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13,脱出、崩壊、そして

 

 さて、ダラダラとしていても仕方がないので、ひとまずこの教会を脱出することにする。


「ふわぁ!地上の空気はやっぱり美味しい………」

「こればかりは完全に同意だ……」


 色々と情報をまとめたメモ帳やらいただいた虹色結晶やらと、現在一番の重要アイテムであろう飾りナイフをしっかりと握りしめたまま、地上の広間に戻ってきた。



 一通り伸びやら深呼吸やらをして、ひと心地ついた後のこと。


 俺と邪神さんは広間にドーンと鎮座している像に向き直っていた。


「本当に、これ突き刺せば出られるんですかね?」

「ここまで来たらやるしかなかろう」


 一気に降りかかってくるファンタジー要素にあまりついていけてない俺は、少しばかりモゴモゴと躊躇していた。


「邪神さんがやってくれたり………」

「あくまで探索者はハルトなのでハルトがやるのが筋だな」

「ウィッス」


 こうなったら度胸である。というか、一歩先だか後ろだかの目線にいるつもりなのかもしれない邪神さんだが、普通に色んな現象に俺より反応している時点で何か違うだろとは思う。


 さて、装飾を傷つけないようにそっと掲げたナイフはそのままに、例の***の石像に突き立てる。白っぽい石でできたその表面にカツンと当たって止まるかと思ったら、そのまま石像の中にナイフの切先がスルッと入って行った。本日n回目の怪奇現象である。


 ナイフの柄のはじめの部分まで埋め込まれたくらいの時、それ以上切先は進まず、代わりに柄先に埋め込まれた青紫色の宝石がキラリと光った。


 石像からも溢れた光と宝玉の光が混ざり合ったと思ったら、目の前の石像が跡形もなく崩れていた。


「うわ本当に崩れた」

「!見ろ、ハルト。跡に何かあるぞ」


 邪神さんの言葉のまま跡の床を見ると、そこにはこれまで見たことのない豪奢な鍵が落ちていた。石像が崩れた砂埃で多少汚れているが、これで外に出られるのだろう。


 なんだかんだなんとかなったと二人でほっと息を吐いたその瞬間。


 ゴオォォオと、どこかから低く唸るような地響きの音が聞こえた。


「なんか、揺れてません?」

「……ふむ、これは、まずいかもしれんな」


 建物の揺れと崩壊は同時に始まった。これは建物だけでなくこの教会の存在する土地ごと崩壊している勢いかもしれない。


 グラグラと激しく揺れる視界の中、膝を付いて耐えることしかできない。かろうじて頭を手で守る姿勢だけはできた。地震大国出身者でもこれは無理。震度どれくらいだ?これ。天井とかシャンデリアとかないだけ幸せ。


 探索中ビビりまくっていた邪神さんはどうだろうか。


「じゃ、邪神さーん?」


 腕の隙間からちらりと様子を見れば、探索中の様子とは打って変わって平然とどういうわけか立っていた。


 とは言っても表情まで平然と言うわけではない。普通にびっくりした顔であたりを見渡している。単純に、事態には困惑していても、揺れの影響を全く受けていないと言った方が正しいのだろう。


 どこか人間らしい表情を見せてくれていたようにも思っていたが、やはり人外は人外らしい。こんな状況でそれを認識する羽目になるとは。


「__ハルト?!そうだった人間は自立できないんだった」


 邪神さんがこちらに気づいた。


 何かを言っているようにも見えるが、轟音のなかで聞き取ることは難しい。

 彼がこちらに手を伸ばしてきたが、ちょうど飛んできた壁の破片が邪魔となり、上手く掴むことができなかった。


「………仕方がない、奥の手を使うか」


 崩れると思ったその瞬間、ふわりと風が吹いてその全ての時間が停止した。ような気がした。


 そうして、なぜかそのまま俺の視界は真っ暗になった。




 ◇◇◇




 目が覚める。実に見慣れたいつもの自室の天井だ。

 何かの出来事だとか事件だとかが始まる雰囲気もない。


 今日も代わり映えのない休日を過ごすか、と漫然とスマホを開いて画面を見ると、ふと違和感を覚えた。


「今日は、日曜日?土曜じゃなく?」


 今日が想定していた日付より一日進んでいるのである。


 昨日は何をしていたのだったかと思い出そうとすると違和感とともに頭の隅がチリチリと痛む感覚があり、その違和感から引っ張り出されるように、記憶が蘇ってきた。


 まさかの”夢オチ”と言うやつだろうか。

 その割には記憶がはっきりとしているが、ファンタジー小説でない以上は夢であったと言わないと辻褄の合わないような不思議な記憶が広がっている。

 邪神を名乗る幼い少年も、あの場所に居た少女も、酷い光景も全て夢であったのだ、きっと。


 そう思おうとして、ふと視線をベッド横の机に向ける。

 そこには、直近では夢の内容以外で使った記憶のないメモ帳と虹色の水晶、極めつけには青紫色の宝石のついたナイフが置かれてあった。


「あーー、これは………」


 一応幻覚でも偽物でもないかを確認するために持ち上げてみても、ナイフには確かにズシリとした重さがあり、水晶には硬質と不思議な感覚がある。

 そして、極めつけには探索時に大量に書いたメモがそのままメモ帳に残っていた。


 物的証拠を突きつけられて、昨日の出来事が現実だったことを受け入れざるを得ない。


 現実を認識してしまったせいなのかただの気のせいなのか、色々と動き回ったこともあって、しっかり寝ていたはずなのに疲れが取れていないような気までしてきた。


「見なかったことにしよう………」


 まだ休みなのを良いことに再びベッドに潜りこむ。外で大いに立ち回って色々と汚れているはずだが、シャワーにかかる気力もなかった。そもそもその汚れた身体で既にベッドに入っているわけで、後でマットレスやら何やらを洗えば良いかと思ってしまったのだ。


 ちなみに。人はそれを現実逃避と呼ぶ。





 この時の俺は知らない。


 これから俺は、この不思議な体験で出会った自称邪神な邪神さんに色んなところに連れて行かれる羽目になるということを。




 ◇◇◇




 かの神が“彼“を選んだのは本当に『偶然』のことだった。


 そうして縁とは繋がるものなのである。その偶然で物語は始まっていくものなのである。


 ____本当に?

 本当にかの神と彼の縁は偶然なのであろうか。はてさて、それを知る能力を未だ私は持ち合わせていない。


(『ある観測者の手記』より)


と言うわけで、お試しで書いた小説の序盤も序盤の一章が終わりました!

物語としては不明瞭な部分も多いのですが一つのキリが付くところまで一回書けたことにはほっとしています。


あと一話閑話を挟んでから、少し間をおいて二章に入っていきます。

一応閑話ではあるのですが、別視点からの補足説明的な意味も兼ねているので読んでいただけると幸いです。


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