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生首の神饌  作者: 西季幽司
第三章「動機なき殺人」
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長福寺③

「はい。妹さんやあなたのご両親は、あなたが帰って来るのを待っています。漁協の人たちだって組合長を失って困っています。皆、あなたを待っているのです。奈保子さんだって、そうかもしれませんよ。この町で彼女を守れるのは、もうあなただけじゃありませんか?」

「俺?」象二郎は驚いた顔をした後で、「ああ、そうか。そうだな」とひとつ頷くと「ありがとよ。俺、帰るわ」と言って踵を返すと西脇の横をすり抜けて歩いて行った。


「また一人、容疑者が増えましたね」

 背後から声をかけると、圭亮がゆっくりと振り返った。「西脇さん。聞いていたのですか?」

「東野正一。例えば弟に代わって、彼が奈保子さんの花婿候補になりたかったのだとしたらどうです? 何時までも昔の女と別れない。このままでは美嶽家の婿は碇屋恭一で決まってしまう。カッとして弟を殺してしまった。そして、弟の代わりに自分が美嶽家の婿になろうと思い、碇屋恭一を殺した。その際、何かを見られたので宝来宗治を殺した」

「ああ、なるほど。でも、首を切り落としたり、槍で串刺しにしたりする必要はなかったのではないでしょうか?」

「それは生首伝説に沿って殺人が行われていることを印象付けるためです。そう考えると、碇屋象二郎だって怪しい。自分が奈保子さんの花婿候補になりたかったのでは?」

「そうですね~そもそも東野正一さんは独身なのでしょうか?」

「ああ、そうか。正純とは年が離れているようなので、結婚しているかもしれませんね。じゃあ、ダメかな」

 二人のもとに藤代がやって来た。「さて、どうしましょう。狭い町ですから、見て回るところもありませんし。生首の第一発見者だったら、取材したことがあるので連絡先が分かりますよ。会って話を聞いてみますか?」

 他に行くあてがない。生首の第一発見者に会うことになった。

 山申神社の鳥居の前で、兼清と福田という二人の老人を落ち合った。同じように白髪で皺だらけ、老人の年は分かりにくい。同年代に見えた。肉付きの良い方が兼清で痩せてガリガリな方が福田だ。

 録画の許可をもらいインタビューが始まる。藤代がマイクを握る。

 二人は早朝の山歩きを日課にしていると言う。六時にここ、山申神社の鳥居の前で落ち合い、神社にお参りをしてから境内で準備運動をする。体をほぐし終わると、参道から大笠山に続く山道を、ゆっくりと時間をかけて登って行く。

「今の時期なら、三本松に着く頃に大笠山の背後から朝陽が登って来る。朝日を拝んで下山するのが、わしらのローテンじゃ」ルーティーンのことだろう。日課だと言いたいのだ。

「まだまだ日の出が遅くて、辺りは真っ暗じゃった。吐く息が白くてな、今日は良い天気になりそうじゃと言っておった」

「途中、坂のきついところがあるが、大笠山はなだらかな山じゃ。道路が舗装されていて、年寄りの足でも無理なく登り降りすることができる」

 二人交互に脈絡のない話を続ける。「それで、神社の境内で生首を発見したのですね?」

「見た」、「えらいことじゃった」

「詳しく教えて頂けませんか?」

「朝、ここで会うて、おはようさん。えらく冷えますなあ。今日は良い天気になりそうでと挨拶を交わしてから、神社の階段を登って行った。山歩きの一番の難所はこの神社の階段かもしれん。他に、この階段より息が切れる場所はない」

 よくしゃべる。似たような老人だ。どちらが兼清で、どちらが福田か分からなくなってきた。

「階段を登ると境内で息を整えた。先ずはお参りじゃ。お参りをしてから準備体操じゃ。境内は真っ暗じゃった」

「今日は良い朝陽が拝めそうじゃと言っとった」

「拝殿に近づいて行った。最初は暗おうて気が付かなんだ。賽銭箱の手前に供え物がしてあるのが見えた。最近は、信心深いものが減ったからな。お参りの人間なんて減る一方じゃ。供え物を見ることなどほとんどない。お供え物とは珍しいと思った」

「スイカに見えた。冬場にスイカは変じゃけど」

「よく見ると人の生首じゃった。驚いて腰を抜かした」

「福さんの悲鳴で、わしもびっくりした」

「本当に腰が抜けるもんだな。腰に力が入らなくて、へたりこんだ」

「福さん。這って逃げたな」

「清さんだって、走って逃げたじゃないか。わしを置いて」

「はは。家まで逃げて警察に電話した」

「生首が碇屋恭一さんのものだと気が付きましたか?」

「そんな、じっくり見ている余裕なんてなかった」

「うん。暫く飯が喉を通らんかった」

 生首発見の様子については、特に目新しい情報は無かった。ただ「神社の境内で何時もと変わったところはありませんでしたか?」という質問に兼清が「変わったところ? う~ん。あっ!車、軽トラックが停まっとった」と答えた。

「軽トラック?」

「今井漁業共同組合の軽トラックよ。車が停まっていることなんて珍しいから、こんな早から誰か来とると思った」

 碇屋恭一が乗ってきたものだ。

 他に情報が無さそうだったので、二人に丁寧に礼を言って別れた。

「特に新しい情報はありませんでしたね」藤代が申し訳なさそうに言った。

「いえいえ。東野正純さんの遺体の第一発見者は山狩りに参加したボランティアだと聞きました。その方にも会って話を聞いてみたいのですが、会えますか?」

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