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立ちはだかる淑女


「ひどいわ! それでもエルキュール殿下の元婚約者なんですか!?」

 

 んんん?

 わたくしはただ提案しただけなのだが、ヒメナ様は突然叫び始めた。

 中身が変わっていないのは重々理解しているつもりだったけれど、これは突拍子もなくて理解が追いつかない。

 とりあえずなぜかわたくしが責められているようだけれど……。

 

「どうしてそんなに他人事のような言い方をなさるんですか!? エルキュール殿下のことを、なんとも思っていないみたい! 殿下のために新しい婚約者が決まるまで殿下を支えるとはおっしゃってくれないのですか!?」

 

 ああ、なるほど。

 頬に手を当てたまま、にっこりと微笑む。

 危うく言葉にしそうになってしまった。

 ――浅はかすぎる。と。

 

「まあ、そのようなことはありませんわよ。わたくしはラグランジュ王国の貴族ですもの。もちろんヒメナ様がお力を貸してくださればなおいいでしょう。殿下の新しい婚約者が決まるまで、ともに殿下を支えてくださるのでしたら心強いですわ」

「っ……」

 

 さあ、怒鳴っていても周囲の理解など得られませんわよヒメナ様。

 あなたがしてきた淑女になるための努力はそんなものですの?

 その程度でしたらわたくしの相手にもなりませんわ。

 ほらほらもっと頑張ってくださいませ。

 わたくしが微笑んでいることに一瞬顔を顰めたヒメナ様が、突然深く深呼吸をする。

 そうして顔を上げると、そこには微笑み。

 まあ、本当にやる気満々なのね。

 諦めの悪い方。

 いいわ、やりましょう。

 あなたがどれほど成長したのか、わたくしも興味があるもの。

 

「すーーー、はあ……。そうですよね、申し訳ありません。突然のことで私、混乱してしまったのだと思います。もちろん元の世界に帰るまで殿下の婚約者として努力は惜しみませんけれど……でもやっぱり不安なんです。私はこの世界の人間じゃないし、この国の人間でもないので。だから、やっぱり殿下の結婚相手にはロゼリア様が一番相応しいと思うんです! ロゼリア様は元々の婚約者じゃないですか! それに、やっぱり『国一番の淑女』として国母にこれ以上相応しい人はいないっていうか……。国外にも、バミニオス討伐に貢献した淑女ということで紹介もしやすいと思いますし!」

 

 ね、っとエルキュール殿下や国王陛下の方を振り返るヒメナ様。

 そうね、なかなか悪くない。

 でもその手を打つのはちょっと遅かった。

 

「お気持ちは嬉しいのですけれど、わたくしはもうブリジット様と婚約が決まりましたの。先ほど陛下にもお認めいただきました」

「大丈夫ですよ! ブリジット様と、エルキュール殿下と結婚すればいいんです!」

「は――」

 

 は?

 

「な、なにを言っているんだ?」

「今なんて?」

「ロゼリア様がブリジット様とエルキュール殿下と、結婚……?」

「異世界の常識かなにかか……?」

 

 わたくしも一瞬反応が遅れてしまったけれど、周囲の反応からしても『なにを言っているんだこの人は』状態。

 ほ、本当になにを言っているんだ、この方は。

 

「残念ながらこの国には男性複数人との婚姻は不可能ですわ」

「法律がないなら作ればいいんですよ!」

 

 わあ、大胆な考え方をぶち込んできましたね~。

 

「ヒメナ様、そうですわね。……引き続き頑張ってお勉強いたしましょうね……」

「ギッ……!!」

 

 突拍子もないことを言ってわたくしを翻弄しようと考えたのかもしれないけれど甘い。

 少し、いえ、だいぶ可哀想なものを見る目で優しく諭すように語りかける。

 それだけでヒメナ様は痛いことを言っている常識がわかっていない、触ってはいけない人間に仕上がる。

 わたくしの語りかけを聞いて、上位貴族たちの眼差しもそれで一気に可哀想なものを見る目に変わった。

 まあ、ある意味ヒメナ様の知性を救ったのだから感謝してくださいませね?

 まだこれから成長できるよ、という可能性を残したのです。

 手遅れではないはず、と。

 攻勢はこれで終わりかしら? 残念ね。

 あなたの悪行の情報は山のように集めておいたのだけれど……今日は使うことはなさそう。

 これ以後、あなたが突拍子もないことでわたくしを混乱させようとしてもまだまだ教育が行き届いていない残念な子、というイメージが定着してしまったもの。

『またなにかおかしなことを言い出した』というように見られてしまうから、もう通用はしませんよ。

 

「だ……だってー、殿下と婚約破棄してまだ半年も経っていないのに新しい婚約者が決まるなんて……殿下と婚約していた頃からブリジット様とそういう仲だったのかな、って思うじゃないですか。それじゃあやっぱり思い合う人と結婚した方がいいと思うんですよ!」

 

 あらあら。

 言葉使いが崩れてきているわよ。

 これでもなお挑んでくるつもりなのね。

 その根性、勉強に向ければよろしいのに。

 

「そうですわね。ハレノ様にお聞きしましたが、ヒメナ様の世界は愛する方と結婚するのが一般的なのですもの。そういう認識になるのも無理ありませんわ。そのあたりも今後頑張ってお勉強いたしましょうね。わたくしでよろしければ、お教えいたしますから」

「く、っ」

 

 他愛もない。

 これで終わりかしら?

 あなたはわたくしをどうしてもエルキュール殿下の第二夫人……自分の下に置きたいのでしょうけれど、その程度では誰もあなたの味方にはならない。

 わたくしの相手をするには、まだ早かったようね。

 

「さあ、初めてのパーティー主催でお疲れでしょう? ヒメナ様。先ほど混乱してしまった、ともおっしゃておりましたし、本日はお休みになられた方がいいですわ。ねえ、エルキュール殿下」

「ああ、そうだな。ヒメナ。下がろう」

「っ……」

 

 覚えていろ、と言わんばかりの表情。

 その根性だけは淑女にとても向いていると言わざるおえない。



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