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生首の神饌  作者: 西季幽司
第三章「動機なき殺人」
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忖度、勘違い②

「車を出たところに立っていたとすると、道の真ん中に立っていたことになりますね」

「運転席の窓を開けて見送れば十分だったでしょう? 坂が反対側ならともかく、車を出る必要はなかったのではないでしょうか」

「その辺、主婦に確認してみましょう」

 俯瞰的演繹法という、自らネーミングした推理手法を得意とする圭亮は物事を推理することは得意だが観察することは苦手だ。細かく観察するより、ざっと位置関係を把握することで推理を展開する。一通り位置関係を確認すると斎藤家へ向かった。

 斎藤家は東野家から農道をさらに一キロほど行った場所にあった。

 斎藤由美子は縦と横が同じに見える小柄で小太りの主婦だった。顔も丸顔、しかも丸眼鏡をかけているので全身、丸い印象だ。玄関先でインタビューをすることになった。脇にサボテンが置いてあって、「おや、サボテンですね~」と圭亮が触ろうとすると、「それ、造花なんですよ~貰い物だったんですけど、造花だって全然、気が付かなくて、大きくな~れって、何年も水をやっていたんですよ~はは」と言ってケラケラと笑った。

 明るい女性だ。

「東野正純さんを目撃した時のことを教えて下さい」

 西脇の言葉でインタビューが始まった。

「あの日のことですか~前の晩に娘から、最近、お夕飯、スーパーのお惣菜ばっかり。手抜きだって言われちゃって~いいのよ。食べたくなければ食べなくても~って言ったけど、娘の言う通り、最近、ちょっと面倒で手を抜いていたのは事実だったの。旦那は黙々と口を動かし続けるだけだから腕の振るい甲斐がないし。それで、いいわよ~明日は、あんたの好きなデミグラソースのハンバーグを食べさせてあげるよ~と娘に見得を切ってしまったの」

「それで?」

「丸正で食材を買い揃えた後、家に帰ろうと車を飛ばしていました。国道から農道に出て一本道です。ご覧の通りの田舎でしょう~道の両側は田圃ばかりで、人が飛び出してくることなんてありません。買い物に時間がかかり過ぎちゃって~辺りが薄暗くなり始めていました。運転はあまり得意ではありませんが、ちょっと飛ばしても大丈夫かな~と思ってアクセルを踏み過ぎちゃいました」

「それで?」話が長い。語尾を伸ばす癖があるようだ。

「農道の先に黒塗りの高級車が停車しているのが見えました~丁度、丁字路の箇所に停められていて、坂を登ると東屋の屋敷があります。東屋を訪ねてきたお客さんが丁字路に車を停めたのでしょう。たまに車が停まっていることがあるのです。車線を塞ぐように停車してあるので、対向車線に出て追い越すしかありませんでした」

「それで?」何とか話を巻こうとする。

「停車した車の横に、緑色の服を着た人が立っていました。黒塗りの高級車に緑色の服と言えば美嶽家の後藤さんだ~って直ぐに分かりました。うちは弟が美嶽セメントで働いていますし、夫の会社も美嶽セメントの下請け会社ですからね~美嶽家とは浅からぬ縁があります。いえ、狭い町ですから、町民の半分は美嶽セメントの関係者と言っても良いでしょう。後藤さんが誰かを連れて東屋を訪ねて来たのだと思いました」

「それで?」なかなか話が進まない。

「危ないなあ~って、車をぶつけないように、追い越しました。あの辺りは見晴しが良い場所ですし、車の量も少ないですからね。対向車はいませんでした。後藤さんが道路に立って東屋の方を見ていました。視線の先に坂道を登って行く正純さんがいました」

「東野正純さんが坂を登って行くのを見たのですね?」

「はい。見ましたよ~」斎藤由美子が答えると、「すいません。ちょっと良いですか?」と圭亮が口を挟んだ。

「あら? さっきから思っていたのですが、あなたのお顔、どこかで見た記憶がありますの」

「はあ。たまにテレビに出ていたりします」

「あら? 芸能人なの? 俳優さん――じゃないわよね? 歌を歌っているの?」

「いえいえ。ニュース番組に出ています。ところで、後藤さんは何処に立っていました? 道の中央ですか? それとも路肩ですか?」

「何処って車を出てドアをしめて、そこに立っていましたよ~そこで東屋の方を見ていました」

「道の中央に立っていた訳ですね。危ないな」

「そうなのです~怖い、怖い。でも、まあ、対向車がいませんでしたから大丈夫でした。私~安全運なのですよ~」

「東野正純さんが坂を上って行く姿を見たとおっしゃったそうですが、正純さん、どんな格好をしていましたか?」

「格好? そうですね~背広を着ていたんじゃないですか~背広の上下をぴしっと着て歩いていたような気がします。夕方で暗くなりかけていましたからね。どんな色をしていたのかって聞かれると、正直、よく覚えていないのですけどね~いや、ちょっと待って。黒っぽい服だったような気がします。そうそう。だから、よく見えなかったのよ」

「東野正純さんは黒の背広の上下を着ていたと。そうですね?」

「そう言われちゃうと、自信がないかなあ~黒っぽい服だったと思うの。だから背広だと思っちゃったんだと思う。コートを着ていたのかな~」

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