12,こういうのって真相までスッキリわかるのがテンプレじゃないんですか・下
さて、なんとか例の部屋に戻ってきた。途中で邪神さんがリタイアしそうになったが、「大丈夫だ、進もう」と言われた。何度も言うが、幼いショタの姿でそれを言われてもただ心配になるだけである。
他を視界に入れないように、少女の前で再び手を合わせる。不思議そうにした邪神さんが尋ねてきた。
「それは?」
曲がりなりにも異世界らしき場所の神っぽいので知らないのはさもありなん。
「冥福を祈る仕草ですよ。死者が死後の世界でも安らかに暮らせるようにと」
「ハルトの居た場所って案外心身深いのか?」
「むしろ無宗教の方が近いですけどね、何も信じず全てを薄っすら信じているだけですよ」
などと雑談をしながら彼女に向き直る。
件のナイフだが、相変わらず彼女の心臓に突き刺さっていた。
先ほども描写したが、その柄の部分には青紫色の宝石が嵌っていて全体的に金でできている。先ほどは気づかなかったが、どうにもこの宝石は邪神さんの瞳の色と似ているので既視感があったようだ。
特に詳しくない日本人男子学生の身からしたら、宝石と言えばダイヤモンドやせいぜいルビー・サファイヤくらいしかわからない。もちろんこの宝石の名前など見当もつかないが、少なくとも落ち着く色合いなのと、純粋に美しいとは思った。
「刺されたと同時にナイフの魔力と少女の魔力が凝固することでうまく作用して時が止まっているようだな」
「なるほど?」
正直、魔力関連の話はふわっとしかわからないのでなんとなく返事しておく。
しかし、現状がわかったとしてこれからどうすれば良いのか。
「抜いて、みるか………」
「えっ」
つまり、邪神さんの推測が正しいとして、時が止まっている状態からナイフを抜き取るとは彼女の本格的な崩壊みたいなのを意味するのではないか。
しかし、恐る恐るナイフに手を伸ばしたら、エレーナと呼ばれた少女は「それで良い」と言わんばかりの微笑みを浮かべているような気がした。
そもそもこれってエレーナさんが悪者パターンも1%くらいあるんじゃないか?と思ってしまったが、どうやら邪神さんの助けとなったらしいアイテムをくれたし、これ以上疑うのも失礼になるのかもしれない。
「__ええい、ままよ!………し、失礼しますね」
ぐるぐると悩みながらも、一思いにナイフを引き抜く。
その瞬間、ふわりと一筋の風が突き抜けた気がしてうっかり目をぎゅっと瞑った。腰に軽い衝撃があったがそちらはおそらく邪神さんだろう。
”___ありがとう”
そんな声が聞こえた気がして恐る恐る目を開ける。
目の前には、来ている衣装こそ違って白いふわふわとしたワンピースを纏っているが、金色に靡く紙に赤色のリボンを付けた少女が浮いていた。
ちなみに案の定邪神さんは腰にひっついていた。ちなみに腰が抜けている。俺の腰を支えに立とうとしているが、いくら少年体型でもちょっと重い。というか怖がりを隠さなくなってきたな。
浮いている、と表現したように、その足は地面にないどころか透けている。というか、全身がうっすらと透けて、きらきらと輝いているようにも見える。
「ゆ、幽霊………?」
そう口に出してはいるが、ホラージャンルのような恐ろしさは一欠片もない。
”あなたの世界ではそう呼ぶのかしら?多分そうよ”
なんとも締まらない会話である。ひとまず目下一番の疑問をぶつけた。
「ええと、あなたはエレーナさんであってるかな?」
“大丈夫よ、来訪者さん"
「来訪者?」
“ええ。だってあなたはお外の世界から来たのでしょう?***様がおっしゃっていたわ"
ここでもまた***か、と思ってしまう。
「日記や資料で君について少しだけ見たんだ。何が起こったか教えてもらっても良いかな?」
“ええ、もちろんです。来訪者さん"
聞いた話曰くは、この教会には***様という存在がいること、エレーナさんはどうしてか***と交信できたこと、それを司祭に見つかって、司祭のやっていた非道な実験に加えられそうになって抵抗したところを刺されたこと。そして、刺された際のナイフが奇跡的に少女の魔力と混ざり、交信していた***の一部と少女がそこに留まったことを一気に語ってくれた。
「魔力のことについては知っていたの?」
“魔力についてはよくわからないけれど。………刺されてから、***様に教えていただいたわ。***様からは色々教わったのよ"
多分、この世界では魔力と呼ばれる力は”神聖力”という違った形の力で伝わっているようだ。
どうしてか、さらに外の世界であったことを詳しく聞こうとすると、そこだけ規制がかかったように聞き取れなかった。少女に知識を与えているらしい***によると、何かしらの制約に引っ掛かっているのかも、とのことである。該当の世界とは違う場所の人間、つまり地球人であることがまずいのか。
加えて、エレーナさんと***との通訳を挟みつつ、現状記憶喪失である邪神さんの存在が***とその紛争に関わっているかもしれないことも突き止めた。
亀の歩みだが、邪神さんの記憶喪失の解明に少し近づいただけでも重畳なのかもしれない。
ちなみにこの間、邪神さんは俺の腰にひっついて若干意識を飛ばしていた。邪神さんや………。
“そういえば、一番伝えたかったことを忘れていたわ!"
「なんでしょう?」
“ここから来訪者さんが出る方法よ"
なるほど、それはありがたい。
会話を一つ一つ拾うと長くなるため割愛するが、脱出方法と言っても、基盤は中央広間のあの像らしい。
あの像にはこの探索や資料で幾度となく出てきた、***とやらの力が宿っている。そして、教会をはじめとしたこのエルダーンは***の力によって保たれているが、現状ナイフと像に少しずつしか残っておらず、中途半端に分散されているせいで閉じ込められているんだと。というか、その外世界の紛争の影響で***は死にかけで、ここも時期に崩壊するとのことだ。
あ、ちなみに周りは島になっているらしい。
で、このナイフを広間のあの像に突き立てれば多分何とかなるらしい。"多分"が強調されていたので正直かなり不安である。が
ここまで来たのなら、もうなるようにしかならない。
一応、像にナイフを当てると像が崩壊するらしく、それだけで脱出は多分できるけど、何も起きなかったら像の中に予備の鍵が埋め込まれているのでそちらを使って出れば良いらしい。
いくら幽霊もどきと言えど、この場に保っているのももう限界だということで一時ばかりのお話会は終わりを迎えた。
“最後に、ありがとう来訪者さん"
「俺はただ探索していただけで、特にこれと言ったことはしていないよ」
“いいえ、いいえ。あなた方の存在は確かに私の希望となったわ。__今日のこの出会いに格別の感謝を。そうして、あなたの旅路に祝福を"
「ありがとう、エレーナさん。___あなたも、もしあの世があるのならそちらで健やかに」
その言葉に、ふわりと彼女は微笑んで消えていった。
さて、色々あったがとりあえず、ひとまずの脱出方法はわかった。
しかし、オーソドックスな脱出方法として鍵見つけて円満解決!という訳ではなく微妙にモヤっとした方法であるのが一つ。
そして、伏字やらそもそも読めないところやら、有識者から話を聞いてもやっぱり理解が不能な面があるやらで真相がいまいちはっきりと掴めないのがもう一つ。
絶妙に不完全燃焼である。
俺の腰に掴まったまま伸びていた邪神さんをそっと、しかし確実に叩き起こして、事情を全て説明した後、俺は一つ物申した。
「こういうのって真相までスッキリわかって全部解決するのがテンプレじゃないんですか?」
「それは、まぁ、その………なんかすまん!」
ちなみに引っ張っても仕方がないので言いますと、ナイフにくっついていた宝石のモチーフは「アイオライト」です。宝石言葉は「道を示す」らしいです。




