幕切れ①
サクラ・テレビの会議室でビデオ会議が開催された。
浅井と約束した生長を交えての情報交換だ。結局、ビデオ会議が開かれたのは、週末のサタデー・ホットラインの放送が終わり、翌週になってからだった。圭亮の話によると金曜日の午後に須磨がマンションを訪ねて来て、捜査状況を教えてくれたということだった。
ギブ・アンド・テイク、圭亮の推理で捜査に進展があれば、須磨は捜査状況を教えてくれることがある。だが、テレビで放送できる内容は須磨により制限される。実際、週末の放送でも「警察発表以外の情報を放送するのは止めて頂きたい。まだ捜査が終わっていません。山口県警の捜査に支障が出るようなら公務執妨害に問われる可能性があります」ときつく言われていた。
圭亮以上に世間ずれしている西脇だ。須磨の忠告を無視して、現時点で圭亮が抱えている捜査機密をすっぱ抜けば番組が世間の注目を浴びることは分かり切っていた。その効果は如実に視聴率に現れるだろう。だが、それは一時的なものだ。
ここで警察に恩を売っておけば、長期的な友好関係を構築できる。圭亮を通して捜査情報を得ることができるようになるはずだ。大事なのは、他局に先んじて特ダネを流すことだ。一日でも良い。他局を出し抜くことができれば、それだけで視聴率は跳ね上がる。泣く泣くそう判断して週末の放送では圭亮が掴んだ情報をリークすることを見送った。
ただ、元は取っておきたい。
圭亮の出張旅費を負担しているのはサクラ・テレビだ。会議室に置かれたパソコンの画面には圭亮だけが映っていたが、会議室の隅には西脇がいた。カメラの死角になるようにビデオ会議に参加して会話を聞かせてもらっていた。
「それくらい、多めに見て下さい。大丈夫です。一言もしゃべりませんから生長さんたちには分かりませんよ」と嫌がる圭亮を押し切った。
新幹線の中で、ざっとだが圭亮の推理は聞いていた。だが、詳しいことが分からない。今日はその点がクリアになるはずだ。
「鬼牟田さん。お久しぶりです。色々、お世話になりました」生長の言葉で会議が始まった。「どう進めましょうか?」
「鬼牟田さんにお任せします」
「では、先ず、僕が推理した今回の事件の全容を時系列に沿ってお話します。訂正や補足があればお願いします」
「良いですね。お願いします」
圭亮は大きく頷いてゆっくりと話し始めた。「事件の発端は宝来直樹氏の失踪でした。宝来直樹氏が実は宝来宗治さんと美嶽瑠璃子さんの間に出来た子供だった。そのことが事件の遠因になっています」
一昨日、美嶽瑠璃子が連続殺人事件の実行犯として自首して来た。圭亮の予言が見事、的中した訳だ。現在、柳井警察署で取り調べ中が行われている。
こうして、世間を騒がせた生首村の連続殺人事件は幕切れを迎えたのだった。
生長が早速、補足をする。「美嶽瑠璃子さんの供述によると、大学一年生の夏休みに実家に帰省した際、年老いた両親のことが心配になり、神社に両親の健康を祈願に行きました。美嶽家は山申神社の禰宜を起源としていますから山申神社にお願いすれば先祖のご加護があると思ったそうです。ご存じの通り、日中でも人気の無い神社です。こっそり後をつけていた宝来宗治に襲われ、そして子供を身籠ってしまったということです」
「そういう事情があったのですか・・・」
「妊娠が分かった時には、既に中絶は無理だったそうです。当時の美嶽家の当主、真治氏は瑠璃子さんの妊娠を知り、そして相手が宝来宗治だということを知って烈火の如く怒ったそうです。美嶽真治氏の実家は、もとは宝来家の小作農です。宝来家には積年の恨みがあった。宝来家に押しかけた真治氏は宝来宗治を殴り続けたそうです。瑠璃子さんが必死に止めに入りました。怒りのおさまらなかった真治氏は宗治に向かって宝来家の血を美嶽の家に入れることなど絶対に許さない。生まれてくる子供はお前が育てろと言い渡したそうです」
「瑠璃子さんは、どういう経緯であれ、授かった子供を降ろしてしまうことができなかったのでしょうね。それで中絶が無理な時期になるまで父親の真治さんに妊娠のことは話さなかったのではないでしょうか」
西脇は瑠璃子の意思の強そうな顔立ちを思い出した。
「お腹が目立ち始めるようになると学校を休学して子供を出産しました。産まれた子供は直ぐに宝来宗治に預けられ、宗治は鬼牟田さんが大阪でお会いになられた木村由希子、旧姓は梅本というそうで、梅本由希子と結婚した。宗治と瑠璃子さんの子供、直樹氏を育てるために、美嶽真治氏が二人の結婚を仕組んだことは鬼牟田さんのご推察通りです」
「僕の推察ではなく、木村由希子さんが言っていたことです。僕の推察を続けましょう。宝来直樹氏の出生の秘密は守られたままでしたが、ある日突然、直樹氏が失踪しました。これが今回の一連の殺人事件の発端となった訳です」
「宝来直樹氏の失踪事件についても、美嶽瑠璃子さんから供述が取れています。町に遊びに行った奈保子さんが、帰りのバスでたまたま直樹氏と一緒になりました。もともと顔見知りです。仲も良かった。バス停に迎えに行った瑠璃子さんは二人が一緒にいるのを見て焦りました。デートをしていたと勘違いしたのです。世間では直樹氏を奈保子さんの花婿候補などと言いはやしていましたが、二人は腹違いの兄妹です。二人を結ばせる訳には行かない。バス停が港にあることから、運悪く、碇屋恭一も二人を目撃していました。碇屋恭一は宝来直樹氏に出し抜かれたと勘違いしたようです」
「不幸な偶然が重なった訳ですね。奈保子さんは直樹氏のことを、どう思っていたのでしょうね」
「それは分かりませんが、心配になった瑠璃子さんは翌日、宝来直樹氏に電話をかけた。話があると言うと仕事が終わってからお邪魔すると答えました。瑠璃子さんは後藤さんに頼んで、直樹氏が勤める役場に迎えに行ってもらいました。美嶽家に来てもらい、瑠璃子さんは直樹氏に美嶽家と宝来家は過去の因縁があって、奈保子さんとの交際は認められないと告げました。それを聞いた直樹氏は悲しげな笑顔を浮かべて、分かっています。僕と奈保子さんの間には何もありません。昨日は偶然、バスで一緒になっただけです。僕は母に捨てられた子です。奈保子さんに相応しい訳がないと答えたそうです」




