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褒美の授与(3)


 そういえばブリジット様が褒美で望む者について聞いていなかった。

 わたくしとユリッシュはもう決まっていたけれど。

 でも、まさか、え?

 わたくしとの結婚!? 


「――ラクルテル侯爵令嬢、いかに思う?」

「え、ええと……」

「そなたはエルキュールの元婚約者。我が娘となっていたかもしれぬ娘。そなたが選び、幸福になれる相手であるのならば祝福しよう」

「陛下……」


 わたくしのことも我が子のように思っていてくださった、という意味だ。

 婚約破棄に関してもわざわざ王家の責としてくださったり、わたくしのことも大切に思ってくださっていたのだと伝わってくる。

 お優しい方。


「ありがたく存じます。ですがわたくし、ブリジット様とならば肩の力を抜いて、隣で生きていける気がいたしますの」

「受け入れるということでいいか?」

「はい。わたくしもブリジット様とともに生きていければと思います」


 おお、と声が上がる。

 この瞬間、わたくしとブリジット様の婚約は確実のものとなった。

 国王陛下が“待った”をかけていたが、国王陛下自身でわたくしとブリジット様の結婚を認めてくださったのだ。

 もう、わたくしたちの結婚を反対するものはなにもないということ。

 ブリジット様、陛下に待ったをかけられているという話を聞いてから考えておられたのね。


「では次にロゼリア・ラクルテル侯爵令嬢。そなたは聖女の盾として、真っ先に聖女を保護し後ろ盾となったばかりか遠征に同行するために魔法師団にて主魔児(アルグ)としての実力を最大限に示し、障兵遠征の旅にも同行するほどに聖女への忠誠心は感嘆に値する! バミニオス討伐後の調査にも大いに貢献した! 望みを言うがいい!」

「ありがとうございます。では――」


 ラクルテル侯爵家をわたくしに、と言いかけて、やめる。

 ラクルテル侯爵家をわたくしのものにすることはもうほぼ決まっているし、そう動いてもいる。

 お祖父様や他の親戚も後押ししてくださると確約ももらっているから……。


「わたくしに学校を作る許可をいただけませんか?」

「学校、とは?」

「貴族が通う学園とは別に、勉強したい者が勉強できる学び舎を作りたいのですわ。バミニオスが消滅した今、世界は新たな形に進化していくことでしょう。それを見据え、平民にも優秀な者がいれば学ぶ機会を与えたいのです。魔力を持つ貴族の優位性を保ったまま、国の力を底上げしなければならないと考えております」

「ふむ……」


 正直、貴族学園に通っていてもあまり勉強ができる貴族が多いとは感じない。

 ならば優秀な人間の母体数を増やし、国をもっと豊かにすることに移行するべきではないか?

 チラリと陛下の方を見ると、髭を撫でながら小声で「やはり先見の明があるな」と呟かれる。


「さすがは『国一番の淑女』! 政には関わっていないはずだというのに、貴族院で議題に上がっていたことを申し出るとは……。よい! 許そう! ラクルテル侯爵令嬢、ロゼリア・ラクルテル! そなたに子爵の爵位を与え、貴族院への出入りを許可する!」

「……!?」

「狸ジジイも多いが、我の権威を預けよう。侯爵家の爵位を継ぐまでは子爵の爵位を使って望むままに振舞ってみよ」

「あ、ありがとうございます」


 へ、へええええ?

 爵位……わたくし個人に!?

 それも、男爵位ではなく、子爵!?

 申し訳ないわ、陛下!

 わたくし、来年にはラクルテル侯爵家を手に入れるつもりなのよ。

 学校建設についても他人に任せるつもり満々だったのに!

 まんまと王宮に入れられてしまったわ!

 上手い具合にエルキュール殿下を助ける場所に連れ込まれてしまった。

 まあ、いいけれど。


「では最後にユリッシュ・パラシュート公爵令息! 聖女を守護し魔法剣士! バミニオスにトドメを差したのはそなたの剣だと報告を受けている! まさしく国の大英雄よ! 褒美を与える! なんなりと望みを申すがいい!」

「はっ。では――」


 会場の人間が息を飲む音が聞こえる。

 バミニオス討伐に貢献した最大の功労者、ユリッシュの望み。

 顔を上げたユリッシュが、口元に笑みを浮かべながら望みを告げる。


「聖女ハレノ様との結婚を。彼女の世界についていく許可をいただきたい」


 その言葉に、会場が凍りいた。

 国の最大の英雄が国を去る。

 聖女様とともに。

 まあ、無茶な話だ。

 だからこそ、陛下に直接許しを求めた。

 この――高位貴族の揃うこの場で。

 ユリッシュの、バミニオスにトドメを差した功績に対する当然の権利として。


「許そう!」


 ユリッシュの穏やかな声色とは対照的に、国王陛下の声は力強い。

 貴族たちのざわめきに対して陛下は「元の世界に帰った聖女ハレノを引き続き、しっかりとお守りするよう努めよ!」と付け加える。

 元の世界に帰ったあとも、ラグランジュ王国の(・・・・・・・・・)威信にかけて(・・・・・・)聖女様を守るのだ、という命令ともとれる言い方。聖女ハレノ様はこの国だけではなくこの世界――アブソリュート・ソアリアの恩人。

 ハレノ様が無欲であるからこそ望みもあまり叶えて差し上げることができなかったが、ラグランジュ王国最強の騎士を捧げて生涯お守りする、という他国への牽制がこれで成立する!


「そんな……」


 陛下の言葉で場の空気は祝福の方向に変わりつつあった。

 そんな中、唇を振るわせる声。

 ちらりと陛下と王妃様の隣を見ると、怒りと絶望、そして……憎しみと信じ難いというような感情のない混ぜの表情でハレノ様を見下ろすヒメナ様がいた。



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