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褒美の授与(1)


 一抹の不安を覚えながら、公爵様とエルキュール殿下を先頭にして会場に戻る。

 踊り子は下げられ、穏やかに陛下への挨拶を行う高位貴族たちの姿が見えた。

 ドリンクもアルコールの入っていないジュースが追加され、使用人の数も増えている。

 頰に手を当てて玉座側を見ると、穏やかな笑顔の王妃様が後ろに控える数人の女官に指示を出していた。

 そうなのよね。

 王妃としての自信に欠けてはおられる方ではあるのだけれど、能力自体は申し分がない。

 ご本人がそれを自覚した上で、今回のように腕を振るわれれば瞬く間に場は収まる。

 しかし、やはり表情はともかく顔色は悪い。

 責任を負いたくない、と大きく顔に書いてあるのようだ。

 なんなら若干、ストレスで肩を震わせている。

 多分明日は熱を出して寝込まれるでしょうね。

 でも、こればかりはわたくしが陣頭で指揮などできませんもの。

 なにしろ、殿下の婚約者主催。

 相談されたわけでもないわたくしが勝手をすることはできない。

 王妃様――王子の婚約者よりも高い地位の方でないと。

 

姫菜(ひめな)……むくれちゃってる」

「あらあら」

 

 会場に入ると、ハレノ様が玉座横で一人立たされ、イライラとしているヒメナ様に困ったように眉尻を下げる。

 王妃様が前に出てパーティーの運用を押しているので、やることがないのだろう。

 というよりも国王陛下が直々に“お叱り”になったのではないだろうか。

 でないと王妃様が自分から動くことはない。

 座ることもできずに不服そうな表情を隠しもせずに立っているなんて。

 淑女としては三流ね。

 

「国王陛下、お呼び出しに応じはせ参じました」

「おお、来たか。それでは皆もこちらに」

 

 公爵様が声をかけると国王陛下が会場に残っていた高位貴族たちに声をかける。

 今から始まるのはバミニオス討伐の報酬の話。

 下位、中位の貴族がいなくとも問題はない。

 まあ、彼らが帰ったのは未成年の子どもがいた場合が多いから、子どもを連れてきていない下位、中位貴族もまったくいないわけではないみたいだけれど。

 領地のある貴族には無関係の話ではないから、残っているのはそういう貴族が多そうね。

 わたくしたちの他に騎士団長も駆けつけ、横に並ぶ。

 公爵夫妻とアリス、ユシスは数歩下がり、ユリッシュにエスコートされてハレノ様が真ん中に誘導されて前に出る。

 

「さて、遅くなったが此度の障兵討伐の遠征、ご苦労であった。障兵だけでなく青い森の奥、バミニオスの亡国にも攻め入り、なんとバミニオスそのものまで討伐してしまうとは! これはとんでもない快挙! 世界に誇れる我が国の誉れ! 近いうちにこの事実は世界にも公表する!」

「「「おおおおお!」」」

「なんと! バミニオスが!」

「此度の聖女様はまったく表に現れぬと思ったが、聖女としての役目を優先してくださっていたのか」

「なんという勤勉な聖女様なのだ」

「待て、バミニオスが討伐された? では、我らはもう障兵に怯える生活をしなくてもいいということか!?」

「なんということなの……! 聖女様、お名前は!? 歴史に刻まなければ!」

 

 貴族たちから上がる賞賛の言葉。

 ハレノ様が恥ずかしがって俯くので、小声で「いけません。王の御前ですよ、ハレノ様」と注意する。

 頑張って顔を上げるハレノ様のなんと可愛らしことでしょう。

 ハレノ様の功績を思えばパレードをしたり世界中から絶賛されてもいいのだが。

 ハレノ様ご自身があまりそういったものを好まれないから、公爵家滞在中にお断りしたらしいけれど。

 

「あら? でもおかしいわ。障兵討伐遠征に向かう前に、確か聖女様はパレードを行っていたわよね? あんなに黒い髪だったかしら……?」

「ああ、あれは殿下の新しい婚約者様だそうよ。王都でパレードだけ(おこな)って、その月から三ヶ月ほど王都の歌姫を務めたんですって」

「ええ? なぜ?」

「聖女様と同じ世界から来た方だから、聖女様を鼓舞するためだったのでは?」

 

 国王陛下の視線がゆっくりと噂話をする夫人たちの方へ向けられる。

 その視線に慌てて口を噤む夫人たち。

 でも、そうね。

 それに関してわたくしもブリジット様から話を聞いただけだったから、呆れるだけだったけれど……。

 よく考えなくてもそのパレードを行った資金はどこから出ていたのかしら?という話だったわね。

 陛下の視線がヒメナ様の隣に立つエルキュール殿下に向けられてから、一度目を閉じる。

 あら……?陛下、まさか――。

 

「我が愛しき臣たちよ!喜べ!聖女ハレノにより我らはバミニオスと障兵の恐怖から永遠に解放されたのだ!そして、バミニオス討伐に聖女の盾と矛として貢献を称え、勲章と褒美を与える!各々望みを言うがいい!まずは聖女、ハレノ!望みを申してみよ」

「は、はい。えっと」

 

 恐る恐るわたくしの方を見るハレノ様。

 可愛らしいけれど、陛下に頼む望みは事前に決めていたでしょうに。

 

「大丈夫ですわ、ハレノ様。胸を張って申し上げればよいのです」

「は、はい。――陛下、私は……元の世界に、帰りたいです……!」



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