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10,気を取り直して怪しいお部屋へ

 

「んじゃ気を取り直して。部屋の探索、しますか」

「正気か?!」


 解せない。

 そもそもこの教会に連れてきた元凶で自称黒幕な邪神さんに言われたところで何言うてはるの?という気持ちの方が強いのである。まぁそもそもこの邪神さんの感性がかなり人間よりなところを除いたとしても、だ。


「そうは言ってもあとはここくらいしか手がかりがないでしょうに」

「それも、そうだが………あ、ぅ、じゃあ我が取って、きても、」

「いやぷるぷるしてた人に言われましても」

「それを言うならハルトだって震えていたではないか!」


 やいのやいの。埒が開かない。

 しかし、ここで立ち止まっては進まないのだ。幸いにして先ほど確認した限りだとゾンビとか幽霊とかみたいな敵対存在はいなさそうだし、一応ここで邪神さんに扉を支えてもらって、さっと目当ての資料を取る方が早いと思うのである。


「さっきちらっと見た限りだと、部屋の端っこの資料がなんとなく怪しそうだったのでそこだけ取ってくるだけですよ」

「だが、うぅむ……」

「良いから!ここで扉が閉まらないように支えていてください」


 そう言い置いてさっと扉の中に入る。やはり中に入る勇気はないのか、邪神さんはお願いした通りに扉を支えて、こちらを見ないように入り口付近に佇んでいた。


 こちらはこちらで、できれば中の方々には目を向けないように部屋の隅っこに進む。

 いくら少し気持ちが落ち着いて慣れてきたとは言え、この空間の中でじっくり検分する勇気はない。なんなら一度目も今も口の奥まで酸っぱいものが迫り上がってきているのをなんとか飲み込んでいる状態である。ギリギリ耐性があってよかった。


 取り敢えず鍵らしきものなどの小物は上着のポケットに突っ込み、できる限りの量の資料や本を絶妙なバランスで持ち上げた。読み込みは別の部屋でやる予定だ。

 これで足りなかったらもう一度踏み込んで資料を探す必要があるが、それはできれば勘弁したい。


「ひとまずこれで良いかな、と。…………ん?」


 視界の端で何かが煌めいたような気がした。誰かがこちらを手招きしているような気がする。

 この部屋に入ってから資料の棚や手がかりのありそうな小物を見て、できるだけご遺体の方は見ないようにしていたのだが、気になった方向はガッツリそちら側である。

 もちろん見たくない。しかし、気になることがあったのならば、こう言う時はちゃんと確認した方が良い。


「失礼しますよ」


 部屋全体を見回すと、奥にも扉があることに気づいた。やたら豪奢で後ほど探索が必要になるのかも知れないが、かなり屍の近所なのでできれば近寄りたくない。


 気になった場所には、少女と言っても差し支えない程度の年齢の人が座った状態で壁に寄りかかっていた。体の損壊が激しい人もいる中、ナイフが突き立てられて血の滲んでいる心臓付近以外は比較的綺麗な状態を保たれていた。

 突き立てられたナイフは使われている青紫色の宝石や金色に反射する金属がキラキラと煌めいており、実用的と言うよりかは儀式用にも見える華美なものである。


 一度手に持った資料を床に置いて、膝を付いて様子を伺った。


「これは………」


 少女の金色の髪は、血とは違った色の赤いリボンで括られて横に流されており、その先はキラキラとした装飾が付いていた。どこかに引っかかるその情報の源を考えてふと頭に一つだけ浮かぶ。

 おそらく、資料室で見た日記の少女だ。

 あの不穏な日記の終わり方の後に、ここで命を落としたのだろうか。


 なんの理由や出来事があった上でこのような惨状になったのか、まだ全貌はわからない。しかし、このような少女までこうして犠牲になっているのを見ると辛いものがある。

 取り敢えず手を合わせて冥福を祈る。宗教の方式的に間違えているかも?それは知らない子ですね。


「ハルトー?大丈夫か?」

「あ、すぐそっち行きますんでまだ待っててください!」


 一瞬感傷に浸りかけたら扉の方から邪神さんの声が聞こえたので思考が一気に引き上げられた。

 取り敢えずもう一度手を合わせてから立ちあがろうとしたその時、カランと足元で音がした。


 ふと見ると、薄く虹色にキラキラと光る結晶のようなものが転がっていた。大体親指の爪ほどの大きさで、先ほどまではなかったはずである。


「持っていって良いんですか?」


 特に動きはないはずだが、少しだけ微笑んでいるような表情が俺の言葉を肯定しているような気がした。まだ少しだけ何かを言いたげな表情をしているような気もするのだが、死者の言葉を聞くことは俺にはできない。後で必要があればまた戻ってこよう。


 今度こそ立ち上がり、託されたのだと思う虹色の結晶をしっかりと握りしめたまま、資料を抱えて扉の方へ向かった。




「随分とかかったではないか。その、……大丈夫、か?」

「大丈夫ですよ。慣れないですけどなんとか。ただ、ちょっと気になることがありまして」


 扉を出たら、邪神さんがすっかり邪神の邪の字もないような様子でこちらを心配してきた。

 俺の言葉に少し首を傾げた邪神さんに、先ほど渡された結晶を一つ渡す。


「これを。日記の少女から頂きました」

「日記の、少女から……そうか、彼女も……」

「二つ頂いたので多分一つは邪神さん向けだと思います」

「すまない。ありがとう。………それにしても、これは……」


 その様子は何か心当たりがあるようにも見えて尋ねたが、確信が持てないと言って教えてくれなかった。


 まぁそのようなこともあるだろう、と持ってきた資料の検分を始めるために、例の部屋以外の場所に移動した。ちなみに、鍵なしで入れた地下の資料室は普通にただの資料室だし、こちらにも何か読むべきものがありそうで辛い。


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