鬼牟田圭亮③
素直な良い子に見えるが、西脇曰く「あれでなかなか執念深いところがある」そうだ。恨みを買うようなことをしているのだろう。
「先生の灰色の脳細胞をフル回転させて、この生首事件を解決して下さい。全面的にバック・アップします。おっしゃってもらえば何でも調べます。この事件、面白そうです。番組で特集を組みましょう。事件解決となれば、そのドキュメントをゴールデンで二時間スペシャルとして放送するのも良いなあ~編成には僕から話をしておきます」
「まあまあ、西脇さん。そんなに焦らないで下さい。それに、灰色の脳細胞はエルキュール・ポアロですよ。僕は金田一耕助ではなかったのですか?もっとも、僕が飛ばすのはフケじゃなくて冗談くらいですけど」
「はあ~?」金田一耕助の名前が出る度に言う、圭亮、定番のジョークだ。聞き飽きていた。
猟奇的な殺人事件として、世間で注目を集めている事件とあって、生首事件は「サタデー・ホットライン」のトップ・ニュースとして報道された。
事前の打合せ通り、若手アナウンサーの羽田が事件のあらましを説明する。その後で、MCの宮崎が「鬼牟田さんのご意見を伺ってみましょう」とコメントを求めた。事件に関する情報が少ない。ニュースを詳しく伝えようにも間が持たないのが現実だ。
「はい。わざわざ頭部を切り落として現場に残していった訳ですから、犯人には被害者の身元を隠そうという意図はなかったのでしょう。普通、身元を隠すつもりなら胴体部分ではなく、頭部を持ち去るはずです」
「なるほど。何故、胴体を持ち去ったのでしょうね?」
「胴体部分に特徴的な傷跡があったのかもしれません。特殊な凶器を使って殺害したので、凶器が特定されてしまうと、犯人が誰だか分かってしまう。そうでなければ、僕は犯人の被害者に対する強い恨みを感じます」
「怨恨ですか。鬼牟田さんは、被害者に対して強い恨みを持つ人物の犯行だとおっしゃっているのですね。羽田さん、被害者は確か地元の漁師さんでしたね?」
宮崎が巧みに話をつなげる。
羽田は入社二年目のホープだ。アナウンサーらしく、清潔感のある整った容姿に、贅肉の無いすらりとした体形をしている。一重瞼と切れ長の大きな目が印象的だ。すかさず、羽田が「はい、地元の漁師で、父親は漁協で組合長を勤めているそうです」と答えた。
「被害者とトラブルになっていた人間はいなかったのでしょうか?」
「残念ながら、まだ、そういった情報は入手しておりません」
宮崎が再び、圭亮に向かって尋ねる。「現時点で被害者に強い恨みを抱いていた人物は浮かび上がっていません。鬼牟田さん、他に何か分かることはありませんか?」
「殺害場所が神社であったこと、それに、切断した頭部を神社に残していったこと、そこに何かしら、犯人の意図を感じるのです」
「とおっしゃいますと?」
「犯人にとって切断した頭部を神社に残して行くことに意味があったのだと思います。神社でなければならなかった。ひょっとしたら神社の縁起に関係があるのかもしれませんね」
「殺害現場となった神社の歴史を紐解けば、今回の殺人事件との関連が分かるということですね?面白い。もう少し詳しく、お話頂けませんか?」
「今回の事件の変わった点は、犯人が被害者の頭部を切断し、それをお供え物のようにして、神社に置いていったことにあります」
「はい」宮崎が相槌を打つ。
「僕は、犯人が被害者の首を神社に供えていったことの意味を考えていました。神社です。犯人は何故、そんな罰当たりなことをしたのでしょう」
「確かに、神聖な場所を冒涜する行為と言えますね」
「そうです。ですが、犯人にとって、生首を神社に供えることが、罰当たりな行為でなかったとしたらどうでしょうか?」
「どういうことです?」
「勿論、単に世間を騒がせたかっただけの愉快犯の犯行の可能性があります。でも、僕には、犯人が明確な意図を持って、生首を神社に供えていったように思えるのです。その理由を解明することができれば、犯人が誰なのか見えてくるかもしれません。謎を紐解くヒントが、神社の歴史に隠されている。そう思います」
「分かりました」宮崎はひとつ大きく頷くと「番組として、鬼牟田さんの推理を実証すべく、総力を上げて取材を行いたいと考えています。先ずは、犯行現場の神社の歴史について、番組で独自に調査を行うことにしましょう。では、ここでちょっとコマーシャルを」と生首事件のニュースを締め括った。
生首事件の報道の後、暫くニュース報道が続き、スポーツ情報、芸能情報、生活情報のコーナーがあり、サタデー・ホットラインの放送は終了した。
放送が終わると、総合司会の宮崎が出演者やスタッフ一人一人に丁寧に挨拶をして回る。宮崎は長身でイケメン、アナウンサーらしくウィットに富んだ話術を駆使し、一瞬で相手を魅了してしまう。宮崎はそんな男だ。生真面目そうに見えるが、なかなかの野心家だ。宮崎には独立の噂が絶えなかった。
テレビ・カメラに正対する位置に横長のコメンテーター席が設置されている。宮崎を横目に、西脇が鬼牟田圭亮に近づいて来た。「先生、今日のコメント、良かったですよ。なかなか意味深でした。視聴者も興味を持って聞いてくれたでしょう」
圭亮が立ち上がる。「そうですか?ありがとうございます」
「今回の事件は神社の歴史に関係している訳ですね。神社の歴史を調べてみましょう。最も、調べるのは我々であって、宮崎じゃありませんけどね」西脇の皮肉が飛び出す。




