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生首の神饌  作者: 西季幽司
第二章「名探偵参上」
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女系家族②

「へえ~世の中、狭いね~」

「事件が起きてから、彼にはずっと友人と連絡を取り合ってもらっています。そういう理由で、今回、カメラマンとして連れて来ました」

「グッドジョブ~!で、人殺しって、どういうこと?」

「美嶽セメント内では、()()有名な話だそうです。社員なら一度は聞いたことがあるような。ちょっと気の毒な話です。過剰防衛というやつです」と言って、無口な菊本に代わって藤代が説明してくれた。

 過剰防衛と判断されることは珍しい。後藤猛は鹿児島生まれで、小学生の時に両親の転勤で横浜に移り住んだ。

「中学生の頃に両親が離婚し、その後、母親は再婚しましたが、よくある話で、継父と折り合いが悪かったようです。高校を卒業すると直ぐに川崎の工場に働きに出ました」

 工場勤めをしていた時に、うっかり同僚の借金の連帯保証人になってしまった。

「同僚が借金を抱えたまま姿を消してしまい、後はお決まりのパターンです。借金の返済催促が後藤のもとにやって来るようになりました」

「ふむ、ふむ」と西脇が頷く。

()()性質(たち)の悪い金融機関からお金を借りていたようです。見るからにヤクザな男が借金を取り立てに来るようになりました。後藤は貯金を下ろして借金を返そうとしたみたいですが、全然、足りなかった」

「本当、よくある話だね~」

「でも、ここからが、ちょっと違いますよ。取立てに来たヤクザに金は無いと言うと、ふざけるなと殴る蹴るの暴行を受けました。最初はじっと我慢して殴られていたようですが、それが太々しいと思われたのでしょうね。暴行は激しさを増した。このままでは殺されると思った後藤は反撃に転じ、何とそのヤクザをブチ殺してしまったのです」

「へえ~それはまた・・・・」西脇は絶句した。

「被害者は評判の悪いヤクザでしたし、正当防衛という線もあったようです。ですが、後藤は柔道、剣道、空手の有段者で、正当防衛は認められず、過剰防衛で二年の実刑判決をくらっています」

「人を殺しておいて二年ですか!」刑が軽いと思ったのだろう。「ところで、横浜出身の後藤が何故、ここに住んでいるのですか?」

「そこがまた面白い話なのです。刑期を終えて出所すると、後藤は自分を借金の連帯保証人にして行方をくらました会社の同僚を探し出そうとしました。心当たりがありました。同僚はかつて、山口県の今井町という町で親戚がセメント会社を経営していると言っていたそうです。そこで、今井町にやって来ると、果たして美嶽セメントという立派な会社がある。直ぐにここだと思いました。旅装のまま、後藤は美嶽セメントに乗り込んで来ました」

「あの外見ですから、会社の人は肝をつぶしたでしょうね」

「受付の女性は異常者がやって来たと震え上がったでしょうね。()()怖かったのでしょう。後藤は受付の女性に、借金の連帯保証人になった友人が、この会社の縁者だと言っていた。彼の行方が分からずに困っている。どこにいるのか知りたい。親戚に会わせてもらいたいということを説明しようとしたようです。ところが、女性は恐怖で震えあがっていた。口下手の後藤はしどろもどろで、借金、親戚、会わせろと喚き続けるだけでした。怖くなった女性が最寄りの職場に助けを求めて駆け込んだので大騒ぎになりました。男性職員が数人、駆け付けて来ましたが、後藤の野獣のような風貌を見て怖気づき、遠巻きに取り囲むだけだったそうです」

「だろうね~」西脇がうんうんと頷いた。

「丁度、瑠璃子さんが会社にいて騒ぎを聞いて駆けつけて来ました」

「美嶽の奥さんが?」

「瑠璃子さんは美嶽セメントの副社長でもあるのです。美嶽家の直系です。町の顔役でもあります。そうそう振袖祭りの執行役員を兼ねていて東野正純が美嶽家を訪ねたのは瑠璃子さんに会うためだったのです」

 東野正純が寄付を頼みに美嶽家に来たことは宮崎からの情報で知っていた。「それから後藤はどうなったの?」

「変質者だと、警察に通報しようと言う社員を押し止めて、瑠璃子さんは後藤に近づくと、あなたのお名前はと尋ねました。突然、お人形さんのような美人が目の前に現れて後藤は呆気にとられたことでしょう。後藤と答えると、どんなご用件でいらしたのと尋ねます。瑠璃子さんは会話を続けることで後藤をなだめようとしました。やがて、後藤が落ち着くと、来客用の椅子に座らせ、隣に腰を下ろしました。こうして、後藤が尋ねてきた訳を辛抱強く聞き出しました」

 あの奥さんだ。さもありなん。

「後藤が全てを説明し終わる頃、騒ぎを聞きつけて美嶽家の先代が駆けつけて来ました。真治さんです。当時、まだ存命で会長として睨みを利かせていました。玄関先で、何事だと開口一番、()()怒鳴りました。そして、騒ぎの中心にいる後藤に、受付は会社の顔だ。ここで騒ぎを起こすということは会社の顔に泥を塗るようなものだ。無礼千万、極まりないと一喝しました」

「突然、怒鳴られて、後藤はまた逆上してしまったのでは?」

「瑠璃子さんが先代をなだめ、後藤に代わって事情を説明しました。気は短いが道理をわきまえた人です。先代は直ぐに社員に指示を出しました。彼に借金の連帯保証人を頼んだ不届き者が会社の人間の親戚かどうか調べるようにと――」

「それで結果は?」

「人事部で調べたところ該当者はいませんでした。そこで先代が後藤に言いました。うちは町で少しばかり名の知れた会社だ。お前さんを騙すのに、うちの縁者を騙った不埒なやつがいたようだ。ところで、お前さん、その不届き者を見つけて、どうするつもりだったのだと――」

「本当、どうするつもりだったのでしょうね」

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