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生首の神饌  作者: 西季幽司
第三章「動機なき殺人」
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長福寺④

「調べます」菊本の出番だ。携帯で何処かに電話をする。例の友人だろう。ボランティアの正体は直ぐに判明した。ご当人が東野正純の遺体を発見したと触れ回っており、町中の人間が知っているということだった。

 意外なことに東野正純の第一発見者は碇屋家の関係者だった。漁師の一人、松尾恒夫。

「最近は船に乗っていない」と言うことで自宅にいた。話を聞きたいと言うと、「いくらかもらえるのか?」と聞き返された。

「金に困っているようです」

 僅かばかりの謝礼で松尾は会ってくれることになった。

 海岸沿いを国道が走っているが、港を過ぎた辺りにドライブインがある。待ち合わせ場所としてドライブインのレストランを指定された。

 車を飛ばしてドライブインに行くと、松尾が来て待っていた。四十代だろう。日に焼けた漁師を想像していたのだが、無精髭を伸ばし、小太りで赤ら顔の中年男性だった。体格は良い。酒屋の親父といった感じだ。

 西脇たちが着いた時には、もう酒とつまみを注文して一杯やっていた。

 藤代がインタビューの様子を録画して良いか尋ねると、「勘定を持ってくれるなら良いよ」と応じてくれた。

「最近、船には乗っていない」と松尾は言った。

「海に出ていると陸が恋しくなるものだが、俺の場合は山だな。山が恋しくなる。山によく行くので山菜に詳しくなった。山菜採りが趣味でね。山に詳しい人間が必要だって聞いて、山狩りに参加した。弁当が出るって聞いたからな。七草粥は過ぎたけど、あの辺りはナズナが採れる場所だ。あそこへはよく行く。行ってみたら木の枝から妙なものがぶら下がっているじゃないか。東屋の三男坊だって気が付いたのは随分、後になってからだ」

 東野正純の遺体発見時の状況については目新しい話はなかった。だが、「碇屋の坊ちゃんが殺されて、宗治の仕業じゃないかと思っていたら、あいつまで殺されて、ざまあみろだ」と言い出した。西脇の目の色が変わった。

「宝来宗治さんと碇屋恭一さんの間で、何かトラブルがあったのですか?」

「いや。恭一坊ちゃんは関係ない。むしろ俺かな。宝来宗治とトラブルになっていたのは」

 宝来家と碇屋家は、代々、つかず離れずの関係を維持してきた。一方は農地を支配する富農として、また一方は漁師を束ねる網元として村の権益を守り続けてきた。利害が直接、対立することがなかったので、お互い干渉することがなかった。

「何があったのですか?」

「もう十年以上も前の話になる。嫁はんに逃げられてから、あのエロ親父、寂しくなったのか俺の妹に手を出しやがった」

 松尾の妹は港付近にある弁当屋に勤めていた。宗治に料理など出来ない。ほとんど毎日、弁当屋を利用していた。宅配などやっていないが、宝来家は町の名家だし、男やもめで子供を抱えて苦労していることが分かっていたので、特別に弁当を配達することにした。

 弁当を配達していたのが松尾の妹だった。

「弁当を届ける内に話くらいするようになった。あの野郎。それを気があるとでも思ったのか、弁当を持ってきた妹を手籠めにしやがった。妹から話を聞いて、あいつをぶっ殺してやると思った。宝来家に乗り込もうとしたが、仲間に止められた。まだ子供が小さかったからな。あんたが刑務所に入ったら、家族の面倒を誰が見るんだ。そう言われちまった」

 松尾はいかにも残念そうな顔をした。どうだろう。わざわざ周りに話したということは、止めてもらいたかったのかもしれない。

「信雄さんが騒ぎを聞きつけて――」信雄とは碇屋信雄のことだ。碇屋恭一、象二郎、美羽の父親だ。「最近はすっかり萎れてしまったが、当時は血気盛んな人でな。港の狂犬って呼ばれた。信雄さんは宝来家に乗り込むと、どう責任を取るんだって宗治に詰め寄った」

 宗治は双方合意の上だったと弁解したが、「あの子は無理矢理、犯されたと言っている! 慰謝料を払え!」と要求した。

「宝来宗治さんは慰謝料を払ったのですか?」

「あいつに慰謝料など払える訳がない。当時、宝来家が持っていた港近くの猫の額ほどの土地を格安で妹に売り払うことで決着がついた。信雄さんの仲裁だ。顔を立てて、こちらも幾らかは金を払って土地を買った。港に近いと言っても傾斜地で造成しないと耕地にも宅地にもならないような二束三文の土地だ。信雄さんの仲介じゃなきゃあ、欲しくもなかった。宗治にとっても文句はないはずだった」

 宝来家の土地は、ほとんどが美嶽家に買収されていた。港近くの土地は美嶽家が興味を示さず、宝来家の所有のままになっていたのだ。

「へえ~その土地はどうなったのです?」

「はは。それがここよ。運よくドライブインを作る話が持ち上がって、うちが持っていた土地と碇屋の持っていた土地を合わせて売った。信雄さんのお陰だ。あの時は儲かった。ここもオープン当初は結構、賑わったんだよ。国道を利用する人や町の人間も通って来た。それが今じゃあ、さっぱりよ。飽きられたみたいだ」

 確かに店は閑古鳥が鳴いていた。

 運よくこの土地が売れたとは信じられない。ドライブインの建設計画があることを知った碇屋信雄は松尾の妹を使い、色仕掛けで宝来宗治から土地をダタ同然の値段で巻き上げた。そして自分の土地と併せて売ったのではないだろうか。

 当然、宝来宗治は騙されたと思ったようだ。

「宗治のやつ、うちと碇屋の土地にドライブインが出来たことを知ってから、碇屋に分け前を寄こせとやって来た。勿論、門前払いだ。すると、あいつ、顔を真っ赤にして、覚えていろ!何時か復讐してやると息巻いていた」

 松尾はケッケと笑った。

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