5,異世界探索で言語チートは鉄板だけれども
「エルダーン……」
「今度は聞き取れるのだな」
邪神さんは心なしか安心しているようにも見えた。そういうところが邪神を自称してもなんか違う感に繋がるんだと思う。
子供の姿を取っているから邪神に見えないのではない。底知れない怖さとかが全然ないから邪神に見えないのである。
「それにしても相変わらず伝聞系なんですね」
ふんと鼻を鳴らして彼は言った。
「我はここの神ではないからな」
だったらなぜこんなことを、と聞く前に彼は続けた。
「だが、ここに来る必要はあった。しかし我だけでは他の世界に干渉できない。よって地球より一人の人間を選び、その人間を媒介に干渉する形でここに存在しているのだ」
「え、じゃあ俺を選んだ理由は何なんですか」
そこで邪神さんはすぐに答えず、やや気まずげな顔をした。何その顔。
しばし無言で見つめあっていたが、やがて観念したように邪神さんは口を開いた。
「…………偶然、だな」
「ぐうぜん」
「なぜかハルトが目に入ったのだ。なぜかは知らん」
なんだ、偶然で俺はこんな廃墟探索に巻き込まれたのかと少しばかり憤る気持ちもあった。
だが、そもそもかなり幼い姿でしょぼんとした顔をしている様子や、その整いすぎている容姿に怒る気も失せてしまう。多くの人間は顔がいい相手に強く出れないと思う。
どうにも不思議なのだ、と邪神さんは続けた。
曰く、自分が邪神であるということは魂に刻まれているようにわかるのに、なぜ邪神となったかまでの記憶が一切ない、と。
望まれて生み出された邪神であるならば、それが生まれる基となった信仰があるらしい。しかし、それに纏わる記憶すらもない。
ひとまずは記憶を取り戻すために動いており、記憶はなくとも縁が繋がっている地域の歪みを直している最中らしい。
それはそれとして自身の持っている名すらもわからなかったため、かなり動揺したそうだ。
そもそも日本人的感性で神言われている存在に邪とか悪とか固定的な基準を設ける方がよくわからないのだが。
だって神ってどんなのでも軽率に祟ってくるし。
フッと少年らしからぬ表情で笑って邪神さんは続けた。
「信じない方が良いかもしれぬぞ。なんと言っても我は邪神だからな」
「それを自ら言っちゃおしまいでしょうよ」
いい感じに会話を締めそうになって、ふと思い出したことを追加した。
「というか俺がここに連れてこられた経緯はわかりましたけど。俺、週明けに講義あるんですよ。そこは大丈夫なんです?」
「ま、まぁ大丈夫なんじゃないか?」
「ちょっと!?」
一応時間関係は地球とここではズレているから大丈夫らしいが、確証はないとのことである。
気まずげに目を逸らす邪神さんをそれ以上は追求できずに、俺と自称邪神さんは探索を再開した。
鍵のかかっている部屋はその他の探索で鍵を見つけたら入れるようになるらしいため、先に客間らしき部屋を探索したが、簡素なベッドと椅子や机がある程度でほとんど特筆事項がなかったため省略することにする。
ボロボロのシーツの上にあった枕代わりの木の板とシーツの間にやたらアンティークな鍵を見つけたので、それを持ってもう一つの部屋に向かった。
見た目はアンティークな割に意外と先端は凝っていたその鍵は、もう一つの扉を難なく開けた。
「ここは、図書室……いや、資料室?」
「まぁ、探索と言ったら情報収集よな」
「そんなテンプレを言われましても」
開いた扉の先は、書籍や紙、布やら箱やらなど雑多な資料が集められている部屋だった。図書館というには神の本は数冊で、何やらゴテゴテした装飾のものばかりだった。
そういえば、現代のようにぽんぽんと紙の本が量産される時代は最近だと言うし、仕方ないのかも知れない。
そして、そこで俺は重要なことに気づいてしまった。
「というか、ここがエルなんちゃらって場所なら俺って文字が読めないんじゃ……?」
「ふっふっふっ」
何やら得意げな顔をした邪神さんがその辺の棚から一冊本を抜き取ってこちらに投げてきた。
本への扱いが雑!
なんとかそれをキャッチして、どうせ読めないと思いながらもパラパラとめくってみる。
目に飛び込んできたのは案の定、皆目見当もつかない文字だった。だが。
「共有管理帳………記入者:ユーディーン、食材の管理について……って、え?」
読める。読めるぞ。
某大佐のセリフがうっかり出てしまうほどの衝撃である。知らないはずの文字の資料がなぜか普通に頭に入ってきたのだ。
しかし、全く知らない文字なのに目で追えば内容が頭に入ってくる感覚なので、正直かなり気持ち悪い。
「流石に言語の壁は大きいからな、サービスだ」
などとドヤ顔で宣った邪神に少々殺意を覚えたが、確かに言語が一切わからないと謎のままで探索が終わってしまう。
気持ち悪い感覚を我慢して読み進めるしかないのだろう。
ひとまず、全ての本を読んでいると時間がかかってしまうため、表紙などをパラパラと見比べて読む本を選別することにしたのだった。




