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The ability  作者: 不破陸
The ability
29/112

29.ある男の話3

「悪いな、頭領、爺ちゃん。やっぱ俺は行くよ」

深夜、静かに寝床から起き上がると艶やかな黒髪の男が言った。

そのまま物音を立てずに石槍を担ぐと村人が避難している洞窟を抜け出す。

洞窟を見張る仲間の目を掻い潜り樹々の中へ姿を消す男の前方から声がかかった。

「どうしても行くのか?」

「どうせバレてるとは思ってたよ。小さい頃から伯父さんには可愛がってもらったモンな。知っての通り俺は妹のことだけは譲れねぇんだ。アンタだって自分の妹を死なせたことは悔やんでるんだろ、頭領」

黒目の男の言葉を聞いて頭領が告げる。

「俺は頭領として村のためにお前を止めなければならない立場だ。だがもう何も言えん。血の繋がりはなくともファンフェイは俺の姪とも言える、お前にとっては片方とはいえ血の繋がった妹だ。お前はお前の護りたい者のためにいけ」

そう告げる黒髪の男の後ろから3人の同じく黒髪の男達が姿を現した。

「お前が行くことに気付いた村人の中から村を守れる限界の人数を残して連れてきた。助け出す戦力としては焼石に水だが、出来ることなら誰もが家族を取り戻したいと思っている」

「何だよ、族長と頭領にだけじゃなくて全員にバレてたのかよ」

気恥ずかしい表情で後頭部を搔く男に3人の内の一人が告げた。

「お前のシスコンを知らねぇヤツなんかいるかよ」

「へっ、テメェ等も同じ穴のムジナだろ」

そう言いながらも嬉し気な男の表情を見た頭領が、食いしばった歯を開いて男に言う。

「俺は一緒には行けない。必ず生きて戻れ」

その表情を見て黒目の男が声を詰まらせて返事をする。

「・・・無理はしねぇよ」

その言葉が嘘だと分かりながらも、頭領と呼ばれる男は去っていく4人の背を見送った。


「お前等はファンフェイのいる場所を知っているのか?」

前を歩く男達にツェンが質問をした。

「大体は分かっている」

「じゃあ案内は頼むぜ」

そう言われた男達の内の一人が言う。

「女共を取り戻せる可能性があるからこうしてっけど、下手に手を出せば俺達は元より女共も多分死ぬ。お前はそれでいいのか?」

「何言ってやがる。死ぬ気はねぇし、俺は家族を取り戻しにいくんだよ」

艶やかな黒髪の男の返事に、歩きながら男が言葉を返した。

「族長も頭領もそれができないことが分かっているからお前を行かせたくないんだよ。保身のためなんかじゃないってお前も分かってるだろ?」

「ファンフェイが死んだらその全部が俺には関係ねぇな。俺は親父みたいに後悔したくない」

その返事に3人の男が足を止め、ツェンに石槍を向ける。

「だったらお前を行かせる訳にはいかない。お前を含めて俺達が生き残ることが最優先だと頭領から命令されているんでな」

「道はあっちでいいのか?」

そう言われた艶やかな黒髪の男が進んできた先の方向へ石槍を指して問いかけた。

「何で分からねぇんだよ!!あんなヤツ等に襲われて俺達も生きていくのに必死なんだぞ!?お前は自分がどれほど期待されているか分かっちゃねぇんだ!!お前がいなけりゃ守れねぇもんがあるって、何で分からねぇんだ!!」

「道を教えろ」

石槍を持ち直してその柄で二人の男の頭を殴り飛ばした男が告げる。

「クソガキが!!」

「女共を連れ戻したいのはテメェ等も一緒だろ。道を教えろ」

振り下ろした石槍を男が手で受け止めると、男が再度問う。

痛む腕を気にもせずに、男が相手の黒い瞳を見つめて言った。

「お前がヤツ等のところに行けば、戻ってくる際にその足取りを掴まれる。どうしたって俺達の村を危険に晒すんだよ。お前はファンフェイだけが助かればいいってのかよ!それを取り戻せる保証もないのにな!!」

「関係ないな」

「手前ぇ勝手をほざくな!!!!」

そう叫んだ男の鳩尾を蹴り飛ばすと黒目の男が告げる。

「道はどっちだ?」

「帰る道は・・・あっちだな・・・」

苦しげに告げる男を背に艶やかな黒髪の男は、男が指を指す反対方向へと歩き出した。


男には自分の性格が分かっていた。

捕まっている家族を眼にすれば村や己の命を一顧だにせずに飛び出していくことを。

頭領もそれが分かっていてお目付け役に3人の男を寄こし、偵察だけで済ませる予定だったことを男も気付いていることを知った上で3人を置いてきた。

襲撃者の痕跡を辿り、見つけてしまったその場所を前に男は考えを巡らせる。

無策のまま単独で突入したところで族長達が言ったように己が死ぬだけではなく、妹やその母親にも危険が及ぶことは男も理解していた。

他の誰をも想うこともなく男は高い木の枝に腰かけ、襲撃者の住処の観察を続ける。

煉瓦で造られた壁に囲われた町を見ていると幾人かの団体が鍬を担いで外へ出ていくのを何度か見かけた。

男には壁の材質も町から出た者が持っている道具が何に使われるのかも分からなかったが、木から飛び降りるとその団体の内一つの後をつけた。


土を耕している集団が何をしているのか分からず、黒目の男が再び観察を続ける。

手にした道具で軽々と地面を掘り起こしていく男達を見て、彼はその集団に興味を抱いた。

男達の力が自分並に強いのか、それとも手にした道具に秘密があるのか。

10人ほどの集団の一人が用便のため仲間達から離れるのを確認した黒目の男が、それを確かめようと茂みに入った男の前に姿を現した。

「小便してるところ悪いんだがケンカしようぜ」

木に立てかけられた鍬と己が持っている石槍を後方へ放り投げて男が言う。

「出し切るまでは待ってやるよ」

その言葉に首だけ振り返って黒目の男の姿を確認した男が用を足しながら告げる。

「農耕で鍛えられている俺がお前みたいな身長だけのやせっぽちにケンカを売られるなんて笑えるな。俺ぁ町一番のケンカ自慢なんだよ」

「俺もあの町じゃ敗けたことはないんだが、お前のことなんか知らないねぇ。お前弱い者いじめだけしてきただけなんじゃねぇの?」

相手が自分を同じ広い町の住民だと誤解していることに気付いた黒目の男が挑発した。

用を足し終えた男が黒目の男と対峙して吼える。

「冗談で済むと思うな!!」

向かってきた男に、艶やかな黒髪の男が軽く蹴りを出した。

その足を掴んだ男が相手を倒そうとするが、片足で踏ん張る男の体をどう崩そうとしても倒れない。

「それで全力出し切ってんのか?」

黒目の男の挑発に力を込める男を見て、出した足を強引に地面につけると顎に掌底を入れた。

意識を失い倒れている男の足に、後方に投げた鍬を手に持ち振り下ろすと男の足を軽々と切断する。

相手の強みが道具だと思った男は、鍬を振り下ろしその地を赤く耕した。



「戻ったぜ」

十数本の鉄製の鍬を抱えた黒眼の男が言った。

「俺が付けた3人を置いていったお前が戻ってくるとは思っていなかった」

「そいつは悪かったが収穫はあったぜ。だから戻ってきた。俺もファンフェイを取り戻すためには戦力が欲しい」

抱えた鍬を地面に置くと男が告げる。

「こいつを使えばお前等でもほぼ一撃で相手を殺せる。奴等から奪ってきた面白い道具だ」

黒目の男がそれを地面に向けて軽く振り下ろすと、金属部分が完全に地面に突き刺さった。

「アイツ等はこれで地面をザクザク掘り返してたが、この強度と切れ味なら俺達が持ってる石槍なんかよりは遥かに強ぇだろ?」

「確かに戦力には違いないが、それを10数本ばかり持ち帰っても捕らわれた村人を取り戻すほどの戦力にはならない。奴等の数は戦場に立てる者だけでも5000を超える。生き残りだけで100人程しかいないこの村では戦うことを考える余地もない」

金属製の鍬を何本か背にした男が頭領に告げる。

「二本はもらっていくが残りは置いていく。それでアンタ等が今後強くなるための材料にはなるだろ」

「どう止めても無駄なのだろうな」

鍬を持った男の背に頭領が問いかける。

「俺も自分が行けば救えるとか正しいとかは思っちゃいねぇよ。本当ならアンタみたいに村を守る方が心が強い決断なのかもな」

一拍置いて男が告げた。

「だけど俺がいたところでここを守れねぇってことも分かってんだ。だったら俺の好きにやらせてくれ」

「ならば何故お前はここに戻ってきた」

背を向けながら片手を上げて艶やかな黒髪の男が答える。

「最期にアンタの顔を見に来た。ついでにその道具がありゃあ逃げながらでもアンタ等は生き残れるかもしれねぇからなぁ」

歩き出す男の背に頭領が声をかけた。

「お前は俺にとって最愛の妹の息子だ」

一度言葉を切り頭領が続ける。

「お前は自分の妹を取り戻せることを願っている」

「ずうっとこんな俺に目をかけてくれてありがとうよ、じゃあな」

幼い頃に両親を失くした自分に寄り添い、狩りの仕方や英雄の息子としての村での在り方を教えてくれた。共に泣き笑い、時に叱ってくれる若き日の伯父の姿を脳裏に浮かべた男が背中越しに右手を上げて闇夜へ姿を消した。

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