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生首の神饌  作者: 西季幽司
第四章「死者からのメッセージ」
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幕切れ④

 そう言えば初めて瑠璃子に会った時、足を引きずっていた。あれは碇屋恭一に突き飛ばされた時、足を挫いたからだったのだ。

「後藤さんは恭一の生首を拝殿に供えると胴体を持ち去ったのですね。しかし、一刀のもと、首を切り落とすなんて、後藤さんは相当な腕前ですね」

「後藤は柔道、剣道、空手の有段者です。鹿児島の生まれで、剣術は示現流を学んだようです」

「示現流に二の太刀はありません。一の太刀に全て込めます。ああ、そうか。一の太刀を繰り出す時に怪鳥の鳴き声のような掛け声を上げます。その声を宝来宗治さんが聞いたのですね?」

「正直、宝来宗治の殺害については、まだよく分かっていないのです。瑠璃子さんは、私がやりましたと自供しているのですが、女性に壁越しに人の体を串刺しにすることなど、とうてい、不可能です。しかも、証言があやふやで信用できません。宝来宗治の死亡推定時刻に家にいたことは、通いの家政婦が証言しています。恐らく後藤の単独犯だと思われます」

「後藤さんは何と言っているのですか?」

「美嶽瑠璃子さんが自首したことを知った後藤の反応が凄まじかったのです。取調室が壊れるくらい大暴れしたかと思うと、あの野獣のような男が人目も憚らずに大声で泣き出しました。事件について、全ては自分がやったと、こちらも自供しています。ただ、あの通り、口下手な男ですから理論騒然と話すことができません。自分がやった。瑠璃子さんは関係ないの一点張りです」

「お互いに犯行を自供している訳ですね。後藤さんは瑠璃子さんを守るために必死だった。今、彼は瑠璃子さんを守ることができなかことを、警察に自首させてしまったことを後悔しているのでしょう。全てを背負うつもりだったのに。では、宝来宗治の事件について、僕の推理をお話しましょう」

 圭亮がすっかり冷たくなったコーヒー・カップに口をつけた。西脇は「僕が煎れなおして来ましょう」と言いかけて慌てて口を噤んだ。

 会議には出ていないことになっている。

「宝来宗治はあの夜、坂下の酒屋まで酒を買いに行き、帰り道、動物の咆哮に似た不思議な声を聞きました。鳥の鳴き声だろうくらいに考えたのでしょうが、その夜に神社で碇屋恭一が殺害されたことを知り、示現流の掛け声を思い出した。そして、碇屋恭一殺しと後藤さんを結び付けた。どこかで後藤さんが示現流の鍛錬をする姿を見たことがあったのでしょうね。それだけではありません。直樹氏が宗治を残して家出したことに納得が行かなかった宗治は、碇屋恭一の殺害と美嶽瑠璃子さんを結びつけて考えた。直樹氏の実の母親が瑠璃子さんだということを知っているのは宗治だけです。彼だけが想像できた」

「宝来宗治は美嶽瑠璃子さんを強請ろうとしたのでしょう」

「そうだと思います。怖かった美嶽家の先代はもういない。何も知らない貴広さんに全てを話すと言えば、いくらでも金は出すと思ったのでしょう。たまたま瑠璃子さんが会社に行って不在だった。後藤さんは適当なことを言って宗治を追い返した。後藤さんはこの先、美嶽家の疫病神となりそうな宗治を放ってはおけないと思った。後藤さんは槍を持って一人で屋敷を抜け出すと宝来家へ向かった」

「流石に日中、槍を持って出歩くと人目に付くと思ったのでしょうね。山の中をかけて宝来家へ向かったようです。その姿を弘中俊文に目撃されています。彼はまた天狗に会ったと言っているようですが」

「天狗少年ですね。彼も天狗の正体が後藤さんだということに気が付いているはずです」

 圭亮の言葉に生長が頷く。「時間的に後藤が宝来家を訪ねたのは碇屋象二郎が宝来宗治を訪ねた直後のようです。宝来家に着いてみると、碇屋象二郎がいる。見えない場所で成り行きを見守っていると、宝来宗治は居留守を使って象二郎を追い払った。家にいることが分かっています。象二郎が去った後、宝来家を訪ねる。象二郎が戻って来たと宗治は警戒したでしょう。俺だ。金を持ってきたと言って、ドアを開けさせた」

「そして殺害されたのですね」

「鬼牟田さん。宝来宗治がドアを開けるなり、後藤は槍を持って部屋に踊り込んだ。その姿を見て宗治は殺されると思った。慌てて逃げ出した。庭から逃げようとしたのでしょう。宗治の後を後藤が追う。庭のガラス戸に辿り着き、戸を開けて逃げようとしたが鍵がかかっていた。そう、碇屋象二郎に居留守を使う為に、ガラス戸に鍵をかけたのです。後藤は宗治に追いつくと首根っこを捕まえて壁へ投げ飛ばした。宗治が壁に張り付く。そこに渾身の力を込めて槍を突き出した。槍は宗治の薄い棟板を貫いて板壁に突き刺さった。現場の状況から、宗治殺害の様子はそんな感じだったのではないでしょうか。宝来家に槍を残して帰ったことが、随分、心残りだったようです。槍はどうなった?ちゃんと保管してくれと、後藤が心配していました」

「槍を残して帰らないと伝説が成立しませんからね。槍を残しておくことは、後藤さんにとって苦渋の決断だったことでしょう」

「結果的に後藤逮捕の証拠となったのが唯一と言って良い遺留品の槍でした。槍から指紋を採取できたのは鬼牟田さんのお陰と言って良い。ありがとうございます。後藤が槍を持ち去っていたら、犯人が後藤だということを示す証拠は見つからなかったでしょう」

「あれは西脇さんが見た夢のお告げです」

 どうせ、生長は夢のお告げなど信じていないのだろう。「さて」と話題を変えて言った。「鬼牟田さん。何故、後藤は碇屋恭一の胴体部分を持ち去ったのでしょうね。碇屋恭一の胴体部分は今も見つかっていません。後藤は碇屋恭を殺害したことを認めるものの胴体部分をどこに隠したのか白状しません。どうにも理解できません」

「ふ~む」と圭亮が考え込む。ややあって、「ひとつは美嶽瑠璃子さんが付けたドスの傷跡を隠したかったからでしょう。非力な女性の力では碇屋恭一に致命傷を与えることはできなかった。だから日本刀で首を切断した。胴体に首を切断した刀とは違う傷跡が見つかれば、犯人が二人いたことが分かってしまうかもしれなません。後藤さんはそれが怖かった。犯人は自分一人で良かった」と答えた。

「それは分かります。美嶽瑠璃子さんが自首した今となっても、後藤は碇屋恭一の胴体を何処に隠したのか言いません。何故でしょうね?」

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