料でもお持ちいただけませんか?腕は確かなんですよ。さっきの通例というのも中央あたりだと人気がありまして」
各国の文化的、歴史的な知識を交えながら花の説明を続けるツェンの話を聞いているうちに男の表情が軟化していく。
「そういう意図で選んでいた訳か。彼女には失礼なことを言ったと伝えておいてくれ」
花束を受け取った男が代金を差し出してそう告げた。
「ありがとうございます。ご友人の門出を祝福できることを願っております」
男の後ろ姿に白けた顔でそう言ったツェンが店へと戻る。
目を輝かせるルーチェが赤眼の男に告げた。
「凄すぎます!!凄すぎますよ!!何で今ので売れたんですか!?」
そう言った赤毛の頭をツェンが両手で挟む。
「ルーチェちゃんは俺のこと好きか?」
困惑する女が振れない首のままその質問に声で答える。
「あの、大家さん?」
「好きか?」
頭を固定され身動きができないルーチェが告げる。
「バレてます?」
「うん、バレバレ」
ルーチェの青い瞳を見つめながらツェンが言う。
「こんな良い男に惚れない女の子なんていねぇからな」
「ええ、初めて見た時から気になって」
恥じらいながら告げるルーチェにツェンが答える。
「だよねー」
放した手で頭を抱き寄せ唇を合わせようとした。
「まだ、早いと思います」
「好きなんだからいいじゃん」
赤毛の女がその言葉の主を腕で拒む。
「そういう問題じゃ」
女が言い終える前に弾丸が男の頭を弾いた。
「トチ狂うなクズが」
左手に持ったリボルバーをそのままに、ログが右腕で赤眼の男の頭を鷲掴み、花屋の内壁に叩きつける。
痛むふりもしない男が言う。
「いいだろ、相思相愛なんだから」
「何処がだ!!」
そう叫んだログが更に弾丸をツェンの頭に撃ち込む。
その光景を見ながら固まっているルーチェを見てツェンが言う。
「俺のことが好きならコイツを止めてくれよ」
俊敏に、即座に反応したルーチェがログへと飛び掛かったが逆に組み伏せられる。
「だろうねぇ」
そう言ったツェンが倒れている植木鉢を立て直し店内から姿を消した。
「痛みはないか?」
「ないない。大丈夫だよ」
腕を振り回して告げるルーチェにログが言う。
「花屋は楽しいか?」
「手伝ってくれるみんながいて楽しくて楽しくて!!」
その返事に花の手入れをしながらログが答える。
「さっきの大家の行為に何も感じていないのか?」
白百合を手折りながら女が言う。
「戦場ではよくあること」
「ここは戦場じゃない」
ログの言葉に、はっ、と気を取り直した女が言う。
「驚いたけど家主さんと揉め事起こしたくないし」
「抵抗はしろ。ああいうのは卑怯者がすることだ」
そう告げ、長い黒髪を後ろで結った男が黙々と作業を続けた。




