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9,明らかに怪しい魔術的サムシングの部屋

※ちょい残酷描写注意


「____ヒッ」


 思わず口からそのような音が漏れるくらい“その部屋”の光景は衝撃的だった。


 司祭室で見つけた鍵が入り口のそれでないことに落胆しながら、倉庫と資料室で見つけた地下への行き方とその先の部屋の鍵を手に、俺と自称邪神さんは階段を降りた。


 一応倉庫で手に入れたカンテラに明かりを灯していたが、地下という割には薄ぼんやりと光ってい石や壁のおかげで真っ暗という訳ではなかった。それでも完全に明るい訳ではないので、カンテラは大いに役に立っていた。

「なんの材質でしょうね」「光石系統のものだろうな」などと軽く雑談もしながら、気軽に見ていた。


 これまでの行程では典型的な宗教施設だなぁと言う印象しか抱かず、見知らぬ場所だと言うのに少しずつ緊張感を無くした探索となっていた。一人っきりではなく、黒幕だとは言っているがショタが終始隣にいることも大きかったのだろう。


 そうやって気を抜いていたのがいけなかったのか。



 ぼんやりと光っているとは言え、地上と違ってどうにも薄暗く肌寒い通路をてくてくと進むと、途中に一つの部屋、最奥にもう一つの部屋を見つけた。

 こう言うのは最奥に何かありそうだから後回しにするのが定石だが、どうせなら奥から探索して階段に近い手前の部屋を後から探索した方が効率がいいのではないかと思ってしまったのだ。


 奥の部屋は司祭室で見つけた鍵を必要としており、鍵を差し込むと難なく開いた。


 さて、どんな手がかりがあるかなと一歩中を覗いた先で、真っ先に目に飛び込んできたのは“赤”だった。


 一面の赤、緋、朱。それは絵の具と言うにはどす黒い色味を纏っていた。


 次いで目に入ったのは人の腕、足、投げ出されている複数の人の__。すでに生者の気配は無かった。詳しい描写を口にするのも悍ましい。


 かろうじてそれらから目をそらすと、怪しげな魔方陣もどきや、用途のわかりにくい器具がある。その横の棚には調べ物に良さそうな本や記録用紙があったが、そこまで意識を回すことはできなかった。


 衝撃の光景に思考も意識ごと錯乱しそうになる、その直前。

 はた、と隣にいるはずの黒幕のはずの自称邪神の存在のことが気になった。


 黒幕と自称するからにはこの部屋の事実は知っていたのだろうか。

 自称“邪神“なのだから、もしかしたらこれすらも彼が引き起こした可能性だってある。


 ちょっと前、油断させておいて後から刺す可能性についても考えていた。そして、もしこれまでのやたら人間らしいムーブメントや記憶喪失のそぶりは、俺を油断させるための罠だったとしたら?


 だとしたら、俺がこの光景に恐れて嘆き錯乱する様子を見て、悦に入ったり愉悦の表情を浮かべていたりするのだろうか。



 初対面時の状況のような既視感を抱きつつも恐る恐る彼の方を見ると、そこには。

 若干名涙目になってぷるぷると震えている自称黒幕がいた。


「えっ......と、邪神さん?」


 反応はない。


「もしもーし………邪神さん、もしかして怖......」

「……怖、くない!怖くなんてないから!!か、かかか勘違いするなよ!!」


 なんだこいつ可愛いな。


 お忘れかもしれないが、俺が『邪神さん』と呼んで一応敬語を使っている相手は、おおよそ未就学児程度の容姿をしている。いくら顔が整いまくったイケショタだろうと尊大な態度を取ってこようと、未就学児レベルの大きさなのである。


 ぶっちゃけ、震える声でそう返されたところで怖がっていないんだと納得できる訳もなく、その容姿も相まってただの小さい子供にしか見えない。


 そして、人は自分より混乱している存在を見ることで落ち着くこともあるらしい。


 目の前の光景から目を逸らせずに、しかし震えている少年らしき邪神をそっと抱き抱えて扉から離す。自分も一歩離れて、バタンと勢い良く扉を一度閉めることで強制的にその光景を視界から遮断した。


  ◇◇◇


「何を、書いているのだ?」

「んーーー見たら精神が癒やされる魔法の動物です」

「?」


 奇跡的に錯乱状態にこそならなかったものの、部屋の中の光景が目にこびりついて離れない。どうしたものかと思い、とりあえずメモ帳を取り出して実家の猫を描いて落ち着いた。やはり猫は偉大。

 これを人は現実逃避と言う。


「これは……!」

「猫です。見ると落ち着きます」


 邪神さんも、俺が一心不乱に何か描いているのを見て、割と上手く描けた猫も見て、ついでに猫を布教することで大分落ち着いた。


 とどめとばかりに、ポケットに入っていた飴を一個渡して、それぞれコロコロと舐める。

 しばらく描いた猫を見たり飴をコロコロしたりして沈黙を重ねていたが、それを先に破ったのは俺だった。どうしても聞いておきたかったから。


「で、これも自称黒幕の邪神さんがやったわけで?」


 そんな風には見えないが、これが演技だったのならば大したものである。


「っは!そ、そうだな......いや、この悪趣味なのを我がやったと思われるのは流石に心外......だな」

「ですよね、すみません」


 それを聞いて少しだけ安堵する。


「そもそも我には記憶が無いと言っておろう。ぶっちゃけこの地の名前以外ほとんど初見だったぞ」

「それで黒幕ムーブメントはちょっと無理があるような」

「シャラップ!」


 まぁ邪神と言うくらいなのだからどこまで嘘でどこまで本当かの区別をつけるのは無謀かもしれない。


 しかし、自称黒幕の割にどこか人間味の溢れる反応をしてくるこの存在を少しだけ信じている自分もいた。それによって後ほど痛い目をみるかもしれないが、今は何かやりたいことのあるらしい彼を手伝わないといけない気がするのだ。


 初めは冗談でも邪『神』などと言うものだから恐れも混じっていた。曲がりなりにも俺は日本人なので。良いも悪いもとりあえず全部祀ってなんとかしてしまえ精神の日本人なので。ちなみに外国人の多くにはこの感覚がわからないらしい。


 でも今は少しだけ彼のことが可愛く思える。

 そのくらい、この不可思議な状況に、早くも慣れてしまったのだろうか。


 これが本当に異世界転移なら、きっと彼との関係もしばらく続くのだろう。これくらいの心持ちの方が良いのかもしれない。


 なお、今よりずっと後に「可愛かった自称邪神はどこ?!」と叫ぶ羽目になるのだが、現在のハルトには知る由もなかった。


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