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生首の神饌  作者: 西季幽司
第三章「動機なき殺人」
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忖度、勘違い①

 美嶽セメントに到着すると、生長に呼ばれて圭亮がいなくなった。

「さて、今日の取材予定を確認しておきましょう」

 西脇が言うと同時に、菊本が「コーヒーを煎れて来ます。砂糖とミルク、要りますか?」と言って会議室を出て行こうとした。

「悪いね」、「いつものやつ」と今度は西脇と藤代が同時に答える。

 菊本がコーヒーを持って戻ると、「東野正純の姿を最後に目撃した主婦の話を聞いてみてはいかがでしょうか?」と藤代が言った。

「ああ、良いですね」

「他に取材したいところはありませんか?正直、何もなくて」

「昨晩、美嶽社長から宝来宗治の叔母が町にいると聞きました。例の刀と槍について、何か知っているかもしれません」

「分かりました。調べておきます。しかし、西脇さん。何時までこちらで取材が出来そうですか?」

「取材先が無くなってきましたし、これ以上、動きがないようなら、現地取材を続ける意味はないでしょう。今日一杯、様子を見て判断します」

「そうですか。折角、鬼牟田先生と西脇さんに足を運んで頂いたのに、力不足で、何か申し訳ありません」

「藤代さんが謝ることはありませんよ。強いて言えば、未だに事件を解決できないでいる鬼牟田先生のせいでしょう。はは」

「そんなこと言うと、鬼牟田先生が可哀そうです。警察が解決できない事件を、ちょっと現地で見聞きしただけで、解決しろというほうが酷です。そんな急には事件を解決出来ないでしょう」

 西脇はにやりとしただけで何も答えなかった。

 一時間ほど、圭亮は帰って来なかった。待ちくたびれた頃、「お待たせしました」と例のごとく、コーヒーを片手に会議室に戻って来た。

「先生。何か新しい情報がありましたか?」

「警察では例の不審者について調べているようです」

 碇屋象二郎は恭一が殺害された日の夕刻、港で兄と話し込んでいた見知らぬ男を目撃している。

「ああ、あの不審者ですか。何か分かったのですか?」

「今のところ、それらしき人物は浮かび上がっていないようです」

「不審者の情報が集まらなかったのですか?」

「いえ、それが、逆に意外に情報が集まったものですから、ひとつひとつ確認して行くのに手間取っているようです」

 陸の孤島のような町とは言え、実際に孤立している訳ではない。住人以外の人間が少なからず町にやって来る。余所者は目立つ土地柄なので、聞き込みをすると、結構な数の不審者情報が集まった。それをひとつひとつ裏を取って確認して行く。大変な作業だ。「不審者を見たという情報があって確認してみると、保険の勧誘員だったりしたそうです。他にも、日中、神社の近くで怪しい人物を見たという証言がありました。碇屋象二郎さんの話では不審者は黒い服を着ていたということでしたが、その人物は赤茶色の上着を着ていたそうです。象二郎さんが不審者を見たのは夕方です。黒っぽく見えたのかもしれないと聞き込みを行ったところインターネットの勧誘員だったそうです」

「警察も大変ですね」

「そうなのです。このインターネットの勧誘員、胡散臭いところのある人物で、パソコンに疎い老人を騙してインターネットに加入させ、歩合を稼いでいるふしが見受けられるようです。聞き込みを行っている時に、偶然、その人物を見つけ、職質をかけたところ、碇屋恭一さんが殺害された日の昼間、町でインターネットの勧誘をやっていました。ですが、港には行っていないし、碇屋恭一さんにも会っていないと証言しています。午後の四時過ぎに、柳井にある会社に戻ったことも確認できています」

「それはご苦労なことですね」そう口ではいいながら西脇は不審者の話に興味を失ったようだ。「さて、それじゃあ、先ずは目撃者の主婦から話を聞きに行ってみましょうか」

「主婦? 誰から話を聞くのですか?」

「さあ、行きますよ~」西脇は圭亮を引きずるようにして会議室を出た。圭亮は「あっ! まだコーヒーを飲み終わっていません」と悲しそうな悲鳴を上げた。

 名前を斉藤由美子と言った。

 夕食の買い物を終え、愛車を飛ばして帰宅途中に、東野家の坂を上って行く正純の後ろ姿を見たと言う。待ち合わせの斎藤家に向かう途中、東野家の前に車を停め位置関係を確認した。

 圭亮を先頭にぞろぞろと車を降りる。

 二車線の農道が分岐した坂の上に東野家はあった。一段、高い場所にあることから、かつてこの辺りを支配した一族の家であることが分かる。辺り一面、田畑から山まで東野家の持ち物だ。白塗りの塀で囲われた巨大な民家で、農道から分岐した坂は東野家の門前で行き止まりになっている。

 圭亮が辺りを見回しながら言った。「後藤さんはここに車を停めていた訳ですね」

 後藤が車を停めたであろう場所にワゴン車を停めた。東野家に続く坂道と農道が交わる丁字路に車を停めたようだ。

 美嶽家からやって来ると、車を停めた場所から運転席側、対向車線を挟んで坂道が東野家に伸びている。

「ここに車が駐車してあると、一旦、対向車線に出て追い越さなければなりませんね。美嶽家で体調を崩して休んでいた訳ですから、後藤さんは車を出て正純さんが家に帰るのを見送っていた。どこに立っていたのでしょうね」

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