3,邪神さんとの出会い(なおショタ)
「あ、起きたのか」
「___っ?!?!」
人は、驚きすぎると声が出なくなるらしい。
俺以外に人の気配がなかったはずの空間に、突然声がしたのだ。そりゃ、俺は別に人の気配を探る訓練などをしている訳ではないが、扉が開いた音だってしなかったし驚くのも当然だと思いたい。
ビャッと体が跳ね少しだけ踵が浮いたが、口から叫び声は出ずに、代わりに出たのは声にならない音だった。
一体どんな存在がいるのだろうか、と恐る恐る後ろを向くと果たしてそこには___
小さな少年がいた。
正直、拍子抜けするほど幼くて思わず目を見開いてしまう。歳にして未就学児からギリギリ小学一年生くらい。
しかし、気になったのはその幼さだけではない。
薄茶色でふわっとしている髪に、クリっとした青紫色の目。そこまではよくあるファンタジーの美少年と言えばそれまでだろう。
その瞳はキラリと煌めき、どこか吸い込まれそうな感じがした。
一つ一つはありそうなパーツを持っているのに、それぞれのパーツとそれらの比率が異様に整いすぎていて、どこか人外に相対しているような感覚を抱かせてくるのは何なのだろうか。
きっと俺は無意識のうちに息を止めていた。一度唾を飲み込んで、息を静かに大きく吸い込む。
それでも抑えられない“何か”の感覚に後退りそうになった拍子に、少し視線が動いて、少年の顔だけでなく全身も視界に入った。
その体には不思議な仕掛けも何もない。
そして、その時女オタクの友人が言っていたことを突如思い出した。
『新刊のショタ、マジ萌え〜〜』
『またそれかよ』
『だってだって可愛いんだよ?!可愛いだけじゃなくて小悪魔なんだよ?!うーん見えてるおみ足がもはや凶器、舐めさせて欲しい』
『曲がりなりにも友人から犯罪者は出てほしくないからな』
などとにやけた笑顔で彼女は宣っていた。
なるほど、つまりこういう存在を所謂「ショタ」と言うのだろうか。
ベージュのシャツを着てサスペンダー付きの半ズボンを履いているような、彼女の言う萌えポイントのテンプレの格好している時点でもうそれにしか見えなくなってきた。
そう考えると何か得体の知れなかった恐ろしい未知の感覚は突如遠のいていく。
むしろ、これが“ショタ”か、と言う一種の観察対象にまで見えて来てしまったのだ。
「おいお前、なんか失礼なこと考えてないか?」
「い、いや全く?」
おっと危ない危ない。
それにしても幼い見た目の割に大分尊大な言葉遣いだが、この場所の関係者か何かだろうか。
もし俺と同じように迷い込んできたのならば、成人している人間として送り届ける義務があるのだろうと明後日の方向に思考を飛ばし、とりあえず聞いてみることにした。
「ええと、君は………うーん、迷子?」
「そんなわけあるか、たわけ」
すげなく否定されてしまう。
そう言えば、と俺が目を覚ましたことに対して言及していたことを思い出す。つまり、彼は俺よりも前にここにいて、俺がここで意識を失っている様子を一度見ているのだろう。
それに、扉の一つも開いていないのに突然現れたこの少年は結局色んな意味で怪しい。ショタなので威厳は半減してるが。
まぁそれでも、この場合は恐れていた「猟奇的な理由に基づく誘拐」の線は比較的薄くなってきたことにひとまず安心するべきなのだろう。
ここの脱出の手掛かりなるかもしれない存在 に対し、どう話しかければ良いものかと、俺が黙っているのをどう受け取ったのか、ふんと鼻を鳴らして少年は言った。
「人間よ。お前はこれからここを探索なり破壊なりをしてここを脱出、あるいは解決しなければならない」
「は?」の一言が脳内の大半を占めた。
「………いや、いやいや!な、なんで俺がそんなことしないといけないんだよ」
「それは我が黒幕系邪神だからだ」
言われた意味が飲み込めずに一回フリーズする。
「じゃ、しん?…………あ、邪神、か?」
「そうだ」
おそらく意味を理解できたであろう俺に向けて、その思考は正しいとでも言うかのようにOKマークを作る自称邪神であった。
「………いやあの、それ、答えになってませんよ」
曲がりなりにも日本人、何も深く信じてない割に良いもの悪いものなんでも祀る性質の日本人である。
目の前の少年が本当に邪神であるかどうかは定かじゃない。しかし、本人が神を自称するなら一応敬うくらいはして、うっかり敬語になってしまう俺が嫌だ。でも祟られたくない。
というか、一度冷静になって考えれば、本当に神の類なら自分のこと「邪」神と言っちゃダメだろ。そもそも何を持ってして邪神と定義付けるんだ。
「た、確かに……いやでも我は邪神だ!……多分」
「多分て……」
どうやら声に出ていたらしい。
「とにかく!人間!」
「その『人間』って呼ぶのやめてくれませんか?俺には春人って名前があるんですけど」
言ってから、神霊の類に名前を告げるとまずいんだっけと思い至るが、後の祭りだ。こうなったら諦めるしかない。
「そ、そうか。すまない、ハルト」
一気にしゅんとしてしまった自称邪神ショタを見て一気に毒気が抜かれてしまう。どうにも調子が狂う。
「そもそも邪神さんって、俺を連れてきた黒幕ってこと合ってるんです?」
「いやまぁ広義的にはそう、だな?………いやまて邪神さん?!なんだその呼び方は!我にだって立派な名前が!名前は、あれ?なまえ、」
黒幕であるかという直球な問いには一応肯定が返ってきた。
しかし、その後のどうにも自身の名前を忘れている様子に、どうやら向こうも向こうで事情がありそうだと察する。
「……名前、わかんないならとりあえず『邪神さん』でもいいんじゃないですか」
「ま、まぁそれもそうか……」
「うわやっぱ巻き込んで申し訳な、いやでも、」などと目の前の自称邪神さんは唸っていた。
うむ、上位存在(推定)の情緒がわからん。
「まぁ、どっちみち探索しないと手がかりがないなら探索はしますけれども」
「本当か!」
彼はパァッと目に見えて明るい表情になった。
なんだか変な事態になったなと思う。
一応「神」を名乗る存在が出てきたことで一気に異世界転移らしくなってきたとは言えよう。
しかし、その割にはその「神」がショタだったり邪神を名乗っていたり、目覚めた場所が人の気配のない廃教会もどきだったりと、どうにも変則的すぎないか?と思ったのであった。




