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The ability  作者: 不破陸
The ability
30/112

30.ある男の話4

艶やかな黒髪の男が再び敵地に戻ってくると、その動向の観察を続ける。

そこで男は先程の鍬ではなく武器を手にした数十人の男達が町を出ていくのを眼にした。

男は少し近付き、聞き耳を立てながらその男達の様子を窺う。

「本日はこれより先日いなくなった行方不明者の捜索を行う」

「はい!」

隊列を組んだ50名程の男達の前で声を張り上げる上官の言葉に、兵士は返事をした。

「各隊、訓練時の通り5人一組で捜索に当たれ!」

上官の言葉に一糸乱れぬ動きで班ごとに並び直る兵士達の後ろから、不格好に鎧を纏う青年達が走ってきた。

「すみません!装備の着け方が分からず遅れました!!」

「馬鹿共が!!さっさと自分の班に整列しろ!!貴様等には後ほど罰を与える!指導役にもだ!!」

自分の班へと合流した青年達を見た指導役の目は冷たかった。

自分が鍬を奪った連中を探しているのだと感じ取った男は、散開した部隊の数名に目をつけてその一人が所属する班の後をつけていく。


「農民の失踪は獣か襲撃者によるものだと考えられている。よって死亡している可能性が高い。我々の班はこの森を探索する。茂みなどを重点的に探るように。死体の一部でも見つけたらすぐに報告に戻るように。私はこの場所にいる」

班長らしき男が4人にそう告げると男達がそれぞれ動き始めた。

「お前は俺と一緒に行こうか?」」

先ほど言われた指導役と目される男が遅刻してきた青年に言う。

「お前は私の目の届く範囲で捜索しろ。お前達は3人一組で一度森を抜け、外周を廻りながら徐々にここへ戻ってこい」

「了解しました!」

その命令に声を張り上げて返事をした3人が樹々の間を駈けて行った。


捜索を続ける男の背後から艶やかな黒髪の男が音もなく忍びより、脳天に鍬を振り下ろす。

絶命した男の鎧を剥ぎ身に着け、金属製の槍を手にすると死体を茂みに放り投げその場を後にした。




「話を止めるなとは言われたけれど言わせてもらっていいかしらぁ?」

「またか」

顔を顰めて返事をするバーズにリネアが告げる。

「さっきも言ったけど話が長いのよぉ。あの男の大体の状況は分かったから何が起きたかを要点だけ教えてもらえる?シルファちゃんなんかほとんど眠る寸前よぉ?」

瞼が閉じかかっている少女を見てログも次いで言う。

「リネアの提案に賛成だな。俺はあの男の昔話に興味がない。一時間以上話を聞かされて少し飽きてきた。その調子で続けるなら俺は席を外させてもらおう」

「話が現実的でなさすぎるため事実だけを端的に述べても分かりづらいと思ったのだが、そういうことならそうしよう。ここまでの下地があれば話も飲み込みやすいはずだ。質問には答えるが分かりづらい部分は言葉の通り信じてくれ」

そう前置きをした青い眼の男が再び口を開く。

「ヤツは義母や腹違いの妹を助けに行ったが、結局は敵国に捕らえられた。当時では珍しい顔立ちと体格をしていたヤツは山の神の供物として火口へと放り投げられた。ツェンの村でも信仰の対象になっていた山にな」

一旦言葉を切り、リネアの眼を見つめながらばバーズが続けた。

「火口へ落ちていく最中、ヤツの強烈な怒りに呼応して山の神が現れツェンの中に入り込み、その力の全てを与えた。山の神とは言うが、この星そのものといってもいい。ヤツの眼が紅く染まったのもその時だ」

「・・・ん?」

疑問の声を上げる一同を無視してバーズが話を続ける。

「マグマに落下したヤツは感情のままにその力を解放した。それが火山の大噴火を招き、外へ弾き飛ばされたヤツは周囲一面を飲み込む溶岩と降り注ぐ火山弾を見て、家族や仲間を探し回った。当然生存者など残っているはずもなく、自分の手で愛する者まで失うことになった結果、ヤツは再び感情を爆発させ半径500kmあまりの土地を消し飛ばした。東国にある巨大な湖はその跡地だ。ツェンが死なない理由は以上になる」

「冗談・・・ではないんでしょうねぇ?」

顔を引きつらせて訊ねるリネアにバーズが答えた。

「先ほど言ったように、意味は分からなくとも言葉通り受け取ってもらおう。その後、ヤツも千年程は人間らしい欲望や感情を持って暮らしていたが、やがて虚しくなりそれも止めた」

「その理由は今更聞くまでもないかしらねぇ・・・?」

「人を愛そうが国家を興そうが、皆ヤツより先に失くなっていく。時には化け物だと疑われ、罵られようがヤツだけは呪いのように死ねない。今やツェンにとって人間など体表を蠢く目にも見えない微生物同然の存在だが、眼に映る範囲であればアイツは人間の生き死にを妹の死と重ね合わせて見ている。だからヤツは極力人と関わらないように隠遁する道を選んだ。感情が昂れば周囲の人間が死んでしまうためにな」

沈黙を続ける3人を眼にし、バーズが言葉を発す。

「質問がなければ話は終わりだ。これで借りは返したぞ、スレッグ警部補」

「人と関わることを止めたのにアイツがお母さんと子供を作るまでの関係になったのはどういう理由で?」

自分の父親に悪意がないことを確かめるように、リネアが質問をした。

青い眼を光らせるとバーズが答える。

「これはただの偶然だが、ヤツが隠居していた場所に実験用の兵器を撃ち込まれたことによる。静かに時を過ごしていたヤツも周囲が騒がしくなったり、飽きれば時折居場所を変える。その際に人里で出逢った盲目の少女をアイツは放っておけなかった」

何も言わない黒髪の女を見てバーズが続ける。

「これ以上は私の口から話すべきことではない。君の母親が生きていると分かった以上、君がツェンにそのことを聞いても破壊行為に及ぶことはない。何よりも、君が聞くのだから」

「随分とお優しいしお詳しいみたいだけど、貴方はアイツにとって何なのかしらぁ?」

リネアの質問に、その目を見つめながらバーズが答えた。

「共通の目的を持ち、それなりに長い付き合いの仲だ。それだけ同じ時を過ごせばヤツから語ってくることもある」

「何でアイツが貴方の目的に手を貸しているのかを聞きたいのよ。アイツは人と関わるのを止めたんでしょう?世界平和が共通の目的?笑わせないでほしいわねぇ」

詰問するリネアに表情を変えずにバーズが答える。

「私の目的が世界平和などと言った覚えはないが、ツェンと私の目的は一致している。私に関して詮索するのは止めろ」

「借りを返したら掌も返すのねぇ。私の知りたいことになら答えてくれるんじゃなかったのぉ?」

リネアの皮肉めいた言葉にバーズが言葉を返す。

「答えただろう。借りは返した」

「少しくらいサービスしてくれてもいいんじゃない?教えていただけるなら私からのサービスも惜しまないわよぉ」

テーブル越しにバーズの顎を擦ろうとするリネアを見て夢現だったシルファが声を上げた。

「早く帰って・・・」

「帰れって言われてもねぇ。ここが私の部屋なんだけどぉ?」

ポケットから取り出したカードキーを机に叩きつけてシルファが叫んだ。

「だったらここに泊まれば!!バーズがどんな想いでアンタの言葉を聞いているのかも知らないくせに!!!」

「それが分からないから聞いているのよぉ?何か知っているならシルファちゃんから話してくれない?」

椅子を跳ね飛ばす勢いで立ち上がろうとしたシルファの肩を掴むと、リネアを睨みつけながらバーズが言う。

「俺への挑発は構わない。だがこの娘を巻き込むようなら話は別だ」

「巻き込むも何も私は質問をしているだけよぉ。それでシルファちゃんが怒るのはそっちの都合じゃない。一応私は仕事でここに来ているの。そのことをお忘れなんじゃなくて?」

自身の膝を両手で掴み震えているシルファの肩を抑えながらバーズが告げた。

「君は仕事と言うが、調査対象がツェンでなければ君はデスクに届いた書類をわざわざ自分で精査した上で上司に提出したか?君とツェンの血縁関係が判明すれば上官がこの案件を君に一任することは分かっていたのだろう?君自身の興味と成功のために俺達が付き合ってやる義理はない」

「酷い言われようだけど、それは貴方の想像の話よねぇ?人のことを挑発しているのは貴方じゃない」

バーズの眼を見つめながらリネアが返答する。

「主席のラオと副総理のキリュウからは言質を取っている。君の上官であるカトーの確認も必要ならば、今からツェンをそちらに向かわせよう」

「国連にまで顔が利く御方が言うのだから妄想みたいな話も多分事実なんでしょうねぇ。貴方がこの調査の流れを何処まで把握しているのかは知らないけど、私は警察官としての義務を果たして指示に従っただけよぉ?私の進退に関することにまで干渉しようとするのは卑怯じゃないかしら」

「東国の思惑に君が利用されるのは私の関与するところではないが、それが俺達の目的を阻害するようなら黙ってはいない。この子達を危険に晒すような真似をするのならば俺は君等を護りたくない」

バーズの言葉に苦虫を噛み潰したような表情でリネアが答えた。

「守ってもらう必要はないと言ったわよねぇ?」

「君は自分が派遣された理由をツェンと血縁なら篭絡しやすいと判断されたと考えているが、それだけではない。君やサラに何かあればヤツは妹を失くした時のような破壊行為に及ぶと各国は睨んでいる。ヤツの近親者を自国の管理下に収めていられるのならば、東国は自国に都合の良い地点でツェンに君等の死という情報をヤツの耳に入れるのが得策だと考える訳だ」

神妙な面持ちをするリネアにバーズが続ける。

「私達がこの国に来た理由は分かっただろう?この国にツェンがいる限りは東国が君やサラに危害を加えることはない。だが私達は数日の内に西へと戻る。君の事情に子供達を巻き込むのならば、俺達の周りをウロチョロするのは止めろ」

敢えて挑発的な表現を選んだバーズの言葉にリネアが答える。

「ツェンが東国を離れるなら、私達に何かあったら貴方にとっても望む事態にはならないわよねぇ?」

「現時点で東国を潰滅させたいと狙う連中に君等を殺させればいい。それをツェンに伝えず俺達は西へと戻るだけだ。何なら君の隣に座っている男に今やってもらう」

「殺させ・・・?」

懐をまさぐるログを見て青ざめた顔で告げるリネアにバーズが言った。

「自国のためにツェンを動かすことができるのならば、各国は君等の命など毛ほども気にしていない。再度言うが、君の利益のためにこの子達を危険に晒す君を俺は護りたくはない」

黙りこくるリネアにバーズが追い打ちをかけるように告げる。

「お前の欲望のためだけに父親に近付き、子供達を危険に晒したお前など護る価値がない。お前等が生きていることをヤツが知る前に死んでいた方がどれほど世界のた」

「そこまで言うことないじゃない!」

バーズの手を払いのけてシルファが叫ぶ。

「リネアさんには価値がないって、貴方にとって価値があるから私達を守ってるってこと?人を値踏みしてその人の命にまで価値をつけている訳!!?そんな傲慢で守るだなんて言うならこっちから願い下げよ!!」

何も言わないバーズを睨み続けるシルファを見て、リネアが席を立った。

背後から少女の両肩にそっと手を置いてリネアが顔を近づけて告げる。

「ありがとう。でもバーズさんとは仲良くねぇ」

そう言って部屋を去るリネアを一瞥して、懐から取り出した煙草を咥えてログが火を点けた。

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