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11,こういうのって真相までスッキリわかるのがテンプレじゃないんですか・上


「……………」


 赤リボンの少女から貰った虹色の結晶を見つめたまま、邪神さんはしばらく反応が薄かった。


 とりあえずその様子は隅に置いておくとして、あの異質な部屋と同じ地下なのにまともな様相をしている資料室に移動してから、そこにあった机の上に持ってきた資料をどさっと広げた。


 それにしても、良く言うなら所謂中世ヨーロッパ風で年季の入った、あけすけな言葉で言ってしまえばかなりボロい地上の教会に比べて、地下はある程度技術が発達している印象がある。

 例の部屋の奥の豪奢な扉然り、このエルダーンと言う異世界でも格差のようなものがあったのだろうか。



 持ってきた資料は羊皮紙としっかりした革の装丁で構成された鈍器本が数冊、無造作に棚に置かれた紙を十枚前後、どこのかはわからないが鍵らしき物や使い道のわからない物などである。


 紙類はあの部屋で行われていたことに対するメモらしい。鈍器本は初めの方をパラパラとめくった結果、紙でメモしていた実験内容をしたものや、信仰に関する記述、例の***に関する書籍などであった。多分地上の資料室にあった概要書とはちょっと違うのだろう。また、この教会の構造に関する記述もあった。


 一冊目を手に取る。

 これはあの部屋の実験に関する記録らしい。

 はじめて翻訳機能を使って文字を読んだ時は、その不思議な感覚にうまく適応できずに気分が悪くなっていたが、だいぶ慣れてきたものである。


『ようやくだ。人を媒介にすることで***様と安定した交信ができるようになってきた。交信内容は別に記録を残しているため、こちらにはここまでの道のりを今一度示すことにする』


 いきなりクライマックスである。どうやら実験の始めからではなく、途中の巻らしい。


『***様と交信するためには、ある一定の贄が必要となる。これまで何もできなかったのだが、驚くべきことに一人の村人の死体を捧げたら回路が繋がったのだ。

 それ以降、定期的に死体を捧げることで交信を図るようなった。しかし、一番初めほど安定した回路は見出されなかった。幸いにして我が教会は葬儀に関して一任されているため死体ならいくらでも手に入る』


 この時点ではまだ、既に亡くなった人のみを使っていたようだ。

 さらにページを捲る。


『死体が足りない。全てを捧げてしまうと流石に隠し通すことは難しい。逆に優先度の低い平民を捧げて行方不明ということにする案を思い付いた』

『結果は上々、こちらとしても行方不明に関する注意喚起をすることで立場を確保できる。以下より、贄に関する実験を記録していく』


 ここからあの部屋の惨劇に繋がる、と。


『贄として使われた人間は***様の加護を外れるのだろうか。通常は死亡後一月を過ぎた辺りで死体と言うものは崩れるものである。

 しかし、使われたものは今も崩れずに残っている。そもそも死体が残らないと言う事実をこれまで疑問に思ったことはなかったが、もしかしたら***様の影響があったのかもしれない。このようなことがわかっただけでもこの実験は有意義であると言えるだろう』


 どうやら、地上の妙な人の気配の無さと言うのは、そもそも生者どころか死者の痕跡すらもなかったからなのかもしれない。

 もしかしたら、この教会を出られたとしてその先に行っても誰もいない可能性も考えてしまい、少し背中が震えた。


『たまたま繋がった回路の調子が良かった。被験者は抵抗の際に複数損傷あり、実験を続ける』

『条件を変えてみることにする。手始めに性別、生者と死者、年齢、苦痛の有無などを変えてみた』


 そこからはひたすらに実験の描写が続いた。特にこれと言った条件を見つけられていないのに、延々と年齢指定の付きそうな描写が続いているため割愛する。


 実験が進まず拗れる描写が続く中、突然様相が変わった。


『エレーナが***様と交信していた。なぜ、一体どうやって』


 突然出てきた個人名に一瞬思考が止まったが、ふと赤リボンの少女を思い出した。ちょうど日記とも描写がリンクしている。


『どうやら、***様との交信には何かしらの素質が必要なのだろう。しかし、私にはその素質に関する知識も、それを測定する方法も無い。ひとまず彼女を実験に引き入れた』

『案の定全てを知った彼女からは大いに反発を受け、抵抗された。博愛主義も過ぎれば面倒でしかない。ひとまず軽く抑え込み、心の臓を神器で突くことで動きを止めた。死体であっても交信はできたのだ。きっと上手くいく。実験を続ける』


 あのやたら華美なナイフは神器なるものだったらしい。確かに、心臓周りに突き刺さっていたことで血は滲んでいたが、致死量かと言われれば微妙なところで、口からも血が溢れた様子はなかった。もしかしたら何か他の機能がついているのかもしれない。


『なぜだ。エレーナを刺してからだろうか、***様が交信に応じてくださらなくなった。初めは不調かと思ったが、何度贄を捧げても無駄だった。どうして』


 少女と交流をしていた***とやらにも情があったのでは無いか、などと邪推してしまう。気づいたらそのすぐ次のページで書物は終わっている。


『我々の実験もここで終わりだろう。ここは、この地はもうすぐ終わる』


 そこでその本は終わっていた。なんだか後味がよろしくない。


 二冊目も手に取ったが、こちらはほとんど読むことができなかった。と言うのも、


『◯の月++/

 外世界の___において__して____様が_____で___(以下略)』


 みたいな様子で、日付ごとに何かがあったのはわかるが、実際に何が起こったのかの記述が一切読めないのだ。

 一つ目の資料の通りこの場所で人体実験的なサムシングが行われており、それによってここで信仰されている***と言う存在と交信していたのはわかった。

 そして、これからこの資料を用いてその実際の交信内容を調べるターンなのだろう、普通は。これでは肝心の「何があってここまで廃れたのか」が一切わからないじゃないか。


 多分資料の構成的に、外の世界とのいざこざあってそこから滅びに繋がったのはなんとなくわかる。わかるのだが、これならこの資料より少女の日記の方が情報源としては強い。いやまぁ少女の日記が眉唾ではなさそうなことが別側面からわかっただけプラスなのか………?


 などと考えていると邪神さんが戻ってきた。


「何かわかったことはあるか?」

「目ぼしいことはあまり。あの人体実験部屋が***との交信のための生贄用実験部屋だったことはわかったんですけど、肝心の交信内容がとんと読めなくてですね」

「ふむ………」


 あの部屋のことを持ち出すと一瞬邪神さんの顔色が悪くなったが、すぐに持ち直して資料をパラパラと見ていた。その様子を見ていると、邪神さんはすぐにパタンと本を閉じて宣言した。


「………こう言う時は次だ、次!」

「はぁい」


 仕方なしに三冊目を手に取る。

 こちらは先ほども登場した神器や、教会に存在する像・道具などに関するメモ書きのような解説書だった。


 一つ一つ熟読していくと時間がかかるため、関係のありそうなものだけ抜粋する。


 まずは地上の中央広間にあった像について。あれは***へ祈る際に使われているものらしく、***の力が一部入っているとかなんとか。真偽は不明だが、神と交流しようとしている人間がいる場所だ、そのような不思議ポイントがあっても良いのかもしれない。


 そして、少女の胸に突き刺さっていたナイフについて。実験の記録書にもあった通り『神器』と言うもので、不思議な力が込められているらしい。ここにわざわざ明記されていると言うことは、何かしらの繋がりがありそうなものである。


 そこまで考えて、邪神さんがふと口元に手を当てて考え込んでいることに気づいた。その様子はさながら小学生探偵である。


「何か気になることがありましたか?」

「____先ほどの結晶といい、少女といい魔力のような気配を感じた」

「それって………」


 邪神さんが続ける。


「魔力に関する認識は?」

「現代日本人にあると思います?まぁ、ファンタジーものに出てくる程度で良いならうっすら想像がつきますが」


 純正日本人にファンタジーを持ち出されても、詳しいことはわからないけどなんとなくそんな概念があるのでは無いだろうか、くらいの認識しかできない。普段全く使わなくて知らないので。


「大体合っていると思うしその認識で構わない。とりあえず、この世界では基本的な魔法を行使するのに加えて、神と波長を合わせるためにも魔力が必要になる」

「それにしてもここの人たちの記述的に魔法はなかったっぽいですけど」

「そもそも、魔法やら魔術やらを行使するまで文明が育っていなかったのではないか、と思う」


 曰く、俺の住む地球でも石炭や石油というエネルギーがあるにも拘らず、それが使われたのは人類史のかなり最近の方だろうと。つまり、そこに使える資源があったとして、それを使えるレベルまで文明が発展していないと、石油だろうと魔力だろうとただのよくわからない物体なのだと言われた。


 ファンタジーものでは魔力を使って魔法を使うことに疑問を抱かないが、そもそもその世界における魔法の原初とは?と言われるとわからないことが多い。新たに一つ学びを得た。


 結構流暢に教えてくれたので記憶が戻ったのかと思って尋ねたが、知識や常識として備わってきたことが薄らと思い出せただけだと返された。


「それはさておき、一度少女のナイフについて見に行ってみる必要があるかもしれぬな」

「あの部屋、結構キツイですけど大丈夫です?」

「う………それは、なんとか」


 すでに不安である。


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